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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章36 王都脱出

 

 ―――フュエ王女視点―――


 護られているときにはこれ程安心できる場所は無かったけど……

 抜け出すとなったなら、これ程難しいと思える場所も無い。

 ソーテルヌ公爵邸――

 ここから抜け出すのが、いま私達の最大のミッションです。




「今が平常なら、学校帰りに四人一緒に旅立つのが自然で簡単だったけど…… 今はみんなの生活がバラバラだからね……」


「そうね、謹慎中の私とリサが昼間にこの屋敷を出ようとしても、怪しまれるのが落ちでしょうね」


「ならやっぱり四人そろってる夜が良いんじゃない?」


「うん。 夜中ならディケムさんも四門守護者の方たちも皆寝てるものね。 やはり抜け出すとなるとあの五人が一番怖いわ」


「あとは夜勤の見回り護衛兵と門番に見つからないで、どうやって抜け出すかよね」


「「「「………………」」」」


 私達は色々な方法を検討したけど、結局いい方法は見つかりませんでした。

 護衛兵が騒ぎ立てれば、四門守護者の誰かに気づかれ直ぐに私達は捕らえられてしまうでしょう。

 精霊の聖域と呼ばれるこの場所で、精霊使いに気づかれない事は本当に難しいです。


 結局私は最後の手段に取っておいた策を使う事にしました。


「ねぇネロ…… 聞いているのでしょ?」

「………………」


「ネロ。 お願い手伝って」

「………………」


「ネロ。 お願いよ………」


「フュエ……… 私に頼むと言う事は、どう言うことか分かって言っているのよね?」

「うん。 あなたをここに置いて行く事になると思う」


「そうよ、私は『夢・眠りの精霊』。 だけどさすがの私でも主として契約したディケムに逆らう事は出来ない。 私はディケムのマナの一部になっているのだから。 そしてディケムとマナで繋がっている四門守護者も、もし私が強引に眠らせればディケムは必ず気づいてしまうでしょう。 私が出来るとすれば、ディケム達が寝静まった夜に、ディケム達以外の者を眠らせる事。 現実と区別のつかない夢を見させればあなた達が抜け出す隙は作れるかもしれない」


「うん」


「でもこれは…… あなた達がこの国を出て安全な場所までたどり着くまでの時間、私が衛兵の夢を維持しなければならないと言う事。 夢を解いた後も私がフュエの身代わりをしばらく演じていれば、さらに発覚を遅らすことが出来るけどね。 もし私がディケム経由で顕現してこれを行ってしまえば、直ぐにディケムに気づかれてしまう。 だからこの方法はフュエがこのゴーレムコアをここに置いて行かなければならないと言う事」


「うん、私もそう思うわ」


 厳密に言えば、それでもディケム様には気づかれてしまう可能性はある。

 精霊とは個ではなく全だと言う。

 自分と契約している精霊がどこかで何かをすれば、多少なりの反応が伝わってくるに違いありません。

 でも…… 精霊が起こす事象全てをディケム様が気に掛ける事も不可能だと私は思うのです。

 しかもディケム様は九柱もの精霊様と契約しているのですから。

 さらに寝ている時間を狙えば…… 私達にも勝機は有ると思うのです。



「フュエ…… 私はあなたを守護すると約束したのよ。 その私がフュエから離れる事を良しとすると思うの?」


「ネロ、あなたは今までも私の心も守ってくれたじゃない。 私は今リサと離れたら一生後悔すると思うの。 護ってくれると言う事は体だけじゃない、心も守ってくれると言う事でしょ?」


「…………。 まったく…… 減らず口だけは一端になっていくわね」

「ごめんね、ネロ」



 私は、渋々ではあるけれどネロの協力を取り付けた。

 そして決行日は今日即日となった。

 リサが目覚めた今ならば、皆の緊張が少しゆるみ隙も生まれるだろうとのシャルマの提案だった。




 夜も更け遅い時刻。

 私はベッドから起き出し、冒険服に着替えて準備する。

 扉の外には、今日はエマが見張番をしてくれているはず。


 ⦅エマ…… ごめんね⦆


 準備を整え終えた私はネロを見て頷く。


「本当に良いのね…… フュエ」

「うん」


 最後の確認をしたネロが、私の決意が変わらない事に顔をしかめ、諦めた様に魔法を行使する。

 ネロが両の手の平で何かを包むように合わせたあと、手を上へ開く。

 すると開かれた手の中からキラキラと薄紫色に輝く霧が霧散していく。


「…………。 これでディケムたち以外の衛兵たちは寝ているはずよ。 起きているときと全く同じ状況の夢を見せているから、起きたときは少しだけウトッとしただけだと錯覚するはずよ。 寝ている衛兵もより深い眠りに落ちているから心配無いわ。 でも…… ディケム達には何もしていないから、下手な事はしない事ね」


「うん、ありがとうネロ」


「フュエ…… 必ず無事で帰って来なさいよ」

「うん、約束するわ」


 ネロにお礼を言い部屋を出ようとした時、シロが私の懐に飛び込んでくる。


「ちょっ! シロごめん……今回は連れて行けないのよ」

 シロを抱え上げ降ろすと、またシロは懐に飛び込んでくる。

 いくらシロを置いて行こうとしても、シロは私から離れない。


「フュエ、その子は連れて行くと良い。 その子なりにフュエを守りたいのでしょう。 私が行けない分きっとその子があなたを守ってくれるわ」


 結局、ネロに勧められ時間も無いからシロも連れて行く事になってしまった……

 ネロはシロが守ってくれると言うけど―― シロは猫。

 とても役に立つとは思えないのだけど……



 私はソーテルヌ邸の食堂横の井戸へ向かう。

 私が井戸に着いたときには既に三人は揃っていました。

 四人で無言に頷き合ったあと、直ぐに料理人用の勝手口へと向かいます。

 食堂は多くの訓練騎士の為に朝早くから食事の用意を始めています。

 だからこの日が昇る前の早朝時間でも勝手口に人の出入りがあったとしても不思議には思われないはずなのです。

 もちろんここにも衛兵は居ましたが…… 器用にも立ったまま寝ているようです。

 これはもし衛兵が眠りから起きた時に、たとえ『見張りをしていた夢を見ていた』としても、皆が床に倒れ込んでいたとしたら異変に気付くかもしれないからでしょう。

 器用にも立ったまま寝させられるのも、ネロの力なのでしょう。



 こうして私達はネロの力を借りて、無事にソーテルヌ公爵邸を抜け出す事に成功しました。

 でも私達はここで油断はしません、一刻も早くこのシャンポール王都からでなければなりません。

 シャンポール王都各所に置かれたクリスタルの彫像。

 街中を流れる水路とその脇に植えられた街路樹。

 最上に美しい街と評されるこの街のこれら全てのものが、本当の役割はディケム様へと繋がる情報網であり最上の防衛システムなのだと私は知っています。

 この街は美しさとは裏腹に他に類を見ない要塞都市なのです。

 王都を出なければ、ディケム様の手から離れたとは言えないでしょう。


 私達は緊張を切らすことなく息をひそめ街を疾走しました。

 そして最後の関門、王都城壁門へたどり着き衛兵に出国手続きをします。


 シャンポール王国は他国と違い出入国がとても厳しく管理されています。

 特に新規での入国の際は本人確認の為、鑑定の儀と同じような水晶球に手をかざし、マナの色合いが登録と同じか判断されます。

 そして鑑定が認められれば晴れて入国許可書が発行される仕組みです。

 入国許可書、冒険者カード、市民権証書、これらを発行してもらえれば次回からの出入国の手続きは簡略化されるのです。


 ここで王女としての証書を提示できない私達は冒険者カードが役に立つのです。

 ですが…… リサは持っていません。

 私達が衛兵に冒険者カードを提示した後、リサの番が来ます。

 私達に緊張が走った時…… 衛兵が一瞬ウトッとしたように見えました。

 すると衛兵は『よし通っていい』と言い、出国手続きはすんなりと終わったのです。



 シャンポール王国から無事に出国できた私達は、まだ黙ったまま足早に街道を進みます。

 王都の近くでは、多分まだディケム様の手が届く範囲だと思えるからです。

 そしてしばらく歩きシャンポール王国も見えなくなったあたりで、『はぁ……』私達はとやっと安堵のため息をつくことが出来ました。


「ほんと、敵から見たシャンポール王国攻略の難しさを変な形で思い知ったわよ」

「ソーテルヌ公爵の恐ろしさをね………」

「うん……」



 そんな話をしていると。

 『フュエ、シャルマ、フローラ』

 ――と不意に声をかけられ完全に緊張の糸が切れ油断していた私達は息を呑みました。


「ア……アマンダ!?」

 あまりの驚きにシャルマの裏返った声が響きました。

 そこには私達の冒険者パーティーレクランのアマンダが立っていたのです。


「お前たち…… さっきの出国の手続きの時、何かやっただろ? 衛兵の様子がおかしかった」

「うっ……」

「図星か。 こんな時間にお前たちが街から出て行く所を見かけたからおかしいと思ったんだ。 それにフュエが居るのにディケムが居ないのもおかしいし。 お前たちなに良からぬことを企んでいるのか?」


 私達三人は顔を見合わせ少し悩んだあとアマンダに頭を下げ懇願する。

「アマンダお願い――見逃して! 私達にはやらなきゃいけない事が有るの」


「それは…… そこのもう一人のお嬢さん絡みかい?」


「……………………」

 私達は少し悩んだあと『うんそう』と観念した。


「ディケムには話せないのか?」

「うん」

「しかし…… 身なりは一端の冒険者になったけど、どう見たってこの容姿の若い四人が歩いてたら訳アリにしか見えないぞ。 盗賊に襲ってくださいと言っているようなものだ」

「う、うぅ………」


「よし。 ディケムに内緒ってのが面白そうだ。 私も付き合ってやるよ!」


「なっ……! で、でもアマンダ…… この旅は遊びじゃなくて本当に危ない可能性もあるのよ」


「…………。 ならなおさら放って置けないだろ? パーティーメンバーが危険な冒険に旅立とうとしているのなら」


「で、でも………」


 結局、『一緒に連れて行かないのなら直ぐにディケムに報告するぞ』とアマンダに脅されて、私達は一緒に行くことになりました。


 でも………

 不本意ながらもアマンダが付いて来てくれる事に安心感が増し、少しだけ嬉しい私達でした。




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