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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第二章 城塞都市・王都シャンポール
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第二章5 干ばつの村


 ゴブリン砦の討伐を終え、俺達はシャンポール王都へ向かう。

 王都までの旅路工程の三分二程まで来たとき、干ばつに見舞われている村に通りがかる。

 その村は酷いありさまだった。

 魔物に襲われているわけではない、天災の場合は何か解決策がある訳ではない。

 人々はじっと雨が降るまで耐えるしかないのだ……


 俺達は今日その村に宿を取るしかない。


「お客さん、お疲れのところすまないねぇ。 ご覧の通りこの村はいま干ばつでねぇ、提供できる水が無いんですよ」


「あぁ村の状況は見させてもらいました。 村人の貴重な水を頂くわけにはいきません」


 俺は自分たちの部屋に入り魔法で水を出しのどを潤す。

 魔法師が使うウォーターの魔法は便利だ、だが魔力を使って出す水の為いくら干ばつでも魔法使いに水を出してくれと言う事はタブーとされている。

 魔力は魔法使いにとって血と肉と同じだからだ。


 だけど…… だからと言って人が干乾びそうなときに、そばで水を飲む悪趣味は持ち合わせていない。


「ねぇディケム、何とかならないの?」

「うん…… そうだな」

「今回は天災だし、本当は私たちがどうこうすることじゃ無いのは分かっているけど…… でも目の前で子供たちが死にそうなのを放っておけないよ」


「ララはそう言うと思ったよ…… 荷ほどきをしたら井戸を調べてみよう。 その間ディックとギーズはウオーターで少しでも村人に水を上げてくれ、ララは蔓延している病気の治療だ。 みんな俺からマナ補給できるから大丈夫だろ?」


 『『『おう』』』 その言葉を待ってましたとばかりに三人に笑顔が溢れる。



 俺達は村長に話をつけた後、村の中心にある井戸に向かう。


 井戸の周りには湧くはずのない水を求めて、子供たちが集まっている。

 自分の目で枯渇している井戸を見て、希望を亡くしてぐったりしている子供たち……


 ララは井戸に駆け寄り、今にも力尽きそうな子供たちに話しかける。

「みんなしっかり! 今から水を配ります、一気に飲むと吐いてしまうから、ゆっくりゆっくり飲んでください!」


「大丈夫、水は沢山あります。 他に欲しい人も皆呼んでください~!」


 我先にと水を欲する人々を水は沢山あると落ち着かせる。


「私たちはシャンポール王国ソーテルヌ伯爵の者です。 これから足しにしかなりませんが水の支給を行います。 水が欲しい人は集まってください!」


「病気の治療も行います。 病気や怪我を見てほしい人は集まってくださ~い」


 俺が井戸を調べている間ララ達は村人を集める。

 話を聞きつけた村人が大勢列をなして水を貰いに来た。


 ⦅恥ずかしいから そのソーテルヌ伯爵の者です…… ってのはやめてほしかった⦆



 俺は井戸が枯れた原因を調べるために井戸の底に降りる。

 マナの流れを感じて水の流れを追いかける。

 水が流れていた道をたどると、行き止まる場所がある……


『なぁウンディーネ、水の道が堰き止められていないか?』


『そうじゃな…… 堰き止められている、とまではいかないが流れが悪くなっているのは確かじゃ。 そこに干ばつが重なり完全に水が枯渇したのじゃろ』


『なら流れを良くしたら水は湧くんじゃないのか?』


『まぁそうとも言うが…… 現実これくらいの堰き止めは人族の世界では多々ある事じゃ、マナの流れが見えぬから知らずに堰き止める事は多々ある』


『不可抗力でも、その事で他の村が干ばつで死に瀕しているならば、改善するのが当たり前じゃないか?』


『………ディケムよ。 もしその原因がこの村のように干ばつのために村を救う為だった場合はどうするのじゃ?』


『それは………』


『物事ははっきり善と悪が分かれている物ではない。 その事は肝に銘じておけよ』


『あぁ、どのような結論にせよ原因を確かめに行ってみよう。 改善策はあるかもしれない』


『しょうがないのぅ…… 妾はお前に人間同士の問題などに関わってほしくは無いのだがのう』


 ウンディーネはこの件に関して消極的だ。

 でも目の前で子供達が死に瀕している状況を俺は放って置けない。


「ララ、ディック、ギーズ。 少し気になる事が有るから俺はウンディーネと調べに行く、三人は引き続き村人のケアを頼むよ」


「うんわかった、ここは任せておいて」


「そうだ。 俺が離れるとマナの供給が悪くなるから、魔力枯渇に気を付けるんだよ」


「「「了解」」」




 俺は水の道が堰き止められている場所を目指す。

 この地域を取りまとめる領主ホーコン男爵の屋敷だ。


 屋敷の近くでマナの流れを探り、地脈・地下水脈の流れを探ぐる。


『やはりここで流れが滞っている』


『ディケム、この屋敷の中に地盤を固めるための大きな杭が数本突き刺さっておる。 それが原因じゃろう。 それを取り除くと言う事は、杭で支えているものを壊すと言う事じゃぞ』



 俺は原因を見定めるためにホーコン男爵を訪ねることにした。

 屋敷の守衛に取次ぎをお願いする。


「突然すみません、私はシャンポール王国ソーテルヌ伯爵と申します。 ホーコン男爵にお取次ぎを願えないでしょうか?」


 伯爵の名前を出し紋章を見せると、守衛が急いで男爵のもとに確認に行く。

 暫くするとすぐに恰幅の良い中年の男性が出てくる。


「これはこれはソーテルヌ伯爵様。 このような田舎に来ていただけるなど光栄でございます」


 一通りの挨拶を済ませ、水の堰き止めの原因になっている屋敷内を見させてもらう。

 そこはまるでオアシスのように潤沢に水が湧き、貴族達が集まる大きなプールがあった。


 ホーコン男爵が俺の来訪を来客貴族達に知らせると、挨拶をしに貴族が押し寄せた。

 一通り挨拶を済ませ俺は本題に入る。

 

「皆さん。 私はこの屋敷の下流にある村が干ばつに瀕している原因を調べるためにここに来ました。 このプールを作るために打ち込まれた杭が、地下水脈の流れを止めてしまっています。 せめてこれほど潤沢にある水を干ばつの村に運ぶなどできないでしょうか?」


「干ばつは天災です。 人の力でどうこう出来る事ではございません……」


「だから…… 井戸が枯渇した原因がこのプールだと言っているのです」


「それは我々には全く分からない事です。 隣の町の方が資源が豊富だからと妬んでも詮無き事です」


「自分の土地に杭を打ち付ける事を禁止する法などございません。 川の上流の村に、下流の村が『洗剤が流れて来るから川で洗濯をするな』と言うようなもの。 隣の村が干ばつだからここのプールを壊せというのは、横暴と言うものではないでしょうか?」


「………………」


 結局俺は言い返せる言葉もなく、ホーコン男爵の屋敷を後にした。


『だから言ったであろう、これはとても難しい問題じゃ。 政治の問題に口を出すにはお前はまだ子供過ぎる』


『はい……』


『さらにじゃ。 もしこれが逆の立場で起こっていたら…… たぶん村人も領主を助けたかどうか。 人族はまだそれほど成熟した種族では無いのじゃよ』


『………………』



『だが領民と領主では立場が違う。 領民が税を納めている限り領主は領民を助ける義務がある。 領主と領民では立場が違うのじゃ。 あのいけ好かない領主に少し痛い目を見せても良いじゃろ』


『ウンディーネ!』


 俺達はホーコン男爵の屋敷よりさらに上流に進む。


『ディケムよ、お前もマナの流れを見て水脈を感じ取っているならば分かると思うが、水の通り道は一本ではない』


『はい』


『木の根のようにたくさんの道が有り、分かれ、また合流している。 たとえ一本の道を堰き止めたとしても水は違う道を作り流れていくものじゃ。 ちょうど上流に良い場所がある。 少しだけ領主の水を減らし干ばつの村へと水を流せる分岐点が』


 ウンディーネの言うその場所位に着くと、何もない岩だらけの荒野だった。


『こんな辺鄙(へんぴ)な所なのか?』


『水脈を動かすには地盤を動かさなければならない。 しかしお前はまだ地の精霊ノームとは契約していないから他から力を借りるしかない。 ちょうどここの下にはマグマ溜まりがあるからイフリートを使い地盤を動かし、あとは妾水の精霊の力で微調整する。 聞いておるかイフリートよ』


『おう』


 いつも目立つのが嫌いで人前に出てこないイフリートが顕現(けんげん)する。


『いいかイフリート。 微調整は妾がするから少しだけマグマを隆起して地盤を持ち上げろ。 失敗するとお前の主がちと面倒くさいことになる』


『ん? 俺が不味いこと?』


『失敗して水が全くでなくなったら、事前にクレームに来たお前が疑われるのは必定だろう』


『あッ………』


『ディケム、お前はもう少し(ずる)さを覚え上手に生きる術を身につけなさい』


『はい』



 俺がマナを送りイフリートとウンディーネの共同作業、相反する属性の精霊が協力し合って俺の願いを叶えている。


 地下から地盤が動く地響きが起こる。


『よし上手くいった。 二~三日すれば村の井戸から水が出るじゃろう。 領主のプールは水が少し減るじゃろうが、領主も村も干ばつが終われば気にする程の量ではない。 適性の量に調節できたと言う事じゃ』


『ウンディーネ、イフリート ありがとう』



 俺は村に戻り二~三日後には井戸に水が湧くことを皆に知らせた。

 でも、さすがに井戸に水が湧くと言われて『はいそうですか』と信じられる人は居ない。

 

 俺達は井戸の水が湧くまで、水の支給と病気怪我の回復を行い過ごした。

 そして二日後、村人が全員井戸に集まり本当に湧くのかと神にも祈る思いで井戸を見ている。

 

 すると……… 井戸の底がジワッと湿り出し一気に水が湧き出す!


 『おぉぉぉぉぉ!!!!』


 村人は口々に『奇蹟だ!』と呟き歓喜に湧く。


「よかった、これでこの村も大丈夫よね」

「あぁ」


 歓喜に湧く村人の中から村長が俺に向かって歩いてくる。


「ソーテルヌ伯爵様。 この度はなんとお礼を申していいのか………」


「いや、礼など不要です。 貴族として国民を守る事は義務ですから当然のことをしただけです。 今後は干ばつの間でもこの井戸だけは枯れないでしょう。 そして干ばつが終われば他の水場も元に戻ります。 私に出来る事はここまでです、この厳しい干ばつを頑張って乗り切ってください。 子供たちの命をどうか守ってください」


「はい、井戸があれば我々は生き延びることが出来ます。 この御恩は忘れません。 ありがとうございました」



 翌日、村人に見送られ、俺達は王都に向けて出発した。


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