第七章44 しばしの別れ
―――フュエ王女視点―――
ボーヌ王国は人族領の北西に位置し、西側を海に面している事で温かな海風が流れ込み暖かな気候の領土です。
このボーヌ王都の街は、夏の海から照り返される強烈な日差しから建物内が高温になる事を防ぐため、建てられている家々は白く塗られました。
これはこの地域に、壁を白色に塗る元となる石灰が多く産出され、安く手に入る事も理由なんだそうです。
海から照らされた日差しに白く輝く街。
白の国と称されるボーヌ王国は水の国シャンポール王国と並び、人族六大国のなかでも最上に美しい国と称される。と子供の頃から私は教わってきました。
私達は見晴らしの良い小山に登りボーヌ王都の街を一望します。
「わぁ~ きれい………」
「ここが、リサが生まれ育った国なのね」
「噂に違わぬ美しい街だな」
「街並みだけを見ると、とても奇病に長年苦しめられてきた様には見えないわね」
この国の領内に入ってからアマンダ、ヴァンさん、ブランさんに私達の目的を伝えました。
『ボーヌ王国に蔓延する奇病を解決する』
『ボーヌ王国の戦争を止める』
これが私達の旅の目的だと……
そしてリサが私達の学友で、ボーヌ王国の王女だと言う事を伝えました。
ちなみにリサ以外の私達の事は秘密です。
私達は学友の王女を救う為に立ち上がった冒険者と言う設定にしています。
その目的を聞いた上で、まだ三人は私達に付き合ってくれると言ってくれました。
「それでこの後の行動予定は決まっているのかシャルマ?」
「行動予定というと?」
「私は魔神族だ、多分皆と一緒に白昼堂々とボーヌ王都の街を歩く事は難しいだろう」
「あ…… そう言えばボーヌ王国は三種族同盟に宣戦布告しちゃったのよね。 ボーヌ国民はピンときてないとは思うけど、だからって不用心って訳にもいかないか……」
「あぁ。 ここから私はお前たちの邪魔になってしまうだろう。 だから別行動する事にする」
「ちょっ、ブランさん! ここまで一緒に来たのにここでお別れとか――……」
「――シャルマ、お別れとは言っていない。 私だってここまで一緒に旅をしたんだ、お前たちの結末を見届けたい。 だがお前たちの目的は私に気など使っていて叶うような易しい望みではないだろ?」
「う、うん……」
「とりあえず三日後の夜に此処、この丘に集まると言う事でどうだろうか? それまでに私なりに情報収集をしておく。 それともし急遽私と連絡を取りたくなったときは、この薬を焚火と一緒に燃やすといい。 特別な色の狼煙が上がる。そしたら私はこの丘に来ると約束しよう」
「うん分かった」
「それではしばらくお別れだ、お前たちの成功を祈っている」
そう言ってブランさんは直ぐに私達の前から姿を消してしまいました。
ブランさんが居なくなると、急に私達はみな保護者が居なくなったような不安に襲われました。
「何かブランさんって…… なんだかんだ何時も助けてくれるアイツに雰囲気似てるのよね」
「うん………」
私達はいつも見守ってくれていたディケム様の顔を思い浮かべ、ブランさんと重ねていました。
ちなみにヴァンさんはブランさんと一緒に行きたそうにしていましたが……
『私が居ない間お前が頼りだ、期待しているぞ』とブランさんに私達の事を頼まれ『ま…任せておけ!』と軽くあしらわれていました。
―――ディケム視点―――
「ねぇディケム。 少し聞いても良い?」
「あぁララ。 俺に分かる事ならね」
「私もね、今回の事で国の情勢の事とか少し色々調べたんだけど――……」
「っ――!!!」
「な、何よその意外そうな驚いた眼はっ!」
「いやゴメン…… ララがそんな事に興味持つとは思わなかったから―― グハ」
⦅痛っ…… 叩くこと無いだろう⦆
「もぅ……それでね! ボーヌ王国は北にドワーフ族国、西側の海の向こうには鬼神族国に接しているのよね。 この両国から人族領土を守る要がボーヌ王国だった。 でもドワーフ族国はエルフ族国に匹敵する大国。 鬼神族国は小国だけど魔神族国に匹敵する強い種族だと資料に書いて有ったわ。 そんな国に接しているボーヌ王国がもう十数年も前から実質国王不在のまま、まともな政治なんか出来なかったと思うのだけど、なんでこの両国から狙われなかったの?」
「実は俺も不思議で調べてたんだけど…… ドワーフ族国はもしかすると人族とは違い、神代の時代に有った友情を今も伝えているのかもしれない。 現ドワーフ族国の王は『ザクセン・バーデン』、代々ドワーフ族は『バーデン』一族が王を継いでいる。 王祖シャンポールにファフニールを封印する為『愚者の籠手』を作ったとされるドワーフの名はバーデンだった。アウラから聞いた話覚えてるだろ? だから神の呪いで袂は分かれたけど未だに攻め滅ぼす事はしないと……」
「それが本当なら…… 耳が痛い話しよね」
「あくまでも想像だよ。 あと鬼神族の方は海の向こうの島国と言う事が大きな理由だろうけど………」
「だろうけど?」
「今回のボーヌ王国とドワーフ族との同盟は、ドワーフ族が鬼神族に責められているからと報告があった」
「うん」
「ならなんで弱っているボーヌ王国を狙わなかったのか?」
「ボーヌ王国は弱ってるけど、人族自体は三種族同盟を結んで表面上は強種族となっているからじゃないの?」
「まぁそれが理由なのだとしたら良いんだけど……」
「何か気になる事有るの?」
「ルカ教…… ラトゥールの報告だとルカ教は種族の枠を超えて暗躍している恐れがある」
「ルカ教…… 私達よりネフリムに詳しく、各地で暗躍している教団……」
ルカ教に関しては―――
細かな末端の情報しか集まらず、まだ核心には程遠いと言うのが現状だ。
だが逆に言えば魔神族、エルフ族、人族の情報網を自分の統制下に収めたラトゥールが未だに核心を掴めないと言う事は、ルカ教はそれよりももっと上に居る可能性が高いと言う事でもある。




