第七章94 閑話 ララとククル3
―――ポート視点―――
ララとシューティングスターの戦いも七日目となりました。
今日はいつもの戦闘場所、盆地の縁には王都中の人が集まったのではないかと言うほどの人だかり。
ここで商売する屋台まで出ている始末。
さらに高台には王族専用の観戦場所まで設けられています。
午後一時、午後の授業が始まる時間、地響きのような住民の歓声が辺りに響き渡る。
そこへいつもの様に東から、真っ白な九尾に乗ったララが走って来ました。
そしてそれを待っていたかのようにシューティングスターの咆哮が響き渡る。
ゴォワァオオオオオオオォォォォ―――!!!
『キャッ!』と怯える私をカミュゼが『大丈夫!』と手を握って落ち着かせてくれる。
遠くから聞こえてくる咆哮だけで、観客の多くが軽い『恐怖状態』に陥っています。
多分あの咆哮にはステータス異常を引き起こす効果が有るのでしょう。
でもララは、あの咆哮を直接浴びせられても怯んだ様子もなくスピードも落とさずシューティングスターに向かって行きます。
「ララ…… 大丈夫かしら」
「ポート、もう七日目だ。 ララさんなら大丈夫!」
そう…… 今日で七日目。
カミュゼは私が咆哮の心配をしているのだと勘違いしている。
でも私の心配はそうではありません。
六日間も戦えばお互い手の内は分かってきます。
シューティングスターはララに付き合っている感が有るから、まだまだ奥の手は有る様に思えます。
でもララは――
持てる力を全て出し尽くしてしまったのではないかと私は思っています。
「今日のララ、少し戦い方が単調じゃないかしら?」
「う~ん 確かに…… 六日間も戦っているから小細工が利かないのかもしれない」
私の不安そうな顔を見て、カミュゼが励ましてくれます。
「ポート大丈夫だよ。 ララさんはあの四門守護者なんだぞ。 それにこの勝負は勝つことが目的じゃない、ララさんの力をシューティングスターに認めさせることが目的なんだ」
「うん」
私はカミュゼの手をギュッと強く握り、心の中でララの勝利を祈りました。
―――ララ視点―――
いつもの場所、いつもの時間に私は玉藻に乗りシューティングスターに向かって疾走する。
すると信じられない程の歓声が聞こえてくる。
⦅ちょっ! な、ななななにあの観客の数!? 恥ずかしんだけど――!⦆
私が躊躇した瞬間に――
ゴォワァオオオオオオオォォォォ―――!!!
とシューティングスターの咆哮が飛んでくる。
私は白魔法師だ、当然戦闘前に防御魔法は重ね掛けしている。
この程度の精神攻撃は私には通用しない。
私はこの六日間戦ってきて理解してしまった事が有る。
シューティングスターは本気を出していない。
⦅まるで時間をかけて私を試しているよう……⦆
本気を出していないシューティングスターの攻撃では、防御と回復魔法に特化した白魔法師の私は殺せない。
だけど逆に、白魔法師が故に私もシューティングスターを倒せる強力な攻撃魔法は持っていない。
言い訳を言えば…… 白魔法師の本分は支援。
もし前面に出て戦うとすればそれは適がアンデットか悪霊・悪魔の場合だけ。
でも今私が対峙しているのは私と同じ聖属性の龍。
同じ属性の魔法で攻撃しても、持っている地力が圧倒的に上の龍には致命傷は与えられない。
だから私は召喚宝珠を使いオネイロス様を召喚してみた。
オネイロス様の『夢属性』は聖属性に有効な『眠(死)属性』も含む、だから攻撃面で属性有利を取れる事から、シューティングスターにも大ダメージを与えられる! ……と思ったのだけど甘くはなかった。
聖属性特化の私が反対属性の死属性を付け焼き刃で使いこなせない事が分かってしまった。
所詮宝珠召喚は借り物の力って事、どうしても自分自身の聖属性が死属性を弱めてしまう。
勿論まったく効かないわけじゃ無いから死属性の矢は射りますけどね。
魔法よりは物理武器の方がまだマシだったけど、所詮は魔法使いが射る矢……
⦅あぁ――もう筋トレしとけばよかった⦆
⦅せめて玉藻と連携攻撃出来たらぁ―――⦆
『クリスタルアロ―――!』
『月光の矢――!』
『スネルリフレクショ―――ン!』
聖属性の魔法、眠り属性の魔法、眠り属性の弓矢…… などなど。
決定打にならないけど、とにかくジワジワ攻撃します。
これが、今まで私が戦ってきた六日間。
⦅相手がエンシェントドラゴンなんて圧倒的存在じゃ無かったら――⦆
⦅このままジワジワやってれば勝てるのに……⦆
まぁだからこそ、今まで誰も倒せなかったんだけどね。
とにかく休まず攻撃を仕掛けなきゃ!
『クリスタルアロ―――!』
『ホーリーレイ―――!』
『クリスタルアロ―――!』
そこへ五月蠅そうにシューティングスターの息吹が吹き荒れる。
多少受けたダメージを私はすかさず癒す。
≪―――μέτρια-ανάκαμψη(中回復)―――≫
「玉藻大丈夫?」
「これ位まったく問題無いわ!」
玉藻は戦闘には加わっていないけど、もし私が乗っているのが普通の馬とかだったら今の『竜の息吹』で、一瞬で終わっていた。
ほんと玉藻には感謝しかない。
「でもララ、このまま同じ事続けてもらちが明かないよ」
「うん、分かってる。 だから今日のとっておきをこれからヤルわよ!」
「とっておき!?」
「今準備してるから、まぁ見てて!」
「ほいさっ!」
今日の取って置きは――
などと考えていたら玉藻が叫ぶ!
「ちょっ! ララッ――! 聞いてる!? なんかヤバそうだよ!!!」
「えっ……!?」
私が次の策に意識を集中した刹那、シューティングスターから注意を逸らしてしまった。
シューティングスターの表情を見落としてしまった。
⦅ラ…ル…ダ そろ……思……せ…⦆
『えっ?』 突然何か途切れ途切れの変な声が私の頭に響く……
今のはシューティングスターの声?
違う! なんかシューティングスターも様子がおかしい!!!
気が付けばシューティングスターが口の中にマナを溜めこんでいる!
あ、あれは………
そう、あれは竜種が相手にトドメを刺す時必ずやる定番のアレだ!
「ッ――なっ! あれはヤバイ―――!!!!」
「ララ! アレは……ヤバイヤバイヤバイィイイイ―――!!!」
あぁ……死ぬ直前ってこんな感じなのかしら。
私は俯瞰したように上空から自分を見ている。
私が必至に防御魔法を唱えている声が、
遠くでフィルターをかけたようにぼやけて聞こえて来る………
「四柱神を鎮護し、天地・光闇・火水・風土・陰陽、五陽霊神に願い奉る―――!!!」
私の周りに小さな六柱のルナが顕現している。
そして私と九尾を中心に六芒星魔法陣が構築された。
「お願い! 間に合って―――!!!」
≪―――φράγμα-απομόνωσης(隔離結界)―――≫
私の結界が構築される直前――
シューティングスターから放たれたマナの塊が放たれる。
放たれた高密度の塊がズレる――― そして爆ぜる!
ドッゴォォォォオオオオオオ――――…………!!!!
ズッ——ガガガガガガッ———!!
圧倒的な熱量と破壊の力。
光り、熱、衝撃波が荒れ狂う――!
その暴力的に荒れ狂う強大な聖なる力に私は飲み込まれた。




