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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第二章 城塞都市・王都シャンポール
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第二章4 ゴブリン砦討伐作戦


 一刻を争う中軍議は簡素なものだった。

 ララとプーリアは後方で支援と回復役。

 ディックとギーズは魔法でゴブリンを遊撃しおびき出し誘導する。

 その隙にメスカル率いるプーリアの護衛部隊が人質を救出。

 遊撃でおびき出されたゴブリン達を最後に俺が大火力で殲滅する。


 こんな簡単な作戦で大丈夫かと思ったが、要所要所で俺が精霊を使い援護すれば大丈夫だろう。


 それでは出撃となる前にメスカルから俺に一つだけ要請があった。


「ソーテルヌ卿。申し訳ないが一つだけ…… 出撃前に精霊様を見せて頂けないでしょうか? この作戦ソーテルヌ卿が全てのカギです。 失敗すれば我々は全滅でしょう。 我々が聞き及ぶアルザスの奇蹟ソーテルヌ卿は、大精霊ウンディーネ様を肩に頂いている姿です」


 そんな事で信じてもらえるならと、俺はウンディーネを肩に顕現(けんげん)させる。

 プーリア達は目を見張り俺達を信用してくれた。



 俺達はゴブリンが占領する砦を見渡せる小高い丘に移動した。

 この作戦の人数は、俺達四人とプーリアの護衛兵十五人 合わせて十九人だ。


 俺はゴブリン砦を探る。

 ウンディーネにより呼び出された下級精霊ウォーターエレメントを五つほど出し砦に放ち、俺自身もマナを探り砦の情報を集める。

 細かく砦の地図は分からないが、どの辺に人がいるくらいは分かる。


 俺がウォーターエレメントを出した時点でみな静まり返り、おれの集中を邪魔しないように息をひそめ静かにしている。


「人質は砦の二階、一カ所に集められているようです。 細かい人数までは分かりませんが人とゴブリンのマナの違いは見分けられます」


「俺がこれから人質の部屋に水の結界を張ります。 合図を出したらディックとギーズは魔法で遊撃、ゴブリンを東におびき寄せてくれ」


「「おう」」


「メスカルさんも俺が合図したら人質救出をお願いします」

「わかりました」



 俺は人質全てを守れるよう、細心の注意を払い結界の範囲を定める。


 ⋘――νερό(ネロ)()Εμπόδιο(エンポディオ)(水の結界)――⋙


 よし! 結界は成功したはず。

 念のためウォーターエレメントに人質を守るように指示を出す。


「ディック、ギーズ 今だ行け!」


 俺の指示で二人が素早く動き砦に火炎球(ファイア・ボール)を打ち込む。

 ゴブリン砦は大騒ぎだ、二人の攻撃は少し心もとないがそれでいい。

 ここで大火力を出してしまうと、ゴブリン達が反撃に出てくれなくなる。


 ディックとギーズの遊撃は絶妙だった。

 ゴブリン達を完全に怒らせ砦にゴブリン達二~三匹を残し、ほぼ全員で二人を狙いに行く。

 俺は念のため二人にウンディーネの結界を張る。


「メスカルさん、今です!」

「――了解です!」


 砦には二~三匹のゴブリンが残っているが問題ないだろう。

 人質も結界で守られている。


 メスカルさん達が人質を救出している間、ディックとギーズがゴブリン軍を広い草原までおびき出す。


 そこに俺は水属性を付与した火炎球(ファイア・ボール)を五発ほど打ち込む。

 これで仕上げだ!


  ≪――Φλόγαμπάλα(ファイア・ボール)(火炎球)――≫


  ゴオッ──!!  ズッ——ガガガガガガッ———!!


 火炎球(ファイア・ボール)は水蒸気爆発を起こし強烈な爆発を起こした……


 ⦅あぅ…… やりすぎたかもしれない⦆


 草原の惨状を見る限り…… 過剰火力だったようだ。 火炎球(ファイア・ボール)五発は多すぎた。

 ちょっと後ろで言葉を無くしているプーリア嬢とララを見ることが出来ない。

 まぁ結論としてはゴブリン軍討伐完了だから気にするのはやめておこう……


「ちょっ、ディケム! ディックとギーズは大丈夫なの!?」


「離れているし結界で守っているから大丈夫だ」


 ララの安堵のため息が聞こえる。


「メスカルさん達も無事任務遂行したみたいだ」


 俺は草原に生き残りのゴブリンが居ない事を確認して、ウンディーネを飛ばし燃え盛る草原を消火した。


 メスカルさんに救出された人たちの中には、ひどい状態の人たちもいた。

 ララとプーリア嬢が白魔法を使い救護にあたる。


「私はシャンポール王国ソーテルヌ伯爵です。 救助に来ました。 皆さんもう大丈夫ですよ」


 救助された人たちは俺の言葉を聞き、安堵の為むせび泣く。

 とても辛い思いをしたのだろう。


 比較的元気な人たちの中にジョルジュ王国子爵公子マルケ・アドリアの姿もあった。


「私はジョルジュ王国アドリア子爵の子マルケ・アドリアです。 この度は救出してくださり感謝いたします」


 門前払いをされたマルケ・アドリア卿だったが、やはり俺の事は聞かされていなかったようだ。

 貴族の礼儀を疎かにした俺がいけなかったのだろう。

 人質となってからも他の人質たちを励まし、諦めないように元気づけていたそうだ。


 ⦅普通にいい人だったよ………⦆


 その日はケガ人の救護や人質のケアなど事後処理に追われて終わった。


 翌日プーリア嬢とマルケ卿と改めて会い情報を交換した。


「ッ――なっ! それではプーリア嬢とマルケ卿は私と同じシャンポール王都の魔法学校に入学する為に来たと!? 私と同い年だと言う事ですか?」


「はい。このような所で入学するよりも早くソーテルヌ卿と親交を深められたことは、神のお導きだったのでしょう!」


「プーリア嬢…… 昨日までは明らかに年上な物言いではなかったですか!?」


「ソーテルヌ卿。 女は生きて行く為には男を見定めなければなりません。いくら名前が通っているとは言えその実力をこの目で見るまでは信じません。 信じられぬ男に自身の本当の情報など伝えられる訳がないでしょう……… ソーテルヌ卿は合格です。 昨日の戦い噂にたがわぬ強さでしたよ」


「………………」

 ⦅なんだろう…… この付き合う相手として合格ですみたいな流れは……⦆


「さらに人質の命を大切に思うその心根も、人の上に立つにふさわしい方だと判断いたします」

「マルケ卿は少し鍛え直さなければなりませんね。 捕虜になるようでは女を守る事は出来ません」


「「………………」」

 俺とマルケ卿は唯々プーリア嬢の話を聞く事しかできなかった。




 ゴブリン討伐の後処理も粗方終わり、これ以上の事は領主に任せて俺達はこの村を出発することにした。


「それではプーリア嬢、マルケ卿、また王都でお会いしましょう」



「ソーテルヌ卿は馬車で移動なさらないのですか?」


「プーリア様もアマーロとして冒険者を楽しんでおられるではないですか? 私も同じです。 この三人と旅を楽しんでいるのです」


「そうですか…… いつか私もご一緒させてくださいませ」


 他愛ない挨拶を済ませ各自王都を目指して出発した。


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