第七章86 凱旋2
―――フュエ王女視点―――
牢屋に入れられて三日目。
案外、牢屋と言っても居心地が良いものなのですね。
ここの生活に少し慣れてきている自分が怖いです……
なんて冗談を言えるくらい私はまだ元気です。
これはもしかすると……
私の名前を聞いた手前、偽物と確定するまではぞんざいに扱えないのかもしれません。
でしたら私達がここから解放されるのも時間の問題でしょう。
一応私は本物なのですから。
牢屋の中でそんな事を考えていると、牢屋の窓から差していた光が陰りました。
ヴァンさんが怪訝に思い、ふと鉄格子の入った小窓から外を見ると……
「ッ――なっ! こ、これは――………」
「どうしたんですか? ヴァンさん?」
「あ、あれは……蒼竜じゃないのか? 砦の崖の上にとんでもないのが居るぞ!」
「蒼竜って四門守護者の青の王、フィジャック卿が使役していると云う神獣様ですか?」
それまで項垂れていたシャルマもフローラも壁に寄りかかっていたアマンダも、こぞって小さな窓に皆集まり外を覗き見ました。
ギーズ・フィジャック卿が蒼竜様を使役している事は人族で知らない人は居ないでしょう。
ですがその蒼竜様を実際見た人は少ないのです。
ディケム様の黒竜様もディックさんの火竜様も有名でが、そう見られる機会は有りません。
皆さんは普段ワイバーンを使っているのです。
あの大きな巨体をどこに隠しているのか?
多くの人が疑問に思い『本当は蒼竜様なんて存在し無いのではないのか?』などと疑う人も居るくらいです。
その蒼竜様が今ここに居ると聞けば―― 皆見たくもなります。
私達が小さな窓にかじりつき『おぉおお――!』と叫んでいると、後ろから声をかけられました
「お前ら面会だ! 外に出ろ!」
見張の兵士に連れられて牢屋の外に出ると、砦が緊張に包まれているのに気が付きました。
⦅そりゃ~蒼竜様が居ればそうなるよね⦆と思い。
蒼竜様を見上げ、ふと蒼竜様が見ている方角を見ると――
『ッ――!!!』私達も青ざめました。
蒼竜様が睨むその先、『竜の狩場』と云われるその平原に真白で巨大な龍が居ます。
「ッ――!!!」
「うそ…… シューティングスター」
「おぃおぃおぃ――! ヤバくないか!」
焦る私達人間など気にも留めず、シューティングスターはじっと蒼竜様を見ています。
エンシェントドラゴンにとって人間など虫けら同然。
視線を向ける価値すら無いのかもしれません。
蒼竜様もシューティングスターもジッと睨み合ったまま一切動く気配は有りません。
『急げ!』と少し上ずった声で言う衛兵の言葉で私達も我に返り歩き出しました。
「驚きましたね…… まさか神獣様、しかもその中でも最強種の竜種を二匹も同時に目にする事が出来るなんて」
「あぁ滅多に見られる光景じゃないけど…… もしこの二匹が戦いだしたらこの砦と言えどひとたまりも無さそうだ。 生きた心地がしない」
『お…お前達、誰が喋っていいと言った!』上ずった声の衛兵の言葉に私達は私語を止めました。
私達はこの砦の将軍が居る執務室の前に連れて来られました。
衛兵が扉に向かい『将軍、連れてまいりました!』と大きな声で言うと。
執務室から聞き覚えのある声で『入れ!』と返事が返ってきます。
衛兵が扉を開けると、中には知った顔が揃っていました。
執務室の中にはこの龍の寝床砦を預かる、王国騎士団第五部隊カラ・エルマス将軍がいました。
そしてその隣には王国騎士団第一部隊ラス・カーズ将軍。
さらにディケム様のソーテルヌ総隊近衛隊のギーズさんも居らっしゃいました。
「おぉおおお―――フュエ王女殿下! なんと言う事。私が王都へ戻っていたとは言え、衛兵共がまさか殿下を牢屋に入れていたなど…… このカラ・エルマスの首を切り落としてお詫びいたします!」
「良いのですカラ将軍。 元はと言えば…… 王都を抜け出した私がいけないのですから。 兵の皆は自分達の仕事をきちんと全うしただけ。 むしろこんな怪しい私の言葉を信じなかった事に感嘆致しました。 ラス・カーズ将軍、私に対しての一切の非礼は不問ですよ、良いですね」
「はッ! フュエ殿下の寛大なお言葉、感動致しました」
「それにしてもギーズ卿と蒼竜様がいらっしゃると言う事は、本当に急いで来てくれたのですね。感謝いたします」
「はッ! 殿下。 ソーテルヌ閣下より龍の寝床に居るのは本物のフュエ殿下だと聞きましたので…… ギーズ卿にお願いして蒼竜様にシューティングスターを抑え込んで頂きました。 おかげで我々もワイバーンでひとっ飛び、最短で来る事が出来ました」
「ギーズ卿も有難うございました」
「はッ!」
その後、私達は色々と話したあと馬車に乗って王都へ向かう事になりました。
少し蒼竜様に乗れるのではと期待したのですが……
やっぱり駄目でした。
それと王都ではボーヌ王国での私達の働きを祝して凱旋パレードの準備をしているのだとか。
だから馬車の手配も入れてあと五日間くらいかけて、ゆっくりと戻って来て欲しいと言われたのです。
「あの……ラス・カーズ将軍。 凱旋パレードとか恥ずかしくて嫌なのですが……」
「フュエ殿下。 これもソーテルヌ閣下の提案です。 凱旋パレードを盛大に行う事でフュエ殿下の国民人気を盤石なものとし、殿下を陥れようとしたグリオット侯爵派閥を牽制する為です。 彼らもまさか本当にフュエ殿下がボーヌ王国を救い、後ろ盾を得て帰って来るとは夢にも思わなかった事でしょう。 結果的に敵に塩を送ってしまった形になり彼らの悔しがる顔が目に浮かびます」
「ディ…ディケム様の御指示なのですね。 分かりました、頑張ります」
「はい」
「あ…あの……ラス・カーズ将軍。 ディケム様は私の事、怒っていらっしゃいましたか?」
「いえ。 むしろ楽しそうに笑っていましたよ」
『そ…そうですか』と私のホッとした顔を見て、ラス・カーズ将軍は悪戯っぽく笑って言いました。
「殿下! 一つ告げ口を申しますと…… ソーテルヌ閣下は私の報告を聞いて『捕縛されて少しは火遊びにも懲りた事でしょ』とおっしゃられました。 たぶん……フュエ殿下が牢に入っていた事知っていたのではないでしょうか」
『まあっ!!!』と私の脹れた顔を見てギーズさんが青い顔をしていました。
たぶんラス・カーズ将軍の告げ口は本当だったのでしょう。
でも仕方ありません、私はディケム様に見捨てられてもおかしくない事をしたのですから。
シャンポール王都での凱旋パレードは、私の想像の一〇倍ぐらいは派手な物でした。
ディケム様曰く。
私の帰還に国民が喜べば喜ぶほどお兄様の派閥は私に手が出せなくなるのだとか。
私は本当に顔から火が出るくらい恥ずかしかったのです!
ですがシャルマとヴァンさんは大はしゃぎで集まった人々に手を振っていました。
あの性格が羨ましいです。
凱旋パレードを終え、祝賀パーティーを終えた後。
シャルマもフローラも今日は自分達の国の迎賓館へと帰りました。
そして私はソーテルヌ邸の前に帰ってきました。
門に着くまでの道のり、ディケム様が本当に私を受け入れてくれるのか心配で仕方ありませんでした。
でも門の前にはディケム様が待っていてくれました。
「あ…あのディケム様………」
「お帰りなさいフュエ殿下」
ディケム様のその笑顔で、私の胸は一杯になりました。
「はい。ただいま……です」
『腐りゆく王国と隠されたみどりご』はこれで終わりです。
貴重な時間を費やし、ここまで読んでくれた読者様にはホント感謝しか有りません。
本当に有難うございます。
第7章は、もう少し閑話などが御座いますので
お付き合い頂けたら幸いです。




