第七章83 氷牢獄 解放
―――フュエ王女視点―――
この国を蝕んでいた最後の呪いもとうとう解呪されました。
その解呪する様相はまさに神がかった奇跡の御業――
誰もが言葉を失う夢の様な光景でした。
ブランさんは
『今から見る事は決っして他言するな。 そしてここに居る者だけが共有する秘密とし、自らの子孫にだけに言い伝えボーヌ王家への忠誠の証としろ!』
――と言いました。
この場に居る人々だけが共有する秘密。
ボーヌを導く新たな国王とその兄の本当の姿。
一部の者だけが知るその大き過ぎる秘密は、熱狂的な信仰心へと変わり国を盛り上げる大きな力となるでしょう。
『ボーヌ王国は天使様に守られている』……と。
それにしても………
こんな話し誰かに語ったとしても信じてはくれないでしょうね。
「この国を蝕んでいた最後の呪いは解呪された。 次はこの国を覆う絶対零度の氷牢獄を解除する!」
「おおぉぉぉ」
ブランさんの言葉にまたどよめきが起こりました。
奇病の呪いが解呪された今、残る氷を解除すればこの国に起こった人知を超えた力は全て無くなります。
後は人の力で病気を治していくだけとなります。
「重病人は凍ったまま既に各病院に集めた。 そして氷牢獄解除と共にすぐに薬を与えられるよう、看護師と薬の配置も終わっている」
「おおぉぉぉ」
「お前達はこの後、城に集めておいた食料を運び疲弊した民に配るのだ。 そしてアルバリサとクレアスによって呪いは解かれ病気の薬も配布している事を話して回るのだ。 そしてその食料も二人からの物だと。 この国を導く二人の名を国民に知らしめて来るのだ!」
「おぉおおおお―――!」
「……あ~マリア」
「は、はい!」
「ひとつ言っておくが、この薬と食料で利益を得ようなど許さぬぞ。 今はいかに新王が民心を早く掴めるかが重要だ」
「は…はい!」
ブランさんの説明が終わり。
『それでは始めるぞ!』とブランさんが一度目を瞑りました。
するとまた何処からか錫杖を鳴らすような音が聞こえてきます。
シャン―――ッ!
シャン―――ッ!
シャン―――ッ!
それと同時にまた広場の四隅に立てられた杖の触媒が光り出しました。
そして今度は触媒の光りは全てブランさんに流れ込み、その力を失ったようです。
杖の魔力を全て自分に取り込んだブランさんが光りを帯びています……
それはまるで先ほど見た、天へと昇った光輝く天使のよう。
そして、地面がブランさんを中心にまた光り出し、黄金の粒子がキラキラと立ち昇り始めました。
⦅きれい!⦆
⦅でもこの光…… この包まれるような温かなマナを私は知っている⦆
ブランさんを中心に光っていた地面の光りが広がっていきます。
光りは広場を超え、この地区を超え、王都全てに広がりました。
きっと病院で待機していた看護師の皆さんは、突然地面が光り出した事に驚き慄いていた事でしょう。
次の瞬間!
王都全てに広がった光は一瞬でブランさんに集まったように見えました。
そして今度は見えない何かが弾け突風が巻き起こりました。
一瞬目を瞑った私は薄っすらと目を開けると………
世界を覆う氷はもう消え去っていたのです。
そしてボーヌ王国の時間が動き出します―――
ブランさんに役目を与えられていた人たちは一斉に動き出します。
今はまだ重病人も多くいます、時間の猶予は有りません。
もう、誰一人の命を取りこぼす事の無い様、みな一丸となって役目に取り掛かりました。
『ふぅ~~~』
一仕事終えたブランさんが椅子に腰を掛けました。
ブランさんをジッと見つめていた私とブランさんの目が合います。
私に気づいたブランさんは『フフッ』と含み笑いをしました。
さっきブランさんが杖のマナを取り込み光り輝き、
そのマナを開放したその刹那の瞬間……
私はブランさんに重なる別の人影を見ました。
「ネロ…… 貴女だったのですね」
「ん???」
ブランさんは『何のことだ?』と言いました。
そして私は理解するのです。
⦅あぁ…… やっぱり私は二人に守られていたのですね⦆
私が氷の眠りから目覚めた、まだ完全に覚醒していなかった時。
私は確かにディケム様の気配を感じました。
でも完全に目覚めた時、そこに居たのはブランさんでした。
皆は『夢を見たのだろう』と言うけど………
やっぱり来てくれていたのですね。
いえ、最初から守ってくれていたのですね。
「私は…… 結局自分では何も出来ませんでした」
「ん?」
「私は初め……ディケム様、ラトゥール様に認められる何か功績が欲しかったのです」
「ん? さっきから一人で何を言っているのだ? フュエ」
「でもこのボーヌ王国に来て、そんな功績とかよりも純粋に人々を救いたいと思ったのです」
「………………」
「でも……何もできなかった。 仲良くなった友達が目の前で死に。 年端もいかない子供達が私の腕の中で死んでいきました」
「………………」
「結局、私しから王女と言う立場が無くなれば、なんの力も無い普通の人でした」
「そんな事は無いだろう? もしフュエ達が行動を起こさなければ、多分この国は滅んでいただろう」
「え?」
「天使アザゼルもずっと解放されず、ボーヌ王マランジェ女王の悲願も叶わなかった。 この国が救われたのはフュエ達が旅を始めた小さな切掛けが始まりだ」
「でも………」
「フュエ。 人にはその人の役割が有る。 王の役割は自分が前線で戦って敵の将を討ち取る事では無い。 王たる者が前線に出て戦ってしまえば指揮する者が居なくなり国は動けなくなる。 王は下の者が進む方向を示せば良いのですよ。 ですが……この旅は王女が民の気持ちを知ることが出来た貴重な経験となった事でしょう」
「フフ。 ブランさん、だんだんと話し方がディケム様になってますよ」
「ッ――!」
「それにブランさんには私が王女だとは、まだ話して無いのに……」
「………………」
「ずっと私を見守ってくれて、ありがとうございました」
「………………」




