第七章46 出会いと私の気持ち
―――ボーヌ王国幼馴染三人組 セシリア視点―――
「ねぇトリーノ、クレアス二人共聞いた? 今日他国から冒険者パーティーの人がお父さんの病院を訪ねて来て下さったらしいのだけど、魔法師が四人も居るんだって!」
「それは凄い! 僕も状態異常回復使えるようになって分かったけど…… セシリアのお父さんの負担は計り知れない。僕はまだ一人前には手伝えないからきっとその魔法師さんはお父さんの助けになるよ」
「フン。 でも今までの奴らの様にここの惨状を知れば直ぐに逃げ出すに違いない」
「トリーノそれでもだよ。 一日でも手伝てもらえたら、それだけで助かるんだ。 それ位セシリアのお父さんの負担は大きいんだ」
「うん。 トリーノの言う通り長くは居てくれないとは思うけど…… それでも嬉しいの。 ねぇ私達も一段落したら挨拶に行かない?」
「うん」「わかった」
私達が一段落ついて冒険者の方達に会いに行けたのは午後になってからでした。
冒険者の方達も既にお父さんと回診を終えた後の様でした。
「あ、あの………初めまして。 私、この病院でお手伝いをしているセシリアと言います。 医院長アルカルドの娘です。 この二人は同じく病院を手伝ってくれっているトリーノとクレアスです。 今日は手伝って頂き本当にありがとうございました」
「私達はレクランと言う冒険者パーティー、私はリーダーのシャルマよ。 そして仲間のアマンダ、フュエ、フローラ、リサ。 そして彼は私達の手伝いをしてくれているヴァン」
冒険者の方達は六人のパーティーでした。
驚く事に事前に聞いていたその中の魔法使い四人は私達と同じ年齢と言います。
そして………
お父さんとの回診を終えた彼女たちの顔は既に絶望に包まれていました。
その様子を見て私は過度な望みは捨てました。
ここは人命救助を志す者にとって地獄。
毎日毎日多くの命、特に幼い命から失われていきます。
熟練の魔法師でも直ぐに心が折れて去って行ってしまうそんな場所に……
彼女たち、私達と同じ若い女の子が耐えられるはずがありません。
「ねぇセシリアさん。 私達せっかく同じ歳なんだから敬称付けて呼び合うの止めましょうよ。 私の事はシャルマと名前を呼び捨てにして」
「え………?」
名前を呼び捨てで呼び合おうって……
私は最初何を言われたのか理解できませんでした。
⦅それは…… まだしばらくここに居てくれるってこと?⦆
絶望に包まれていた彼女たちの様子を見て、私は今日にもこの国を出て行ってしまうと思っていました。
「あ…… あのシャルマ……さん」
「シャルマよ! 呼び捨てって言ったでしょ! トリーノ」
「あっ……ごめん、シャルマ。 それは…… しばらくここに居てくれるって事で……良いのかい?」
「そりゃそうでしょ。 私達だって生半可な覚悟でここに来たんじゃない。 そりゃぁ、さっきの回診で少し心が折れたのは確かだけど、だからって私達は苦しんでいる人たちから目を背けて直ぐに逃げるつもりは無いわ!」
「あ…… ありがとう」
私達は目を見張り、心から感謝の言葉を口にしました。
涙が出る程嬉しい言葉だった。
シャルマさんは虚勢も張らず、素直に心が折れかけたと弱音を吐いて………
それでもなお『逃げない』『しばらくここに居る』と言ってくれた。
この人達は信頼できる! 私はそう思いました。
「ただ……アルカルド医院長。 申し訳ないのですが私達はこの国を救いたいとここに来ました。 今日この病院を訪れたのは情報が欲しかったからです。 ですから診療のお手伝いはもちろんさせて頂きますが、ある程度自由な時間も欲しいのです」
「もちろんです。 少しだけでも手伝って頂けるだけで感謝の言葉しかありませんから。 ですが……… この病気の治療方法を見つける事はそう簡単では無いですよ。 我々はもう十三年以上もこの奇病と戦っているのです。 それなのに未だに何も治療法を見つけられていないのですから………」
その後しばらく情報交換をした後、シャルマ達はこれからボーヌ王国で拠点とする宿屋を探しに一度病院を出て行きました。
夜にまたここに帰ってくると約束をして。
そして夜には診察の手伝いをしてくれたお礼も兼ねて、質素ですが歓迎の食事会をしました。
食事も終わり歓談の時間、シャルマ達は変わらず奇病の情報をお父さんから色々聞いています。
そんな彼女達の様子をクレアスがジッと見つめている……
⦅ん………? クレアスが見つめているのはフュエの事?⦆
えっ……ウソ!
あの『女性に興味ありません』っていつも言っているクレアスが……
いやナイナイ!
そんなクレアスに限って………そんな……… ウソ。
胸の奥がギュッと熱くなるのを感じる。
えっ……私…… もしかしてクレアスの事?
いやいやナイナイ……… 無いよね?
「クレアス…… 何をじっと見ているの?」
「ッ―――セシリア! いやじっと見てなんか無いよ。 ただ……」
「ただ?」
「この国の貧民に育った僕には、生きる為の自由なんて何一つ無かった」
「…………」
「敵国にすら自由に行き来する彼女たち冒険者って凄いなって………」
「うん凄いよね…… クレアスは冒険者に憧れてるの?」
「いや、自由には少し憧れるけど…… 僕はこの国が好きだから」
「じゃぁ、クレアスは何になりたいの?」
「僕は…… 何になりたいんだろう?」
「クレアスが何になりたいのか分かったら…… 一番に私に教えて?」
「……う、うん。 わかった」
「約束よ」
なぜか私はクレアスの夢を一番に聞く事にこだわった。
やっぱり私はクレアスの事………
―――ディケム視点―――
「ねぇディケム…… ボーヌ王国の状況は予想以上に酷い様ね」
「あぁララ。 正直ここまで酷い事になっているとは思わなかった………」
「原因は掴めたの?」
「ざっと街を見て廻ってるけど一般市民が奇病の原因を掴めた情報は今の所無さそうだ。 もちろん天使についての情報も一切無い」
「じゃぁ今の所手詰まりってこと?」
「そうでもない。 実は気になる事を発見した」
「気になる事?」
「あぁボーヌ王国には…… なんて言うか…… 負のマナ的なモノが漂っている。 どうにも気持ちが悪いマナだ。 そしてそれは濃い場所と薄い場所が有って場所によって一様では無いのだけれど、王城を中心に濃い傾向が有る」
「気持ち悪いマナ?」
「あぁ、もしこれが奇病の原因なのだとしたら今まで誰も突き止められなかった理由も頷ける。 相当熟練したマナを見る目が無ければ気づくことも出来ないだろう」
「その気持ち悪いマナの濃い所に奇病の発症者が多ければ………」
「俺もそう思ったんだけど…… マナの濃淡は常に変化している。 強いて言うなら偶然マナが異常に濃くなった場所に偶然そこに居た人が奇病に侵されているのではないか? と俺は思っている。 だとすれば奇病発症者に規則性が見られないのも頷ける」
「とても厄介ね……… それで対処法は無いの?」
「マナの淀みは、湿気の様に風を送ったらコントロール出来ると言うものじゃない。 しかもこのマナは自然に発生したモノではなく原因となる何かが居るから発生しているモノだ」
「対処法は無いと……」
「いや…… 実はまだ調べている最中だけど少し面白いものを見つけた。 この特異なマナがなぜか避けている様に見える場所が有る。 その理由が分かれば………」
「対処法になると」
「そう願いたい」




