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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章97 閑話 ララとククル6

 

【月龍に告げる! 我の鎖を受け入れ我の力となれ。 さすればいかなる呪詛を退け汝に自由を約束しよう】


 ≪――αλυσίδα(アリスィダ)(鎖)――≫ 

 ≪――πρόσκληση(プロスクリスィ)(召喚)――≫ 


 『月龍』はララの契約魔術を受け入れそして叫ぶ!


「我が名は月龍ククルカン! 契約に従いララの従属を受け入れよう」



 大勢のシャンポール王都の民衆、そして国王陛下が見守る中。

 勇者ララ・カノンによる月龍の従属契約が行われた。



 月龍はシャンポール王国に住む者ならば、誰もが生まれた時より語られる物語の龍、シューティングスターと恐れられた伝説。

『この世の中には決して触れてはならぬものが有る』と教え込まれる教訓でもある。

 シューティングスターを従属させることは、シャンポール王都に住む民の悲願。

 それを遂に勇者ララ・カノンが成し得たのだ。


 ララが月龍と従属契約するその姿は国中の新聞が描き、今後絵画となり、絵本となり、そして多くの人々が子を育てる時の童話として語り継ぐだろう。


 これほど多くの民衆に見守られ、讃えられた龍との契約は見た事が無い。

 まるで劇場演劇のクライマックスでも見ているようだ。

 瓦礫と化した闘技場で静かに行った、俺とファフニールの契約とはえらい違いだ。

 これが勇者としての資質を持っている……と言う事なのだろう。

 勇者と呼ばれる事を嫌うララは、いつの間にかどこの国の勇者よりも勇者になっていた。



 俺、ディック、ギーズがララの元へと駆け寄ると。

 月龍ククルカンが輝き出し小さくなった。

 ファフニールの時と同じだ。

 そして真白な羽毛を持つククルカンは毛皮の襟巻の様にララの首に巻きついた。


「おぉ! ララそれ……なんか良いな」

「フフ~ん 良いでしょ! ククルン可愛いでしょ?」

「ククルン?」

「月龍ククルカンだからククルン。 女の子だしカワイイと思って」


『あのシューティングスターと謳われたエンシェントドラゴンをククルンって……』と思ったのだが、月龍もまんざらでは無いようだから、まぁ良いか。


「まぁなんにしても、ララお疲れ様」

「おめでとう!」

「流石だララ!」


「みんな有難う~」


「それにしてもララ、お前の勇者としての名声はとんでもない事になってるぞ!」

「も~ディックやめてよ! 私そんなの好きじゃ無いの知ってるでしょ?」

「こんな大勢の前でこんな偉業を達成したら…… もう仕方ないよ」

「もぅ~ギーズまで~」


 俺達のねぎらいが終わると。

 大勢の友人、学生、先生までもが押し寄せて来た。

 その中には妹のルルと俺の弟ダルシュも涙ぐんで駆けつけていた。


 その人波が一段落した所で、シャンポール陛下がねぎらいに来てくれた。

 そして(かしず)くララに陛下より、後日王城にて褒賞授与式と祝勝の舞踏会を取り行うことを告げられた。

 これでまたララはディックとギーズに先んじて爵位が上がるのだろう。




 一段落したところで俺は地形が変わってしまったロワール平原北東盆地を見渡す。

 おれの後ろには、木霊と契約しているポートが控えている。


「今回はこのままにしておこう」

「良いのですか閣下?」

「今回はこのままの方が、民衆にとって良いだろう」


 普通ならこれだけ大規模な戦闘の爪痕は王都住民の心のケアの為、ドライアドを使い消しておくものだ。

 天使降臨の爪痕は消した。

 しかし今回はこのままにしておくことにした。

 勇者ララが(いにしえ)の龍シューティングスターと戦い、死闘の末人類史上初めて従属させた証。

 この地形が変わってしまった盆地を見れば、人々は勇者ララを語り、恐れていたシューティングスターが自分達の守護竜になった事を思いだすだろう。


「うん。 このままの方がシャンポール王国の伝説が一つ増える」

「はっ!」





 人族を守護するエンシェントドラゴンが増えた事は、人族にとっても大きな出来事。

 それもそのエンシェントドラゴンが、誰もが知るシューティングスターとなればそのニュースは各国にも響き渡る。

 その為、ララを称える褒賞授与式と祝勝舞踏会は各大国の来賓を招き盛大に執り行われた。


 褒賞授与式では予想通り、ララは『子爵』に陞爵(しょうしゃく)された。

 貴族としては中級貴族だが…… ララの名声は貴族位など関係ない。

 その名声を手に入れようと舞踏会では下級中級貴族はもちろん、上級貴族もララに色目を使ってきた。


 だがそこは自分が言うのもなんだが…… 俺がいる。

 俺とララが恋仲なのは社交界では誰もが知る暗黙の話だ。

 今日ばかりは舞踏会で俺は番犬の様にララの側を離れることは出来ない。


 ララを狙う貴族達の『お前にはフュエ王女も魔神族大使のラトゥールも居るだろ?』と言う視線が凄い……


 とは言っても…… 宮廷舞踏会とは貴族の社交の場。

 色恋沙汰は置いておくとして、俺がずっとララを囲い閉じ込めておくことも出来ない。

 ダンスの時間が始まれば、ララも貴族の責務として多くの貴族と踊る事になる。

 そして俺も他の貴族と踊らなければならない。

 だからララを狙っている貴族達は、この時間を狙ってくる。



 だがもちろん最初にララと踊るのは俺だ。

 ダンスは最初、同伴したパートナーと踊るのが礼儀となっている。

 そして俺とのダンスが終われば……


 次にララをダンスに誘ったのは意外な事に、シャンポール王国第一王子ミュジニ殿下だった。

 ミュジニ王子が何を考えているかは分からないが、ダンス相手の格としては最上位だ。

 ララのメンツが保たれた事は言うまでもなく、格下はおいそれと声をかけ辛くなった。


 しかしララとダンスを踊り始めたミュジニ王子の様子がおかしい。

 そう―― ララとダンスを始めたペアの男性はその時初めて気づくのだ。

 ララが着る舞踏会ドレスの襟元の豪奢な毛皮のトリミング……

 その毛皮がシューティングスターだと言う事に。


 ミュジニ王子が必要以上にララに顔を近づけた時――

 『ひうっ!』

 そんなミュジニ王子の声が聞こえてきた。


 ⦅グッジョブだ! ククルカン⦆



 舞踏会場(ボールルーム)にラストを告げる音楽が流れ始める。

 まだララと踊れていない者達の悲鳴が聞こえる。

 最後の曲を踊るのも同伴したパートナーの役目だ。

 ララとダンスを踊る為に順番待ちしていた貴族達から俺はララをさらい、最後のダンスを楽しむ。

 『やっと終わった』とララも安堵している。

 ダンスの間中ずっと色目を使われウンザリしていたようだ。



「ねぇディケム」

「何でしょ?」


「ククルンの試練の時、『シューティングスターは『月龍』、聖の属性から本来は戦闘を好む龍では無い筈だ。だから本気ではララを殺しに来ないと踏んでの作戦だよ』………って言ってなかったっけ?」 


「………へ!?」


「ごまかしてもダメよ! 私死んだと思ったんだから」

「ほんと悪かった。 だけどアレは――……」

「言い訳は要りません」

「はい……」


「お詫びはアールヴヘイムに二人で『埋もれ木』と『精霊虫入り琥珀』取りに行く事!」


「は、はい仰せのままに」







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