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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章89 閑話 人族五大国同盟会合2

 

 今回の人族五大国同盟会合の主役は新女王が即位したボーヌ王国となる。

 その為大トリはボーヌ王国が務めるため、次の報告はシャンポール王国だ。


 広報担当のマディラからシャンポール王国の報告が伝えられる。

 今回シャンポール王国の報告には、前回の様なエンシェントドラゴンの従属や竜騎士部隊の創設などと言った、各国が度肝を抜かれるような新しい報告は無かった。

 正確に言えば、夢の上位精霊オネイロスの従属はその類の話なのだが、それは宝剣ヒュプノスクリスと次代の王位に関わるデリケートな話となる為、こちらからはあえて報告する事は無かった。


 しかし目新しい報告は無いのだが、その内情は目覚しい進歩がある事を各国は理解している。

 前回は創設の報告だけだった竜騎士部隊も数が増え今では強力な部隊として既に機能している。

 少し前までは、竜騎士と言えば戦場において単騎で一騎当千と謳われていた。

 その竜騎士が今ではソーテルヌ総隊で部隊として編成されているのだ、その威力は計り知れないものが有る。


 またポーションの開発において、エルフ族など他種族と共同研究を進める事により、日増しに進歩を遂げ、質が格段に良くなっている。

 今では市場に少しだけ流したソーテルヌ総隊特性のポーションが巷では奪い合いになっていると聞く。

 ポーションの質が上がれば助かる人も増え、戦場も劇的に変わる。

 さらに今ではアーティファクトと分類される程のエリクサーでさえ、数は少ないが作られている現状だ。


 そして今まで作成不可能と言われて来た魔法武器でさえも、ソーテルヌ総隊では着々と配備され数が増えている。


 各国の情報収集は今、ソーテルヌ総隊で何が行われているかを調べる事が第一と言っても過言では無い。

 しかしそのソーテルヌ総隊の情報を各国はどこからか仕入れて来たのだろうか?

 と思ったが……

 まぁ、要人の子供達が多くソーテルヌ邸に出入りしている現状だ。

 情報が漏れても不思議ではない。

 ……と言うか、これくらいの情報は隠すつもりもない。


 そんな事でシャンポール王国には各国から多くの質問が寄せられる事となった。




 まず一番初めに手が上がったのはやはりモンラッシェ共和国のグラン嬢。

 情報を最大の武器と重んじているモンラッシェ共和国は、こちらが隠したい事まで知っているのだろう。


「モンラッシェ共和国ジュリュック大統領の娘グランと申します。 若輩者の私に質問の機会を与えて頂き感謝いたします」


 グラン嬢の質問は、この会合ではまだ自分が新参者である事を強調し、立場は自分の方が上だったとしても、目上の人達に気を配ったお手本のような言葉選びだった。

 しかしその内容は流石モンラッシェと言う核心を突いたものが多く、ウチのマディラもたじろぐ程。

 グランとマディラのやり取りは少し気の抜けていた上の世代の襟を正す、次代の若き力に期待させられるものだった。

 流石はグランと言ったところだろう。



「………――分かりました。 それでは最後にもう一つだけ質問させてください」

「はい」


「この度起こった天使顕現と言う大事。 歴史書では滅亡を免れなかった国は無いと私は記憶しておりますが、シャンポール王国はその歴史を塗り替えた事になります。 いったいどのようにしてこの大事を切り抜けたのか教えて頂けますか? それと、今後他国でもこのような大事が起こりうるのか? この大事を経験したシャンポール王国の意見を聞かせて下さい」


 この質問には流石のマディラも俺の顔を見る。

 この件に関してはどこまで話していいか、非常に線引きが難しい。

 まさか『その天使、ここに居ますよ』なんて言える訳もない。

 そこで俺が質問に答える事にした。


「その話については、私から答えさせて頂きます」

 俺が手を上げそう答えると、場の空気が変わった様に感じた。


「まず初めに、天使は今後他の国もで顕現する可能性が有ります!」


 『っ――なっ!!!』

 俺の言葉に各国に動揺が走り会場は騒つく。


「そしてもし天使が皆さんの国に今顕現した場合の対策ですが…… すぐに逃げてください」


 『なっ!』

 今度は俺の発言が、多くのプライドの高いお偉い方々の勘に触ったようだ。


「ソーテルヌ卿、それは卿でなければ天使の対応は出来ないと? 仮にそうだとしも王都上空に顕現などされたら、王都民を全て速やかに退避させるなど不可能な事は分かっているでしょ? 現に今回の天使もシャンポール王都上空に顕現したのですから」


「あくまで申し上げたのは『今、顕現した場合』と言ったのですが…… でもまぁ気休めを言っても意味が無いでしょう。 今回おこなった天使の対処方法は我々ソーテルヌ総隊にしか出来ないと思います。 今回の事変では天使を王都からロワール平原へと強制転移させました。 ですがそれを今人族領できるのは私と我が総隊の総帥ラトゥールしか居ないでしょう」


「………どうにか我々にも出来る方法は無いのか?」

 グラン嬢の質問だったはずだが、いつの間にか他の国のお偉方も割り込んでくる。


「転移だけならば、転移魔法陣は私が作ることが出来ます。 お望みであればそれを各都市に設置致しましょう。 勿論多額の費用は掛かりますが…… ですがそれを起動させる為には膨大な魔力を必要とします。 ですから魔法陣を起動させる為専用の上級魔法師を数十人単位で用意する必要が有ります」


「それが用意できれば…… 天使が顕現しても他へ飛ばし王都を守る事が出来るのか?」


「………正直、ハイとは申せません。 まず設置型の転送魔法陣に動く敵がワザワザ入ってくれる道理は無いですからね。 それに飛ばしたところで天使を倒せるだけの力が無ければ、退避する時間を少しだけ稼げるだけです。 そこは各国がこれからどれ程の危機感を持って迅速に軍備に力を注げるか、または皆さんが自国の勇者を育成出来るかに掛かっています。 ですから先ほども言ったように、今は無理を承知で皆様に逃げる事を私は推奨いたします」


「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」


 俺の言葉にみな言葉を失っている。

 正直この問題はここで議論して結論が出る程簡単な命題ではない。

 さらにルカ教が暗躍している時点で、今にもどこかで天使が顕現してもおかしくないと俺は思っている。

 そして顕現してしまえば、その国は滅んでしまうだろう。

 天使とは今の人族の力では天災みたいなものだ。

 天災に抗う事は難しい。


「な、ならばシャンポール王都の様に我々の王都にも精霊結界を張ってはくれないか? 同盟国エルフ族の都市アールヴヘイムには張ったのだろ? 我々同盟国にも張ってくれても良いのではないか?」


「…………。 確かに『(いにしえ)の精霊結界』を張ることが出来れば、結界内に天使が顕現し無い限り王都を守る事は出来ると自負しています」


「おぉおおお! ならば是非!!!」


「ですが…… もう分かっている方もおいででしょう? この(いにしえ)の強大な結界を維持するには膨大なマナが必要です。 シャンポール王都とアールヴヘイムの結界を維持出来ているのはイグドラシルが有るからです。 普通の都市にこの(いにしえ)の精霊結界を掛けても永続的に維持する事は出来ません」


「では…… 今の時点では我々が天使から王都を守る(すべ)は無いと言う事ですか?」


「その答えは歴史が証明しています。 たとえシャンポール王都でも、今のままでは次回また天使が顕現した場合、完全に守れるとは言い切れません」


 そう……

 今回顕現したのはネフリムであって、天使でもないのだから。







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