第七章40 魔神族の女戦士 ブラン
―――フュエ王女視点―――
「まっ……魔神族の方ですか?」
「そうだ。 だがまずは竜から助けてくれた礼を言わせてほしい。 私は魔神族の『ブラン』と言う者だ。 この度は助かったありがとう」
「い、いえ…… 困っている人が居たら、誰であろうと助けるのは当り前です」
アマンダが、さっきまで『ヴァンだけなら放っておく』と言ったのに……
『誰であろうと助けるのは当り前』って言いだした。
まぁそれは良いとして……
魔神族の女性が話の通じそうな人でよかったです。
取り敢えず私達も名を名乗り、少し話を聞く事にしました。
「あ、あの…… 失礼ですが、どうしてここに魔神族の人が?」
「あぁそうか。 私は人族と魔神族の平和友好条約の一環、『出境旅行』の枠で入国した旅行者だ。 この出で立ちだが…… なにぶん軍に縛られるのが嫌いな性分でな、一緒に入国した友人達が必死に働いているのを尻目に、仕事もせずブラブラと旅を楽しんでいるという訳だ」
『この出で立ち』と言うだけあって、ブランさんは見ただけで凄いと分かる服……、いや装備を身に着けています。
この頃軍の方たちと居る事が多い私は、少しだけ装備に使われる素材金属にも詳しくなりました。
現に武器の凄さに敏感なフローラもブランさんの装備に目を見張っています。
ブランさんが身に着けている鎧、ガントレット、グリーブは着色され布で隠されているけれど多分ララさんの弓装備と同じ、オリハルコン素材だと思います。
わが国ではオリハルコン装備と言えば国が管理する国宝級、発見されている装備は全て武器だけで、その体装備が有るなど私は知りませんでした。
そして…… それ以上に目を引くのは手に持つ『小太刀』。
あの刀は多分…… 『アダマンタイト』では無いかと思います。
私の持つアーティファクト武器、ヒヒイロカネで作られたヒュプノスクリス程では無いけれど…… オリハルコン以上の存在感が有ります。
ヒヒイロカネではなく、オリハルコより上の金属と言えば―― アダマンタイトしかありません。
私はアダマンタイトを見るのは初めてです。
そんな凄い装備を身に纏った魔神族の女戦士が、ただの観光旅行って………
『平和友好条約』とは、三種族同盟の人族、魔神族、エルフ族が各国に大使館を置き様々な取り組みを行っています。
今一番大きな取り組みは、主に様々な分野の技術者派遣を行い技術提携など行っているそうです。
軍関係はディケム様が中心となって行っているのですが、ポーション開発では目覚ましい成果を上げていると聞いています。
その平和友好条約の取り組みの中に、まだ枠は少ないですが『出境旅行』と言うものがあります。
『出境』とは国境を出る事。
ようは各国から数人を選び旅行者として送り合い、お互いの文化を知り親睦を深めようと言うものです。
『出境旅行者……ですか?』と私達がブランさんの出で立ちを見て。
『にわかに信じがたい』と疑いの目を向けると……
「まぁ…… 正直に言えば旅行者とは入国する為の建前だ。 軍に縛られるのは嫌いだが、私も魔神族としての性分は変わらない。 私は自分を高めるための武者修行をしているのだが…… 丁度国から今話題の人族国への『出境旅行者募集』を知ってな、 半分冗談で申し込んでみたら当選したと言うことだ。 来たからには人族領でも武者修行をしようと旅を始めたところだ」
「それでシューティングスターと……」
『『『『はぁ……』』』』と皆でため息を付いていると――
『ちょっ……ちょっと待ってほしい! その事は自分の名誉の為にも言い訳をさせてくれ』とブランさんが慌てて話し出す。
私達はすごく嫌そうな顔をするブランさんの話に耳を傾けた。
「私は美しい竜がいると聞いてここに見に来ただけなんだ。ホントに信じてほしい。 竜とは強さのシンボル、魔神族にとっても特別な存在なんだ。 無暗に戦いを挑む事などしない!」
ブランさんは戦うためじゃなく、ここへは只シューティングスターを見に来ただけなのだと言い張ります。
「その姿を一目見ようと昨日からここで野営をしていたのだが…… この男に付きまとわれてな」
「はぁ? ………ヴァンさん?」
皆でヴァンさんを見ると、ヴァンさんは少しも私達に臆する事なくブランさんに言い切ります。
「惚れた! 俺は今まで女に興味などなかったが……頼む! ブラン、オレと結婚してくれ!!!」
『『『『……………』』』』私達は言葉もない。
確かにブランさんは人ならざる美しさを持っています。
けれど初めて会ったばかりの人、しかも他種族の人にいきなり『結婚してくれ』って……
これはバカらしいけど迷惑行為として国際問題とかにならないのでしょうか?
「全く初めて会った女に求婚など非常識にも程があるだろ? しかもあまりにもしつこいからつい………」
「つい?」
「『私の夫になる者は、竜ぐらい倒せる者で無ければ話にならん!』と言ってしまい………」
「…………」 「…………」 「…………」 「…………」
「やっと念願のシューティングスターが現れ、私も竜を見て興奮しそんな話も忘れていたら、このアホが突然挑みかかって……… 先ほどの惨事と言うわけだ」
『『『『はぁ……』』』』と結局また同じ皆でため息を付く。
結論から言えば『ヴァンさんの暴走』と言う事ですが、ブランさんにも原因が無いとも言い切れません。
どちらにしてもケガ人が無かった事だし、これ以上深堀しても意味が無さそうなので『この話はもう止めましょう』としました。
「それで? 私の事は話したが君たちはどうしてここに? よそ者の私が言うのもなんだが今ここは危険な場所だ。 シューティングスターが活動期に入り、一般人はここを避け迂回するのが普通だと聞く。 ここを……しかも女性五人のパーティーが通るなど、やんごとなき理由が有るとしか思えぬが?」
「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」
私達は言葉を失う。
ここにはヴァンさんも居ます。
話すべきか? 誤魔化すべきか?
私達が迷っていると、この旅の詳しい事情を知らないアマンダが話を切り出しました。
「我々はとある事情で、一日でも早くボーヌ王国を目指している」
「ボーヌ王国……と言えば人族大国同盟を離れ、しかも宣戦布告まで行った国では無いか? そんな話、騎士団にでも聞かれたら即拘束ものだぞ?」
「えぇ。 だからブランさんの察しの通りやんごとなき理由が有るのよ」
⦅アマンダ…… もしかしてブランさんを引き込もうとしてるの?⦆
するとその会話にシャルマも乗り出す。
「でも…… ブランさんなら他国の人だから見逃してくれるでしょ? 私達のやんごとなき理由を」
「…………。 まぁさっきも言ったが私は堅苦しいのは嫌いだ。 はなから騎士団などに関わるつもりも無かったが…… ただ面白そうな匂いがしたものでな」
「…………」 「…………」 「…………」 「…………」
「どうだシャルマとやら。 不本意ながら竜から助けてもらった恩もある。 この後これといった行く当ても無いのだが…… 私を一緒に連れて行く気は無いか? 自分で言うのも何だが私はかなり強いぞ」
『よしっ決まり!』と皆一致でブランさんも一緒に旅をする事になりました。
そして……
なぜか『俺も一緒に行く』とヴァンさんも一緒に旅をすることになりました。
まぁヴァンさんの目当てはブランさんだけでしょうけどね。