第七章93 閑話 ララとククル2
「今日で何日目だララ」
「五日目~」
「お疲れだな」
「もぅ~クタクタよ……」
いつもの様に家族と幼馴染、ラトゥール、フュエ王女が揃っての夕食。
テーブルに突っ伏すララとその隣でぐったりしている子狐の玉藻に皆がねぎらいの言葉をかけている。
「どうなんだ? シューティングスターは?」
「私が死んでないって事は…… 上手く行っているんだと思う」
『死』と言う言葉を聞いて、ルルと俺の家族が青い顔をしている。
「ララを殺させはしないよ」
「うん。 ディケム達が居てくれてるから殺されていないのかもだけど…… でも毎日シューティングスターもあそこで待ってるから楽しんでくれてると思う」
机に突っ伏しながら話していたララが顔を上げ、据わった目でディックとギーズを睨む。
「もぅ~ディックとギーズはズルいわよ! なんで戦わないでエンシェントドラゴンと契約してるのよ…… あんなのとまともに戦ったら死んじゃうわよ! わたし死んじゃうわよ」
⦅二回言った…… よっぽどストレスが溜まっているらしい⦆
『な、なんか……ほんとゴメン』とディックもギーズも居たたまれない顔をしている。
「一応シューティングスターは『月龍』、聖の属性から本来は戦闘を好む龍では無い筈だ。きっと今は神の呪いで狂っているんだろう。 でも狂っていると言っても根本はやっぱり変わらない、だから本気ではララを殺しに来ないと踏んでの作戦なんだよ」
ララが『これは?』『ここもホラ?』と痣が出来た腕を指さし俺に文句を言う。
「もぅ学校も何なのよ課外授業って!? こっちは死に物狂いで戦ってるのに結界の外でみんなお弁当食べながら観戦とか! 私は見世物じゃないっての」
ララの愚痴が止まらない……
「この頃毎日やってるから街でも噂になってるよ、お姉ちゃん」
「お父様からも問い合わせが有りました。 見に行きたいと……」
「えっ……!? 陛下から?」
「それで見物人がこの頃増えたのか……」
「明らかに学生や先生じゃない人たちも居たよな」
ララの機嫌がさらに悪くなるのが分かる。
それを見かねたラトゥールが口を開く。
「まぁ~まぁ~ララ。 教育機関としてはエンシェントドラゴンとの戦いを間近で見られる二度とないチャンスだ、学生達に見せてやりたいと言うのは当り前の話だろう。 教師だってそうだ。これとない研究の機会だ゛、一分一秒でも見逃したくないと思っているはずだ。 それに総隊としてもお前のお陰で色々データが取れて助かっているぞ。 特に装備関係では素晴らしいデータが取れた。 勿論騎士達にはこれとない勉強の機会となっている。 最上位のドラゴンとの戦い方を知っていれば、今後ドラゴン族との戦いが有ったとき、対処の方法も変わってくるだろう。 お前は皆にドラゴンと戦う時の生き延方を教えていると思えばいいのだ」
ラトゥールの言葉でララが『はぁ~い』と少しだけ機嫌を直す。
ラトゥールは雷嵐竜シュガールを従属させたとき一度死んだと言っても良い。
だからか知らないが、ララはラトゥールの話には耳を傾ける。
俺もファフニールを従属させたとき苦労している筈なのだが……
ララの八つ当たりは主に俺とディックとギーズに向けられている。
幼馴染への甘えと思って愚痴くらい聞いておこう。
「それに――…… あっ!」
「………それに何ですか? 『あっ!』ってなんですか?」
「あ…いや、シューティングスターと何度も戦ている『勇者ララ』としての名声がうなぎ上りだと言いたかったのだが…… お前は勇者と言われたくなかったのだったな」
ララがまた『きゅぅ……』と机に突っ伏した。
ララのストレスは置いておいて……
ララとシューティングスターとの戦いは五日間続いている。
戦い一日目は――
ララがシューティングスターを見つけて、九尾に乗ってヒットアンドアウェイ戦法で一日中逃げ回った。
戦い二日目は――
前日と同じシューティングスターを見つけてヒットアンドアウェイ戦法を一日中繰り返した。
ララはシューティングスターと戦う時は学校に届け出を出して公欠にしてもらっている。
軍の任務の時も同じだが、任務内容が『シューティングスター戦』となれば学校側も『えっ?』となる。
戦い三日目は――
二日間の戦闘が同じロワール平原の北東で終わった事から、今度はその場所でシューティングスターが待っていた。
ララが現れた時、シューティングスターの口がニヤッと笑ったように見えた。
もしかするとシューティングスターも自分に何度も挑んでくる勇者を待っていたのかもしれない。
この日からシューティングスターの戦い方もララを値踏みするような戦い方に変わった。
そしてこの日から学校も全校生徒を上げて、課外授業と称してララのシューティングスター戦を見学するようになった。
学校側からは俺に事前の打診が有り、学生の安全確保の要請が有った。
戦い四日目は――
いつもの場所、いつもの時間にシューティングスターはララを待っている。
そして死力を尽くして戦い、いつもの様にその日の戦いも終わった。
お互いに『今日はここまで』と言う四日間戦った者同士だけが分かる、暗黙の間のようなおかしな信頼関係が生まれている。
戦い五日目は――
今日もいつもの場所、いつもの時間にシューティングスターはララを待っていた。
だがこの日初めて『待っていたぞ』とシューティングスターが声を上げた。
王都に住む誰しもが初めてシューティングスターの『言葉』を聞いたのではなかろうか?
今まで咆哮は幾度と無く聞いてきた、しかし対話するシューティングスターを見たのは初めてだ。
そしてこの日も死力を尽くして戦い、五日目の戦いは終わった。
正直シューティングスターは手を抜いているのだろう、今のララでは本気のシューティングスターと戦えば勝ち目がない。
もし玉藻も本気で参戦すればそれなりに戦えるかもしれないが……
それではシューティングスターはララを認めてはくれないだろう。
シューティングスターは毎日挑んでくるララを明らかに見て観察している。
ララとの戦いの意味を理解して、毎日あそこで待っているのだ。
ララも口では愚痴を言っているが、この一戦一戦の意味を理解している。
ここまで来れば、ララが不義な事をしない限り時間の問題と言っても良いだろう。
ララがそんな不義な事をする筈が無い。




