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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章81 天使と女王の謀

 

 ―――シャルマ視点―――


 ブランさんが……

『フン~ フン~ フ~~ン♪』と指をクルクル回し鼻歌混じりで戻って来た。

 その両手には抱えられないほどのボーヌ名物の菓子揚げパンを抱え、後ろにはこの場の面子には似つかわしくない露天商のオヤジっぽい人を連れて……


 そんなブランさんを見て――

 バルコス卿を筆頭に貴族達が一斉に跪きました。


「我が(しゅ)ブラン様! 我ら『時勢の十貴族』並びにその派閥の者ども、ここに集まりまして御座います」


 ⦅な…なにこれ? 『時勢の十貴族』ってナニ!!?⦆


「お…おぉう…… ご、ご苦労でしたマリア……」


 ⦅ブランさんの目が泳いでる……⦆

 ⦅アレは『バルコス卿達を呼んだこと忘れてたっ!』って顔です⦆



「クレアス。 『雷の属性結晶』は一〇〇個位は集まりましたか?」


「は、はいブランさん! おかげさまで全部で三五二個も集まりました。 これでしばらくは大丈夫です。 今は『凍結(フリーズ)』を使う魔法師が間に合わないのですが…… ジャスターさんの冒険者仲間の方も手伝ってくれています。 ブランさん……本当に有難うございました!」




 それから私達は三日三晩薬を作り続け、重傷者を助けるための最低ライン一〇〇〇〇個の薬が完成しました。

 もちろんまだまだ『雷の属性結晶』は残っているので、引き続き薬作りは続くのですが……

 薬が完成したその夜、ここでブランさんが皆を集めました。



 ブランさんが招集をかけた場所は墓地の外れの広場。

 そこは―――

 絶対零度の真白な氷国の夜闇を沢山のロウソクが照らし出す幻想的な場所。

 そして嗅ぎなれない良い香りが漂っていました。


 そこにロウソクの(ともしび)に妖艶に照らし出された、

 黒いヴェールを被り舞踊衣装を纏ったブランさんが現れました。



「みんな―― 皆の尽力のお陰でこの国を救う薬は今日目標最低ラインの一〇〇〇〇個が無事完成した。 そろそろここで最後の奇病の呪いを解き、この国を覆う絶対零度の氷を解こうと思う」


 『おぉおおお――!』とどよめきが起こる。


「だがその前に、ここに居る者達だけに伝えたい事が有る。 ここに居る者達は私が選んだ特別な者達だ。 よく今日まで何も聞かず私の指示だけに従ってくれた……感謝する!」


 今度はブランさんの謝意を聞き『おぉおお……(しゅ)よ!』と感涙する者まで居た。



 そしてブランさんが皆を見回した後――

 まるで物語を吟遊詩人が唄うように語り出しました。


 物語は今から二〇年ほど前のとある王国での出来事から始まります。


 ―――その時代、人族全てが滅亡の淵に立たされ絶望していた。

 ―――そんな絶望の時代、

    とある王国は人族を滅亡から救うため天使降臨を画策し、

    人と天使の子ネフリムを作ろうとした。

 ―――多くの犠牲を払い、最後は国王自ら身を捧げ天使降臨に成功した。

 ―――そして子の受胎もまた多くの犠牲を払い、

    最後に女王自ら身を捧げる事で成功した。

 ―――だがしかし…… そこで裏切りが起こった!

    宿ったネフリムを私的に使おうとする者が現れたのだ。

 ―――天使は怒り堕天し腐食の呪いが振りまかれた。

 ―――とある王国の民の長き苦しみはここから始まった。

 ―――女王は国を救うため堕天使の慈悲にすがり一つの賭けをした、

    お腹の双子の男の子に、呪いを解く鍵を二つに分け宿らせたのだ。

 ―――しかし双子は堕天使に狙われ、下の子は命を落とした……

    そして呪いを解く鍵も永遠に失われてしまったのだ。


 これは堕天使との賭けに敗北した女王の物語――

 しかし本当は……

 王と女王が裏切り者からこの国を守る為に行った(はかりごと)

 堕天した天使もまた――

 自分の子と愛した(きさき)が守ろうとした国を守る為に行った(はかりごと)



 『これでとある王国のお話はお終い』

 ……と甘美な声で語られた物語は、まるでおとぎ話を聞いているかの様に私達の内に入って来た。

 しかしこの場の誰しもが、これがボーヌ王国で起きた悲劇なのだと理解した。

 そして物語は天使との賭けに負けた女王の話だった……

 でもブランさんが語った最後の結びの言葉は……『(はかりごと)』。


「あ…あのブランさん。 『双子の男の子』とはどう言う事でしょうか!? わたしは!……マランジュ女王の子アルバリサは女です。 それに『(はかりごと))』って……亡くなった妹は生きていると言う事ですか!?」


「アルバリサ。 一卵性の双子と言うのは性別が同じになる事は知っているか?」

「いえ……初めて知りました」


「アルカルド医院ならば知っていよう」

「は…はい」

「だが本当に極まれに、一卵性双生児でも別の性別の子が生まれる事が有る」

「……は、はい。 その場合男の双子の片方の男の細胞が欠損し女児となると言われています」


「そうそして――もしそんな偶然をこのタイミングで起こせるとしたらまさに神業。 そんな事狙って出来るはずがない……と裏切り者も思っただろう。 だが神の御使いの天使、しかもその天使が医療を司る天使だったとすれば―― 話は変わってくる」


「っ―――!!!」


「マランジュ女王は男の子と女の子の双子を生んだ。 そして妹だったアルバリサを姉とし、兄だったクレアスを死産した妹クレアとしゴードルフによって隠された。 裏切り者はアルバリサを見て双子が姉妹だったと思い込み死産した妹を探したが……見つかるはずもない。 滑稽な話だ。必死に探していた妹の女児は、実は目の前に居たのだから」


「…………」「…………」「…………」「…………」


「ブランさん…… 今…『兄だったクレアス』と言いましたか?」


 アルバリサの問いに皆が息を呑む。

 育て親のゴードルフだけが目を瞑っている。


「そうアルバリサ。 クレアスはお前の兄だ!」

「ッ―――!!!」


 ブランさんがクレアスの所に歩いて行き、上着を捲り上げ背を確認すると……

 その背中には『Φ』の痣がありました。


「アルバリサ、お前の体のどこかにもこれ『Φ』と同じ痣が有るのだろ? ネフリム特有の痣らしい。 ネフリム信仰のルカ教が崇める印だ」


「………は、はい」




 クレアスとアルバリサは兄妹だった。

 そして今の話だと『呪いを解く鍵を二つに分け宿らせた』と言っていました。

 と言う事は、まだ残るずっとボーヌの民を苦しみ続けた呪いを解く鍵は――

 クレアスとアルバリサ!



「これより―― この国を蝕む最後の呪いを解呪する!!!」


 静まり返った広場にブランさんの声が響き渡る。

 それは長年ボーヌの民が祈り続けた願い。






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