第七章72 四大元素の属性
動きを止めたサイクロプスが体内に溜めたマナを開放する。
マナは―― 水、火、風、土の属性を纏っている。
四大元素の属性を与えられた巨人で間違いないようだ。
サイクロプスが属性を開放した事で巻き起こった爆風で部屋に充満していた煙は消え去ってしまう。
サイクロプスがブランに向け指を差す――
『???』ブランもジャスターもサイクロプスのその挙動の意味が分からない。
―――すると!
四体のサイクロプスの指から各個体の属性魔法『火炎球』『氷水球』『風刃』『土撃』が放たれる!
「ッ―――無演唱魔法!!!」
四体のサイクロプスはギーズが戦った神話級巨人と同じ、まるで精霊の様に呪文も無く魔法を放って見せた!
無演唱魔法を考えても居なかったブランは対処が遅れる――
ブランは避けきれない事を悟り結界魔法を発動する!
しかしブランが発動した防御結界は容易く打ち砕かれてしまった。
それは放たれた魔法がただの魔法ではなく、精霊属性を付与された魔法と同等の威力である事を証明していた。
⦅ッ――なっ!!! マズい……⦆
ブランは体を捻りなんとかかわそうと試みる――
『土撃』……『火炎球』……『氷水球』――……
必至に魔法を交わすブランには時が止まったかのように思えただろう。
辛うじて三つの魔法はかわすことが出来たが最後の一つ『風刃』がブランの左腕を打ち抜き消滅させた。
『ブ、ブラン殿―――!!!』 ジャスターの叫び声が響き渡る!
⦅頼むジャスター殿…… 敵の注意を引く事は避けてほしい⦆
ブランの体はゴーレム体、鋼と土で出来た物だ。
腕が欠損した所で直ぐに再生できるのだが……
ジャスターの手前直ぐには直さない方がよさそうだ。
さて……
ブランを動かすディケムとして一つ困った事が有る。
それは水のサイクロプス。
四大元素は水>火>風>土>水のように三竦みの様な関係性にある。
しかしディケムはまだ『土の精霊』と契約できていない。
土属性を持たぬディケムにとって初めて契約したウンディーネ、最も慣れ親しんだ水の属性が実はディケムの弱みでもあるのだ。
この戦闘にまだ救いが有るのは、ブランの体を構成するゴーレムの術式が土魔法だと言う事。
しかしただの土魔法と土の精霊魔法では力の差は歴然だ。
もしディケムが土の精霊と契約を交わせば、ゴーレムの力も格段に上がる事だろう。
まぁそうは言っても……
今現実に戦っているのはディケムではない。
ネロの夢属性しか持ち合わせていないブランだ。
弱点属性を考えても仕方が無いとも言えるのだが……やはり戦闘中は操っている者が慣れている戦い方に依存してしまう事は否めない。
それにディケムには一つ疑問に思う事が有った。
ブランの体にはディケムの意識しか憑依して居ない筈なのに、ディケムと契約している精霊属性の魔法の威力が増している気がするのだ。
そこでディケムは少し試してみる事にした。
四体のサイクロプスが『火炎球』『風刃』『土撃』『氷水球』の四大属性の魔法を続けて放って来る。
ブランは残った右手の指、人差し指と中指を立て片目を瞑り、狙いを定める様にサイクロプスの魔法に魔法を放つ。
『火炎球』には『氷水球』、『風刃』には『火炎球』、『土撃』には『風刃』……
そして『氷水球』には『土撃』をぶつけてみる!
サイクロプスの放った『火炎球』『風刃』『土撃』はブランの放った魔法に撃ち落とされた!
しかし『氷水球』の魔法だけはブランの予想通り撃ち落とす事は出来ず、ブランは身を捻りそれを交わした。
⦅やはり意識だけ憑依させただけでも、俺の契約している精霊の影響は出ている⦆
⦅精霊とは個では無く全と言う事、個に縛っているのは人の概念だと言う事なのだろう⦆
ブランの中のディケムが少し思考の渦に捕らわれっている間も、上手くネロがブランを動かしサイクロプスの魔法を撃ち落としている。
『そんな……うそだろ!?』とジャスターが呟く声が聞こえてくる。
魔法に魔法をぶつけて打ち消す事など、放たれた矢を矢で狙うのと同義なほど非常識な方法だ。
それほど高度な魔法戦をブランは行っているのだ、ジャスターが感嘆するのも当然だろう。
しかし逆に言えばそれを行わなければならない程ブランも追い込まれていると言う事でもある。
先程ブランはサイクロプスの魔法を結界で防ごうとしたが、簡単に打ち砕かれてしまった。
結界はより強い攻撃がぶつかれば簡単に砕け散る。
現時点でブランの魔法はサイクロプスの魔法より弱い事が分かった。
弱点属性をぶつける事でやっと相殺できる程度。
水のサイクロプスの攻撃に対してはそれ以下、相殺する事すらできない。
土の精霊属性を持っていない分圧倒的に不利なのだ。
今のままでは防御結界を何度張ろうとも、水属性で攻撃されれば結界は砕け散ってしまうだろう。
まったく……
『四大元素を集めないと大変だろ?』とアルキーラ・メンデスの笑いが聞こえてくる様だった。




