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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章75 神聖なる者

 

 天使アザゼルは光の粒子となり霧散していった。


 これでこの国に残る呪いは既に発動している呪いのみ。

 その呪いもすでに解除する二つの鍵アルバリサとクレアスの所在は分かっている。

 解除すればこの国は救われる。



「………なぁブラン殿。 さっきの天使アザゼルは本当に天使だったのか?」

「ん? それはどういう意味だジャスター殿?」


「いや……なんかブラン殿とのやり取りを聞いていると、とても人間臭いなと思ってな。 もしブラン殿の推察が本当に正しく子供達を護ったのだとすると…… 人間以上に子と妻への愛情が深い様にも思えた」


「………アザゼルは言葉を喋れるのは体の持っていた知識を引き継いでいるからだと言っていた。それはもしかすると感情を含めての事だったのかもしれない。 アザゼルはボーヌ王の記憶と感情を引き継ぎ、マランジュ女王と自分達の子供達を愛してしまったのかもしれないな」


「そうか…… するとアザゼルを斬ったブラン殿に言う事では無いが……とても切ない事だな、アザゼルも苦しんだと言う事か」


「そうだな」



 感情とはなんだ?

 それまで蓄積された知識をもとに脳が考えたモノなのか?

 俺は過去の知識と経験を取り戻す事によって――

 ディケムとラフィットの垣根が薄らぎ二人が混じり合っていく感覚が有る。

 アザゼルはボーヌ王の魂は死んだと言ったが……

 俺のマナは精霊達のマナと融合した感じだ、だが俺の思考はウンディーネと混ざった感覚は無く俺のままだ。

 天使を依り代に降臨させる事と精霊との契約は全く違うのだろうが……

 ボーヌ王にアザゼルが降臨してボーヌ王の魂だけ消滅するなんてあり得るのだろうか?


 アザゼルがマランジュ女王と自分達の子供達を愛してしまったのだとすると、それは知識を受け継いでしまった事で起こった錯覚的感情なのか………

 それともアザゼルとボーヌ王の魂は混じり合い、混じり合った事で感情が芽生えたのか?

 今の俺には理解できない。


 『さっさと我を滅してくれ!』 アザゼルは消滅する事を望んでいたが……

 アザゼル自身、自分に芽生えた感情を理解できなかったのかもしれないな。




 そんな話をジャスターと話しながら、俺はブランを動かし謁見の間に残った四本の魔法の杖を回収する。


「ブラン殿…… その杖どうするのだ?」


「あぁ……この杖にはアザゼルを一年は縛り付けていられる程の膨大な魔力が蓄積されている。 これから我々はこの国全土を覆う絶対零度の氷牢獄を解かなければならない。 それには膨大な魔力が必要だろ?」


「なるほど。 では今から直ぐに氷牢獄から民の解放を―――……」

「まだだ。 今解除しても奇病にかかっている人々の命は救えない」


「っ――あぁ……なるほど。ではどうするのだ?」


「腐食の奇病を治す薬を、アザゼルの子の片方クレアスが開発を進めていると聞く。 まずはクレアスに会い協力し薬を作る事が先決だろう。 だから最初は病気に冒されていない薬作りに協力できそうな人物だけを開放して行く。 とりあえず今からクレアスが居るアルカルド中央病院へ向かおう」


「わかった!」



 ジャスターが居なければ転移で移動も出来るのだが……

 ジャスターには出来るだけ転移だの精霊だのは誤魔化しておきたい。

 しかし彼の存在はこの後、国の復興や政権作りに役立つ。

 面倒だと言って切り捨てる事は出来ない。


 王城へ来た時と同じ、出来るだけ人通り(凍っている人)の少ない裏路地を走り、ブランとジャスターはアルカルド中央病院に到着する。


 病院内も多くの患者で溢れている。

 凍り付く患者で溢れている病室を回り、ブランはアルバリサやシャルマなど知人の姿を探した。

 そして病院奥の部屋に入ったところでベッドに寝かされているフローラの側で泣いているアルバリサと必死に病状を見ている青年の姿を見つけた。


 ⦅彼がクレアスだろうか……?⦆

 ⦅なるほど。 フュエ王女の絶望はフローラが原因か……⦆


「ジャスター殿、多分この二人がアザゼルの子供達だと思う。 だがこの二人を元に戻す前に先にやらなければならない事が有る。 少し込み入った事情があるゆえ……ここでこの子達を守って居てくれないか?」


 『あい分かった!』とジャスターは詮索もせず引き受けてくれた。

 正直、もうこの絶対零度の氷牢獄に閉じ込められたこの国には敵となる者など居ない。

 居るとすればアルキーラ・メンデスだろう。

 だがもしアルキーラ・メンデスに襲われれば、たとえブランがここに居たとしてもアルバリサ達を守ることは出来ない。

 しかしブランはその心配が無い事を知っている。



 ブランは別の部屋へ向かいフュエ王女を探す。

 ……いや。

 探すというより、フュエ王女の居る部屋はブランには最初から分かっていた。

 この病院に来た時、いやこの国が絶対零度の氷に閉ざされた時からブランは感じていた。

 この病院の一室に、神聖で膨大なマナを持った何者かが居る事を。


 ⦅これがあのシロ(猫)なのか?⦆

 ⦅このマナは…… アザゼルなんか比べ物にならない程の存在だ⦆


 正直ブランで来たのは正解かもしれない。

 これほどの存在ともし敵対してしまったとき……

 今のディケムではとても勝てる気がしない。


 ブランは知っている、この存在は呪いにはまったく関係の無い神聖な存在。

 だがたとえそのマナが神々しく神聖であったとしても……

 それが人にとって必ずしも慈愛に満ちた優しいものとは限らないと言う事を。


 そしてその神々しい神聖なマナは、痛いほどブランに向けて―――

 いやブランの中のディケムに敵意を向けていた。





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