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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章38 オブザーバー

 

「ディケム様―― 緊急事態です! フュエ王女及びシャルマ嬢、フローラ王女、アルバリサ王女が突然姿を消したと言う事です!」


「ッ―――なっ! 突然姿を消した……?」


「はい。 昨夜のフュエ王女の護衛はエマが担当しておりました。 エマは何度も部屋の中のフュエ王女と会話をしていたと言うのですが…… 今朝、忽然と姿を消したと言う事なのです。 それに合わせて三人の王女達も一緒に……」


 俺は報告に来た伝令使を下がらせ『どう思う』とラトゥールを見る。

 ラトゥールは少し面白そうに口元に笑みを浮かべている。


「まさかディケム様を出し抜くとは…… フュエ王女を少し見直しました」

「ラトゥール…… 面白がっている場合ではないだろ?」


「すみません。 ですがこの公爵邸でディケム様の目から逃れる事…… いやこのシャンポール王都内の監視網をかいくぐる事は基本不可能だと思っていました。 それを可能としたのなら……」


 俺はラトゥールの言葉に頷き、『ネロ!』と夢の精霊オネイロスを呼び出した。


「ネロ。 お前がこの件に一枚嚙んでいるな?」

「うぅぅ………。 わ、私は反対したのだ。 だけどフュエが私を置いてでもどうしてもって」


 ネロの話を聞いて、さらにラトゥールが面白そうに笑みをこぼす。

「ディケム様。 フュエ王女達を連れ戻しますか? ご命じ下さればすぐにでも私が行ってまいりますが」


『…………』ラトゥールの提案に俺は即答を避ける。


 シャルマとフローラが一緒ならば、無計画な感情だけで動いたのでは無いのだろう。

 彼女達なりに考え抜いて行動に移したのならば、その意思と決意を力で捻じ伏せるのも良しとは思えない。


「ですが…… フュエ王女が敵地に赴いた事を知って放っておくことも出来ないのでは?」

「だよなぁ~」


 ラトゥールは俺の命令を黙って待っている。

 表面上は連れ戻す事を提案してはいるが…… それが本心でない事は見え見えだ。

 この事案は放っておいた方が、結果が面白い方向に向かう可能性が有るとラトゥールも思ったからだろう。

 ラトゥールは基本そこにリスクが有ったとしても、その経験によって人が成長する事を好む傾向がある。

 リスクは自己責任、失敗したのならそれはその者の力がそこまでだったのだと切り捨てる。

 俺もラトゥールの考え方は否定しない。いやむしろ肯定派なのだが……

 その相手が、正式に婚約した訳でもないがお披露目で自分がエスコートした相手となれば…… 何もせず放って置く訳にもいかないだろう。

 ちなみにだが、ラトゥールにとって相手が王女かどうかは全く考慮に入っていない。


「なぁラトール。 昔、カステル陛下の戯れでドワーフ族の国を攻めた事を覚えているか?」

「はいっ! あの戦いは苦しくも楽しい戦いでした――」


 俺の突然脈絡の違う話にもラトゥールは嬉しそうに返事をする。

 俺が魔神族だった時の思い出話をするとき、ラトゥールはいつも満面の笑みになる。


「カステル陛下の遊びに付き合った俺達は、ドワーフ族のゴーレム部隊に苦労させられた」


「はい。 我ら真摯に肉体を鍛え武を突き詰めた魔神族に、遠方から命無きゴーレムを操る卑怯者のドワーフ共は相性が悪い相手でした。 ですが……多少不利だったとしても最後は我らの敵ではありませんでした♪」


 遊び半分でドワーフ族に大ダメージを与えた事を、一切の悪気も無く嬉しそうに無垢な少女の如く話すラトゥールは、まさに武神の化身と言えるほど純粋で清々しいと俺は思う。


「あの時、ゴーレム兵の大隊の中に部隊を指揮する大隊長となるゴーレムが居た。 厳密には隊長ゴーレムを操っているドワーフが居たのだが」


「はい、覚えています。あのゴーレムは別格でした。 カラクリのゴーレムが、あの個体だけまるで命でも宿っているかの様に自在に動き厄介でした」


「あれは遠い所から命令されて動くゴーレムの動きでは無かった。 あれは自分の意識を直接ゴーレムに憑依させて、自分の体の様に動かしていたのだと俺は思う」


「ゴーレムに意識を憑依させる…… ですか?」


「あの時の俺は自分がそれを行おうとも思わなかった。 いやあの時の俺には同じことは出来なかったが…… ウンディーネの『マナ・コネクト』がある今の俺には同じような事が出来る。 ドワーフとはやり方は違うと思うけどな」


「自分の分身体としたゴーレムをフュエ王女の元に送ると言う事ですね」


「しゃくだがミュジニ王子の思惑通り、天使事変の影響で俺がこのシャンポール王国を離れれば国民に不安を与える。 それが王女の為と知れればフュエ王女に悪意が向きかねん。それこそミュジニ王子の思うつぼになる。 それに体裁を無視して俺がフュエ王女の元に駆け付けたとしても…… それも彼女たちが俺を受け入れるとも思えない。 それなら最初から俺を頼って来ただろうからな」


「ならばせめて目となるゴーレムでも送ろうと言う事ですか……」

「あぁ」


「ですがディケム様。 戦争の時の様に短期でゴーレムに意識を憑依させるのでしたら良いと思うのですが…… 今回はどう見ても長期になります。 何日もゴーレムに意識を憑依させる事は難しいのではないでしょうか?」


 ラトゥールの指摘に俺はネロを見る。

 ネロが『な、なによ?』と少し怯えた顔をする。


「日頃からフュエ王女の影武者役でゴーレムと馴染んでいるネロを使う。 俺が意識を向けられない時はネロがゴーレムを動かしていればいい」


「なるほど…… まさに精霊使いならではの運用ですね」


「た、確かに元々私はディケムのマナと一緒に居るから、それがゴーレムの中だったとしても基本は変わらないわね」


 俺はいつもネロが宿っている、フュエ王女のゴーレムコアとは別のゴーレムコアを取り出した。

 ゴーレムコアは既にアウラがトレース済みだ。


「これを使えばいいのね?」

「あぁ」



 ここまでの話は良かったのだが――

 ここから俺の予期しない方向に話が進んでしまう……


「それでディケム。 私もフュエを守護したいからこの案に異論は無いのだけれど…… 姿はどうすればいいの? ディケムの姿もフュエの姿もダメでしょ?」


「そうだな…… 今回の姿はまったくの架空の人物が良いだろう。 誰か知っている姿は王女達に警戒感を与えてしまう」


「まぁ夢の精霊の私は誰かになりすますのは得意なのだけど…… まだ封印から解放されたばかりで本調子で無い事もたしかだわ。 いつもフュエの姿でフュエの側に居るから、下手な姿だとボロが出て気づかれてしまいそうで怖い。 だから念のためゴーレムの性別を男で作ると咄嗟に間違えそうだから女にしてね」


「ッ―――なっ!!!」


「なるほど…… それは良い! ディケム様それならばゴーレムの姿は魔神族の女にしましょう! 魔神族の女なら男勝りだから男言葉が出ても問題無いです。 あぁ……イメージはラフィット様を女性化させたような…… いい! 絶対に良いですよ!」


「ラ……ラトゥール落ち着け! 俺に女性のフリは無理だぞ」


 結局、盛り上がったラトゥールとネロを説得できず。

 『これは遊びではなくフュエ王女の護衛としての仕事です!』と押し切られ……

 ゴーレムの容姿はラトゥール好みの魔神族の女性姿となってしまった。




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