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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章43 龍の寝床(ドラゴンヴィスタ)攻略

 

 ―――フュエ王女達視点―――


 不落の要塞と謳われる『龍の寝床(ドラゴンヴィスタ)』。

 私達は今日の夜、闇夜に紛れてこの砦攻略に向かいます。


 馬に乗る組み合わせは私とアマンダ、フローラとリサ、シャルマとヴァンさんと言う組み合わせになりました。

 意外だったのは冒険者のアマンダとヴァンさんが馬の扱いが苦手だったこと。

 冒険者は戦争に招集が掛かった時も、基本歩兵として馬には乗れないのだそうです。

 むしろ私達の方が貴族のたしなみとして乗馬を習っていた事から私、フローラ、シャルマが馬を扱う事になりました。


 そしてブランさんは砦攻略当日の今日も策の仕込みとして、ほとんど私達とは別行動でした。


 乗馬の練習中に何度もシューティングスターの叫び声が遠くから聞こえて来たので、皆でブランさんの心配をしていましたが………

 夕方になり、何事も無かったかの様にひょっこりと帰ってきました。


「ブランさん。 シューティングスターの鳴き声が何度も聞こえましたが大丈夫でしたか?」

「あぁ問題無い。 それよりも乗馬の方は大丈夫か? まさか熟練冒険者二人が馬に乗れないとか予想外だったからな」


 『『面目ない……』』とヴァンさんとアマンダが居たたまれない顔をしています。


「乗馬は私とフローラ、シャルマがそれなりに乗れましたので大丈夫そうです」


「よし、それならこれから食事を取り夜に向けて仮眠をとるぞ。 今夜は砦を抜けて、一気にボーヌ王都近くまで夜通し駆け抜ける。 馬も今のうちにゆっくり休ませておけ」


「「「はい」」」




 夜中の二時過ぎ頃、私達は砦攻略の為に行動を起こします。

 目指すは街道沿いに作られた検問場の木で作られた門。

 ここをブランさんが東から向かい破壊すると言うのです。


 『砦が大混乱になったら、その混乱に乗じてお前達は南から門を駆け抜けろ』と言われています。

 どのように門を壊すのか聞いても『策が上手くいかなければ方法は臨機応変に変える。余計な雑念は失敗を招く恐れがある、お前たちは門を抜ける事だけに注意していればいい』と具体的な事は教えて貰えませんでした。


 ブランさんだけならこの砦を抜ける事など造作も無い事。

 私達が抜けられなければ、この策は失敗となると言う事です。



 私達が夕闇に隠れてその時を待っていると―――

 その時はすぐに訪れました……


 砦に向かって誰かが早馬で駆けて来ます。

 頭を布で覆っているけれど、あれはブランさんで間違いないでしょう。


「えっ………」

「ちょっ……うそ! あ、あれブランさん?」

「嘘だろ? ブランの奴なんてもの連れて来やがる!」


 砦に向かって逃げるように駆けてくるブランさん。

 その後ろには―― シューティングスターが怒り狂った形相で追いかけてきます!


 確かに魔神族のブランさんが直接砦の門を攻撃したのなら種族間の問題に発展しかねません。

 でもシューティングスターが門を破壊したのなら、誰も文句を言える者など居はしない。

 それにしても………

 龍の怒りをコントロールして砦の門だけを壊す事など出来るの!?


 ブランさんは絶妙な距離でシューティングスターを誘導しています。

 本当にギリギリ捕まらない距離で、危機的状況で必死に逃げている女性を演じています。



 真夜中、突然のシューティングスターの来襲に砦中に警鐘が鳴り響きました。

 砦の中が慌ただしく動き回っている事が分かります。

 でも…… いくら砦に多くの騎士団が集まっているとしても、龍を相手に真正面から戦う愚行はしないでしょう。

 たぶん砦も私達が使った『火薬筒』的な物を使い大きな轟音でシューティングスターを追い払うつもりでしょう。


 私達は、砦が使う『火薬筒』の轟音と煙で場が混沌とした時、隙を狙い砦を抜けろとブランさんは言っているのでしょう。

 でもその時に砦の門が何かしらの方法で破壊されていなければ、私達は砦門を通り抜けることは出来ません。



 私達もまだ門が壊れていませんが、砦の警鐘音と夜闇に紛れ馬で駆け出します。

 騎士団は迫りくるシューティングスターに注視している事も有り、別方向から夜闇に紛れ疾走する私達に気付く気配は有りません。

 それでも近づくほどリスクは増し、門が破壊されなければ作戦は泡と消えます。


 シューティングスターを引き連れたブランさんは、東から真っ直ぐに砦の門へと向かって馬を走らせています。

 ブランさんを信じて、私達も南から真っ直ぐに門に向かって馬を走らせます。


『まだ門は壊れていない……』

『ブランさん、どうやって門を壊すつもりなの?』

『本当にこのまま門へと向かって走って大丈夫なのか?』

 と私達の緊張がピークに足したとき――


 私は遠目にブランさんが指輪に口づけをしたのを見ました。


 ⦅あれはこの前使った、指輪を触媒にした幻覚魔法?⦆

 ⦅魔法耐性が強い神獣たる龍に魔法が効くの!?⦆


 私の危惧など不要でした。

 シューティングスターは突然奇声を上げ、顎門(あぎと)に氣を集め――発射しました。


 ドォオオオッッッ──ン!!!!


 ⦅ブランさん―――!!!⦆


 ブランさんは後ろから放たれた氣の塊を、振り向きもせずに少しだけズレて避けました。

 そして氣の塊はそのまま砦門を吹き飛ばしてしまいました。


『門が壊れた! 私達はこのまま突撃―――!!!』


 砦からシューティングスターへと大きな『火薬筒』のような物が使われ轟音が鳴り響き、辺りを煙が包みます。

 さらにブランさんが追加で『火薬筒』のような物を幾つも使ったようですが、前に使った『火薬筒』よりも煙が異常に多い様に思えます。


 シューティングスターは『火薬筒』の轟音と強刺激を仕込んだ煙を嫌がり一気に上空へと昇って行きます。

 騎士団の注意が上方へ向けられた隙に、さらに追加の『火薬筒』の轟音と煙に紛れて私達は破壊された砦門を通り、そのままボーヌ領へと駆け抜けていきました。


 砦を抜けた私達は夜闇の中、止まる事無く二~三時間馬で駆け抜けました。

 そして夜明け前の世界が瑠璃色に染まる時間が訪れた時、丘から見下ろす遠方にボーヌ王都が見えてきました。

 私達はやっとここで馬を止め休息の時間を取る事にしました。



「ふぅ~ ここまで来たら大丈夫ね」

「本当に『龍の寝床(ドラゴンヴィスタ)』を抜けられるとか、私達凄くない?」

「それは私達じゃなくて…… アレをやったはブランさんが凄かったのでしょう」

「凄かったが…… シューティングスターを利用するとか無茶が過ぎるだろ!」

「まぁ無茶をした事は認めるが、無事抜けられたのだから良いでは無いか。 砦を破壊した責任も龍に押し付けられたしな」



 そんな会話にも笑顔が零れ、皆に少し余裕が出てきたことを感じます。


 それにしても――

 あの時、シューティングスターが氣の塊を発射したのは、多分ブランさんの魔法に惑わされたから……?


 魔法耐性が強い龍に魔法が効いたと言う事は、ブランさんの魔法がシューティングスターの耐性を上回ったと言う事では無いの?

 もしかするとブランさんが本気になれば、十分シューティングスターとも渡り合えると言う事では無いでしょうか?


 そんな恐ろしい予想を私は胸にしまい込み、しばらく皆と談笑致しました。







 ―――ディケム視点―――


「……………。 ディケム本当に『龍の寝床(ドラゴンヴィスタ)』を破っちゃったのね」

「いや『龍の寝床(ドラゴンヴィスタ)』を壊したのはシューティングスターだから」

「そんな言い訳は…… まぁいいか。 騎士団には同情するけど姫様達の成長の為だと思ってもらうしか無いわね」


「それで……ララどうだ? 月竜は?」

「うん良い。 凄く良い! 玉藻もそう思わない?」


 子狐の玉藻が『ウンウン』と頭を縦に大きく振っている。


「月竜は真白な羽毛に四つの羽根を持つ特別なエンシェントドラゴンだ。 属性も聖属性とララに持ってこいの龍だけど…… アレを手に入れるのはかなり難しいぞ」

「うん」


「神獣と契約するには極力俺達の手伝いを借りずララが自分の力を龍に認めさせなければならない。それは簡単な事じゃ無い。 例え戦って勝てたとしても龍が認めてくれなければ契約出来ないだろうし、逆に戦わなくても龍が認めてくれれば契約は成される」

「うん」


「そしてララは玉藻とは強制力のない繋がりを良しとしたけど、月竜はそうはいかない。 神の呪いから解き放つ為にもしっかりと契約で縛らないといけないよ」


「うん。それは分かってる」



 記録の魔法石を使い映像化された月龍を、ララはじっと見つめている。





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