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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第二章 城塞都市・王都シャンポール
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第二章10 いにしえの魔術・精霊結界


 ラローズさん、ラスさんの説明が終わった後、ウンディーネが話し出す。


「さて、皆の者だいたい話は終わったかの?」


 ⦅さっきまでクレープに夢中だったウンディーネが、今さら威厳を出しても遅い⦆


「こらディケム、オヌシ今失礼な事思っていたな?」

「いえ、とんでもありません!」


 ⦅な…なぜバレた!⦆


「では関係者の者共よ、もう一度外に出るのじゃ!」


 指示に従い皆でぞろぞろと歩いていると……

 ウンディーネから念話が来た。


 ⦅ディケムよ、古本屋のオーゾンヌから貰った【いにしえの呪文書】結界の項を開くのじゃ⦆

 ⦅だいたい覚えています⦆

 ⦅ほほ~、ならばよろしい⦆


 ウンディーネの指示通り召使と軍の関係者がすべて庭に集まった。


「ゲベルツとやら…… この敷地に井戸は有るな?」

「はい、厨房裏にございます」


 執事のゲベルツが、ウンディーネに話しかけられて嬉しそうだ。


「よし、誰かその井戸から水を汲んでくるのじゃ。 それから火のついた薪も持って来い」


 『『はいっ!』』と召使達が言われた物をすぐに用意してくれる。



「それでは今から、この屋敷の守りとして水属性と火属性を使った(いにしえ)の大魔術『精霊結界』を行う!」


 『『『『えぇえええっ……!?』』』』 思いもよらない話に皆驚いている。


「この結界はディケムに敵意を持つ者、または結界の中に居る者に敵意がある者は排除される」


 ウンディーネが皆に説明している最中、俺への念話がくる。


 ⦅ディケムよ、これからやる事を簡単に説明する。 まずそこの『井戸の水』と『薪の火』を触媒に妾とイフリートを六柱ずつ出し、屋敷の周りに交互に等間隔で配置するのじゃ。 そしてマナを飽和状態まで注ぎ込み強化し『精霊結晶』を作り上げ『精霊結界』の柱とせよ。 細かい事はやりながら説明する⦆


 ⦅はい、ですが『精霊結界』用の柱作りになぜ触媒を?⦆


 ⦅念のためじゃ。 触媒があった方が顕現(けんげん)が安定する。 これから行うのは精霊の結晶化だけではなく、妾たちの顕現(けんげん)体を素体とし結界の柱・礎石(そせき)として定着させる。その為には大量のマナを使うからのぉ⦆


 俺はウンディーネの指示通り、触媒となる『井戸の水』と『薪の火』に念じてウンディーネとイフリートを呼び出す!


 すると突如――

 井戸水が入ったコップから大量の水が渦を巻き吹きあがりウンディーネが六柱顕現し、

 薪から天高く炎の柱が立ち昇りイフリートが六柱顕現した。


 使用人たちが目を見張る中、俺はウンディーネとイフリートを屋敷の周囲へと飛ばす。


 ⦅ディケムよ、井戸はマナの通り道に最適じゃ。常駐型の結界にするために井戸を利用するのじゃ、常に井戸からマナが供給され永続に結界が維持するよう構築するのじゃ⦆


 ⦅はい!⦆


 屋敷の周囲にはウンディーネとイフリートが交互に計十二柱等間隔に配置されている。

 屋敷の外から人々が(どよめ)く声が聞こえて来る。


「ディケム! 配置した精霊にマナを注ぎ込み結晶化させろ! 出来るな!?」

「はいっ! 頑張ります」


 俺は『大いなるマナの本流』から膨大なマナを吸い上げ、結界の柱用に飛ばしたウンディーネとイフリートにそれを注ぐ。

 大量のマナが流れ込むとウンディーネとイフリートの素体が眩いばかりの光を放ち金色に輝きだす。

 そして注ぎ込まれるマナが精霊素体のキャパを超えたとき、素体は硬質な水晶のような【精霊結晶】へとかわる。


 ――精霊結晶とは――

 マナが異常に濃い場所に精霊が集まり、その残滓が途方もない年月、数千年以上降り積もって極小さな

結晶が稀にできると言われている。

 その存在する筈の無い希少石を人々は『精霊結晶』と呼び、一ミリ程度の結晶でも国宝と言われる程の特別な物だ。

 ディケムは今、それを人工的に作って見せた。



「よしディケム! このまま精霊結晶を起点にドーム型に結界を構築するのじゃ」

「はい!」


 俺は【いにしえの呪文書】に書かれていた『精霊結界』の呪文を詠唱する。



  ≪――δύο(ディオ)Κολόνα(コロナ)()πνεύμα(プネブマ)()Εμπόδιο(エンポディオ)(二柱精霊結界)――≫



 すると――

 精霊結晶と化したウンディーネとイフリートの像の中心が熱を持ったように輝き出す。

 そしてそこから一瞬に光り輝く一条の光が上空へと昇っていく。

 その光が上空で結ばる様に繋がり、それを起点にドーム型の透明な緑色の結界が組み上がる。


「なんだあれは……」

「あの光はソーテルヌ伯爵様の邸宅から出てるわよ!」

「これは結界なのか? でもこんな大規模な結界など見たことないぞ……」


 屋敷の外が大騒ぎになっている、そりゃ町のど真ん中で何の通告もなくこれだけ派手な事をやっていれば大騒ぎにもなるだろう…… 何も聞かなかった事にしよう。


 ⦅よし、結界内にマナを満たし井戸にマナの道を通せ! そして固定じゃ!⦆

 ⦅はい!⦆


 ⦅よし、なかなか良いぞ! 最後の仕上げじゃ、各精霊結晶とマナの道を繋げ!」

 ⦅はい⦆


 ウンディーネとの念話は皆には秘密だ。

 『大いなるマナ』と繋いでいることは軍の人たちにはまだ話せない。

 説明しなければ俺が今何をやっているかなど、誰も分からないだろう。

 ……ラローズさんだけは分かってしまったかもしれないけど。



 俺が最後の仕上げに十二柱の精霊結晶と井戸に作ったマナの道を繋げると、中心に熱を持ったように輝きだしていた精霊結晶がさらに一度だけ強く光を放つ。

 すると結界が黄金色に光り、結界内のマナに満ちた空気にキラキラと黄金色の粒子が舞う。

 その幻想的な光景に邸内に居る誰もが息をのみ、空を見上げ目を奪われていた。


 だがその光景もすぐに収束していく。

 淡雪が消えていくように輝く粒子もいつの間にか自然と消えてなくなり……

 ドーム型に空へと伸びていた一条の光も緑色の結界も光の収束と共に全て消え去っていた。


 今は先ほどまでの出来事が全て幻覚だったかのようにすべてが元のままだ。

 しかし唯一結界の礎石として置いた精霊の形をした透明な『精霊結晶』が十二体残っている。

 その『精霊結晶』の像を見ると中心にほのかに光が宿っている。



「よし成功じゃ! よくこの複雑な術式をやり遂げたの」

「ありがとうございます」



 今回俺が構築した結界は――

 精霊結晶を起点に精霊結界を張り。

 井戸にマナの通り道を作りその井戸と精霊結晶を繋ぎ、結界を常駐型に構築したのだ。

 精霊結界は通常一精霊一属性で行うが、俺はウンディーネとイフリートを従属しているので二精霊二属性の結界を構築した。

 結界の仕組み上、精霊の数が多いほど属性も増え結界は強固になる。



「みなの者、結界は成功した。 今は見えなくなっているが先ほど見えた結界はディケムが解くまで維持される。 屋敷の各箇所に置いてある精霊結晶の像より中には敵意のある者は入れない。 もちろん精霊結晶は移動できないし触れば弾き飛ばされる。 気をつけるのじゃぞ」


 使用人たちは奇跡を見たかのように何故か祈っている。

 屋敷の外にも同じように祈っている人たちが大勢いる……


 ⦅怖いから見なかったことにしておこう……⦆



 この日の結界の儀式はとても幻想的で見る者を感動させたらしい。

 王都に住む多くの人々が遠目に精霊が飛びまわる姿を目撃し、何度も輝く光に目を奪われた。

 『何か凄い事が起きている』と町のほとんどの人が手を止め高台に上り、見たこともない大規模な結界が構築されていく様、その神秘的な光景を見ていたと言う。

 その光景は王城からも見えたらしく後ほど問い合わせが殺到したのは言うまでもない。



 一仕事終え一息ついていると、ウンディーネがラス・カーズ将軍に一言告げる。


「あ―― どうでも良いことじゃが この結界内はマナが絶えず充満しておる。ラスたちが訓練したサンソー村以上にな」


「えぇええええっ!! ウンディーネ様! 是非ここを軍の訓練場所に――…… グハッ!」

 ラス将軍がウンディーネに蹴られていた……


「アホかおまえ――! ダメに決まっておろう。 ここは我らが主ディケムの家じゃぞ!」


 誰もが憧れる英雄ラス・カーズが蹴られている光景はとてもシュールで……

 使用人たちはこの精霊様には逆らってはいけないと固く誓っていた。


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