第七章74 中位天使アザゼル
「ブラン殿―――!!!」
戦闘の勝利を称える為ジャスターがブランに駆け寄ってくる。
「うぉおおおお―――ブラン殿!!! 俺は……もぉぉおおおう感動したぞ! こんな凄い戦いに立ち会えるなんて、ほんっっっと俺は幸せ者だ。 そして自分が勇者と名乗っている事が恥ずかしい」
「あ…ありがとうジャスター殿。 ギリギリだったが勝つことが出来たよ」
「なにを言っているんだ貴女は! ギリギリなんて……あんなバケモンに勝つ事自体が凄いんだ。貴女はもっと誇るべきだ! あぁああああ~見ていたのが俺だけなんてもったいない! 貴女はもっと多くの人に称えられるべきだ!」
「ジャ…ジャスター殿!? す、少し落ち着かれよ……」
⦅………ジャスターが鬱陶しい………⦆
そしてジャスターが次にしつこく食いついたのは、ブランが今手に持つ『千鳥雷切』だ。
「ブラン殿が持っているのがあの伝説に伝え聞く『千鳥雷切』なのですな!? 雷神を二度斬り、山をも断ったと云う物語は有名だが……誰もその刀を見た者は居ない。 なるほど、今のその姿を見れば誰も見つけられなかったのは頷ける!」
⦅……ジャスターの話が終わらない……⦆
「いや~この目で見られるなんて俺は本当に―――………」
一人はしゃぐジャスターは置いておいて、ブランは玉座に目を向ける。
問題はまだ残っている!
ブランが玉座に縛られたボーヌ王に視線を向けた事で、空気を読まなかったジャスターもさすがに黙り気を引き締める。
二人が見る玉座には、下手をするとサイクロプスより厄介な相手『中位の天使アザゼル』が宿るボーヌ王の体が光りの鎖で縛られている。
四方を床に突き立てられた魔法の杖に囲まれ、杖から光の鎖へと今も蓄積された魔力が注がれている。
杖に蓄積された魔力は放っておけばまだ一年はアザゼルを縛り付けていられる程の膨大な魔力を蓄積されている。
「ブラン殿…… これからどうするのだ?」
「アザゼルをボーヌ王の体から解放するのだが…… 見る限り既に堕天してしまったアザゼルを開放するだけだと厄災を振りまくバケモノを解き放ってしまう事になるだろう。 滅する事が一番だとは思うのだが…… 取り敢えずは今の動けない状態で話せるか試してみよう」
「て……天使アザゼルと話せるのか!?」
「ログウッド長老の話では、マランジェ女王はアザゼルと賭けをしたと言っていた。 試す価値はあるだろう」
ブランとジャスターはゆっくりとアザゼルへと向かい歩いてゆく。
今までは注意をアルキーラ・メンデスやサイクロプスへと向けていて気付かなかったが、やはりいま二人が向かう玉座に縛り付けられたボーヌ王の体から負のマナが流れ出している事が分かる。
この国をむしばむ奇病、腐食の呪いの元凶はこのアザゼルで間違いない。
ブランがアザゼルに話しかける。
「アザゼル…… 話すことは出来るのか?」
「あぁ……我が封印されたこの体の持っていた知識を引き継いでいる。 お前がマランジェの言っていた勇者で間違いないようだな……戦いは見ていた見事だったぞ」
「私が……マランジュ女王が求めた勇者かは知らぬが、この国の呪いを止めに来たことは間違いない」
「ならば呪いを解く鍵も知っているのだろ? 我は約束通り容赦なくマランジェとの子供を災い振りまく子とする為堕天させた。 そしてさらに片方の赤子からは命を吸い上げ育たぬようにした。 だが……生きているのだろ? あの双子は」
「あぁ生きている。 そして二人の居場所も分かっている」
「そうか…… まったく見事なものよ、小さき人間。 まさかこの私がただの人間の女との賭けに負けるとはな」
「………………」
「この賭けはマランジュの勝ちだ! 我はもう抵抗せぬ、好きにすると良い」
アザゼルがそう言うと、アザゼルから流れ出す負のマナが止まった。
しかし既に発動している呪い自体は、アルバリサとクレアス二つの鍵を使わなければ解除は出来ない。
「マランジュ王女は次代に現れた勇者がアナタも開放すると約束している。 私はその約束を果たしましょう」
「………我を殺してくれるのか?」
「このままアナタが残れば、また誰かがバカな事を考えるかもしれない。 そしてあなたは堕天してしまった。 滅してマナに帰った方が良いのでしょ?」
「あぁ。………正直私は今の神の考え方に疑問を持ち地上に降りた。 しかしそれ以上に裏切りに対し人間を呪ってしまった。 このまま残ったとて人の災いにしかならぬ」
「………マランジェ女王の愛したこの国を壊したくない、二人の子供に迷惑をかけたくない……と?」
「我は子供達を殺そうとし、この国に呪いを掛けたのだぞ!」
「はいしかし…… アルバリサ王女は堕天しなければどれ程実験体としてひどい仕打ちを受けた事でしょう。 さらにアルバリサ王女の性別を反転させたのは、本当はあなたなのでは無いのですか? そうする事でクレアスの命も守った」
「フン……下らぬ推察だ! 全てマランジェの愛情が成した奇跡」
「この国だって呪われたが現実はまだ滅亡していない。 もしアルキーラ・メンデスの思うように事が運びさらなる惨い実験が続いていたとしたら、禁忌は続きこの国がネフリムを製造する工場となっていたとしたら…… それこそ『神の審判』が落ち、既に滅んでいたかもしれません」
「勇者よ……世の中はそれ程感動的ではない。 我は人を恨み呪いを掛けた。 民を愛したマランジェは賭けに勝ったが己は死んだ。 今日、すべてが終わり数百年後には民は今の苦しみを全て忘れ、堕天使により呪いが掛けられ、それが勇者により解かれた事実だけが歴史として語り継がれるのだ。 その裏でどのような物語が有ったかなど必要ない」
「ならば私だけでも…… いやそこのジャスターと私二人だけでも語り継ぎま――……」
「――必要ない! さっさと我を滅してくれ」
「分かりました。 ですが……語り継ぐのは人の勝手。 旅立つ者にはどうする事も出来ない事です」
「フン! 勝手にすると良い。 ただ……我を解放してくれる事には礼を言う――勇者よ」
ブランは『千鳥雷切』で居合の構えを取る。
そして一気に光りの鎖ごとボーヌ王の身体、アザゼルを斬った。




