第七章99 閑話 契約の儀2
現在ソーテルヌ総隊精霊部隊は六名。
隊長:ラローズ
副隊長:ラモット
以下:ポート、エミリア、マルケ、リグーリア
となっている。
その中ですでに精霊と契約しているのが二人。
ラローズ:ウォーターエレメント
ポート:木霊
部隊としては一〇人程度の『分隊』にも満たない少人数だ。
だが天使戦でもその力を発揮したが、精霊魔法師は一騎当千。
一人いるかどうかで戦況を変えかねない貴重な戦力と言える。
普通の魔術師がただ精霊魔法を使う場合は、精霊を呼び出し、ほんの少しだけ力を借りる。
しかし精霊と直に契約することが出来れば、より強力な精霊魔法を普通の魔法と同じように自由に使うことが出来る。
精霊魔法は強力だが、その契約は困難を極める。
人族での精霊魔法師とは本来、魔法を極めた魔術師がさらなる高みを求めて精霊と契約するもの。
精霊は一度人と契約すれば、人のマナに溶け込み運命を共にする。
契約した人が死ねば精霊も共に消滅し新しい精霊として生まれ変わる。
この時人と共に得た経験によって格が上下する。
その為精霊は人との契約に慎重になり、人が無暗に契約しようとすれば人を殺す。
自分の命を他者に預ける形になるのだ、契約に慎重になるのも頷ける。
そしてソーテルヌ総隊の精霊魔法師を見ると……
熟練魔法師と言えるのはラローズだけだろう。
そのラローズでさえ、魔法を極めた者とは言い難い。
本来ならば精霊と契約する事は出来なかっただろう。
しかし、ソーテルヌ総隊の精霊魔法師たちは約二年間、このマナに満たされた好環境で、ウンディーネに呼び出された精霊の中から自分の相性に合った精霊を選び、一緒に過ごしてきた。
しかも精霊召喚宝珠によって精霊を扱う事により、精霊魔法師としての経験値と適正を格段に上げている。
普通は精霊と契約してからしか得られない経験を先取ってしている言わば反則環境だ。
今まで人族が行ってきた、魔法師が精霊を呼び出し、相性も試さず契約に臨んだ方法から考えれば環境は格段に良いと言える。
と言うよりも……
今までのやり方でよく契約出来た者が居るなと思えなくもない。
それは言わば、見ず知らずの女性をいきなり呼び出し、突然『俺と一緒に死んでくれ!』と結婚を申し込むようなもの。
よほどの変わり者以外は断るだろう。
熟練の魔法師と言うよりも、熟練のスケコマシでは無いかと思う。
そして今日は『契約の儀』を取り行う日。
ソーテルヌ総隊精霊部隊全員に任意の招集をかけている。
一週間前、この日精霊との契約を行う事を皆に話し、各自契約を実行するか一週間考えて貰っている。
今回の『契約の儀』に関しては強制ではない。
軍属として強制でなくてもいいのか? と異論もあるが……
精霊との契約は『戦場で戦って死んで来い』と言う類のものではない。
戦う前の事前準備で死ぬようなもの。
それはもし騎士ならば決して誉れある死とは言い難い、『無念』と考える者も居るだろう。
そして死の恐怖に打ち勝っていない者、精霊と絶対の信頼を築けていない者も契約を結ぶ事は難しいだろう。
もし強制的に従わせたところで、無理矢理自殺させる様なものだ。
集合時間の二〇分前。
まだ時間は早いがすでに精霊と契約済みのラローズ、ポートは来ている。
そしてラモット、エミリア、マルケも揃っている。
まだ来ていないのはリグーリアだ。
ラモットは俺達がサンソー村に居た時から一緒に訓練していた。
あの時も死を覚悟し訓練に参加し、ウンディーネの最後の決定で契約を断念した。
今もまだ人族の為に自分の命を懸けて精霊と契約する決意は揺らいでいないようだ。
その信念は尊敬に値する。
エミリアは去年魔法学校を卒業し、そのままソーテルヌ総隊に入隊した。
マルケは今魔法学校の最上級生、来年卒業後そのままソーテルヌ総隊へ入隊する。
二人共、俺が魔法学校に入学する日を待ち焦がれ、今でも精霊魔法師となり俺の下で働く事をずっと希望してくれている。
二人にとって今日は待ちに待った日と言えるのだろう、死ぬ可能性が有ると言うのにその顔にはためらいは微塵もない。
そしてリグーリアは俺と同じ歳、魔法学校でもあぶれ者のF組で俺と一緒だ。
彼女の生まれは王都からずっと西、ボーヌ王国の南に位置するオーメドックという港町。そこの宿屋の娘として育ったと聞いている。
平民の宿屋の娘が、ラローズ先生に精霊使いの力を見いだされ魔法学校に入学したのだとか。
たしかその当時、ラローズ先生は人族の天敵魔族軍カヴァ将軍を倒す為に、精霊使いを探し集める旅に出ていた時だ。
ソーテルヌ総隊精霊部隊で、ラモット、マルケ、リグーリアの三人が平民だ。
ラモットとマルケは俺と出会う前から、自分の生まれなど関係無しに精霊魔法師を目指す高い志を持っていた。
しかしリグーリアは二人とは少し違う。
最初から精霊使いを目指していた訳でもない、騎士道などまったく関係ない環境で育った本当にただの平民だった。
そのリグーリアに、死ぬ覚悟で契約の儀に臨めと言うのは酷な話だろう。
俺は今回、精霊部隊で『契約の儀』を辞退する者が居るならば、それはリグーリアだと思っていた。
そしてリグーリアは最近訓練には来ている様だが、精霊を連れて相性を高めている姿は見ていないと聞いている。
俺は精霊部隊、いや総隊員全員には言ってある。
もし『契約の儀』に辞退者が出たとしても、決してその者を貶める行為は許さないと。
そしてリグーリアが来ないまま、指定の時間となった。
「それでは時間だ。 これより『契約の儀』を執り行う!」




