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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章33 戦後処理

 

 王国騎士団から勝利の勝鬨(かちどき)が上がる。

 それに呼応するかのように、王都住民からの歓声がこの離れたロワール平原にも聞こえてくる。


 だが殆どの人々はまだ知らない。

 漆黒の堕天使を消滅させ、この戦いは終結したかの様に見えたのだろうが……

 実際はネロと宝剣ヒュプノスクリスの力を使い、堕天使を眠りにつかせアルバリサ王女の中に閉じ込めただけだ。

 溜まっていた力を一度吐き出させ弱ったところに『眠りの封印』を施したのだ。

 これでしばらくはアルバリサ王女が簡単に暴走する事は無くなり、安定してくれるだろうが一時的措置と言う事だ。


 天使の力を封印した所でアルバリサ王女が『ネフリム』だと言う事実は変わらない。

 あの天使は天から降臨したのではなく、アルバリサ王女の力が具現化したものだ。

 そして封印とは完全なるモノではない。

 時間が経ちネフリムの力が王女の成長と共に力を増せば封印も緩んでくる。

 だから危険だからとこの力を滅する事にも俺は疑問を覚えている。

 もちろん友人としてのアルバリサ王女を失う事は、フュエ王女を初め仲良し四人組のメンバーには決して受け入れられない事だろう。

 だがそんな個人的な感情を抜きにしても、俺は今後『ネフリム』が何かのカギとなっている気がしてならない。

 だから問題の先送りと言われるかもしれないが、未来の選択肢を増やす為に討滅ではなく封印したのだ。


 これからアルバリサ王女にはもっと力を付けてもらい、ネフリムの力をコントロールできるようになって貰わなければならない。

 それは決して簡単な事では無いだろう。




 天使の攻撃により地形が変わってしまったロワール平原を見下ろす。

 ウンディーネとフェンリルを走らせ、まだ(くすぶ)っている火を消しドライアドに草をはやさせる。

 こんな事どうでも良い事かもしれないが……

 あのまま国の周りが焼野原のままだと痛々しすぎて国民の不安がたまる心配もある。

 『王都守護者』としては平穏な国民感情を維持する事も大切な仕事だと言える。




 焼野原が見る見る青々とした草原に変わる様を見ながら、俺はラトゥールに話しかける。


「ラトゥール。 『ネフリム』の力……やはり天使の半分程度だと思うか?」


「正直わかりません。 親となる天使の階位にもより力も違ってくるでしょうから。 ですが楽観視は命取りかと。 普通に考えますと人と天使の間に生まれた子、天使の力は半減していると考え行動する事を具申いたします」


「ネフリム、下位天使、中位天使、上位天使、準神、神。 そして、大神……か」


「ディケム様…… 気休めですが天使とは言わば神を守る騎士です。 人族に例えるなら王より騎士の方が強い事も有ります。 決してディケム様が届かぬ高みではないかと私は思います」


「さっきは、楽観視は命取りだと言ったじゃないか……」


 『は……はい すみません』とラトゥールが真っ赤な顔で下を向く。

 参謀としての厳しい意見と、愛する俺を気遣う女としての意見。

 ラトゥールが相反する言葉を口にするのは俺を想っての事。

 それを分かっていて口に出す俺は全くもって意地が悪い。


「ラトゥールありがとう。 だがやはり気休めは要らない。 最初からそんな簡単な相手では無い事は承知の上だ。 とにかく今はまだ力が足りない。 ラトゥール早急に四大元素の残り『土の精霊ノーム』を手にいれる準備を頼む」


「はっ!」




 戦火の跡が見えない程度にロワール平原の再生を済ませ、その他の後処理の為に王宮へと向かう。

 ちなみにアルバリサ王女はソーテルヌ邸へと送り、執事のゲベルツに任せている。

 しばらく起きる事も出来ないだろうから取り急ぎの問題は無いだろう。

 今は王宮に居るルカ教の貴族達とボノスと言う男を調べる事が急務だろう。



 王宮に到着し諜報部のメリダによって縛り上げられた貴族達を確認するが………

 やはりフュエ王女達を呼び出したオリヴィエ嬢の姿は無かった。

 もしオリヴィエ嬢を問い詰めたところで、『王宮に入ったところでフュエ王女達とはぐれた』『私はルカ教など知らない』とでも言うのだろう。

 あとの事は捕まった貴族達が勝手にやった事とし、知らぬ存ぜぬを押し通しミュジニ王子が介入する事で俺達に勝ち目は無くなる。

 ソーテルヌ邸が俺の領域とすれば王宮は現在ミュジニ王子の領域、こちらが牙を向ければここで起きた事はいくらでも曲げられてしまうだろう。

 現状ではオリヴィエ嬢の件は事を荒立てるだけ無駄、いやむしろ難癖付ければフュエ王女の立場が悪くなるだけだろう。


 ここに居る捕縛された貴族の信者たちはただの捨て駒。

 新しい情報など持ってはいないだろう。

 だが、アルバリサ王女の弁護証人として使える。

 アルバリサ王女は戦場から転送させたが、あの堕天使へと変わる様相を多くの者に見られている。

 もちろん口止めはするが、目撃者が多い現状で噂が漏れる可能性は否定できない。

 だがルカ教幹部のボノスによって強制的に儀式が行われた事を彼らに証言させれば、アルバリサ王女の立場を守る一つの武器に出来る。

 彼らはボノスに騙され受け入れがたい死を目の前にし、ルカ教への信仰は既に死んでいる。

 王国の不可侵領域たる王宮に犯罪者を招き入れ、四大国の王女に手を上げた罪人として爵位剥奪は当然の事、咎人に落とされる事が確実と言える今、彼らはこちらの要望に素直に協力してくれるだろう。




 こうなると有意義な情報を引き出せそうな者は、ルカ教幹部ボノスだけ。

 貴族達とは別の場所でメリダに捕縛されているボノスの所に向かったのだが……


「あぁああああ……… わ……わたしのネフリムが……… あっ……… ああぁぁぁぁぁ………あぁぁぁぁ……… ブツブツブツブツ」


 近くに来た俺に視線を向ける事も無く、ブツブツと一人で喋っている。


「メリダ、状況は?」

「はっ! 残念ながら今はずっとこんな感じです。パニック状態の様でこちらの問いかけには一切答えません。 少し時間を空けてから聴取をした方が良いかと思われます」


 俺はメリダの言葉に『わかった』と了承する。

 正直このボノスからは、ネロを通じて色々聞いている。

 更に聞きたい事はルカ教の事などもっと深く切り込んだことになる。

 もしここで素直に話したとしても、この多くの耳がある場所ではむしろ支障をきたす可能性もある。


「ボノス、お前には聞きたい事が沢山ある。 落ち着くまで留置所で頭でも冷やしておくがいい」


「あぁぁぁぁぁ…… あぁああああ――― ッ―――!! あ、あなたは……ソーテルヌ

 公爵…… わ、私はこのままだと殺されてしまいます。 牢屋にいれないで――……」


 ボノスが地面を這いつくばって俺に向かってくる。

 メリダが直ぐに止めようとしたが、俺は手で制しボノスの好きにさせる。


「安心して良いボノス。お前の身柄はウチの総隊が預かる。 俺が完璧にお前の身の安全を保証してやる」


 ボノスは『え?』と俺を見上げるが、またすぐに絶望の顔に戻る。


「こ、この世界に安全な場所など有るはずが無い…… 失敗した私は殺される。 奴らは必ず殺しに来る。 わ……わわわわ私は死にたくない」


 ⦅この世界? この国、人族領でもなく世界……⦆

 ⦅それはルカ教が人族だけでなく全種族に浸透していると言っているのか?⦆


「安心するがいいボノス。 お前を留置する場所は総隊本部地下に特別に作った『固有結界』を利用した夢の世界だ。 この世界から完全に隔離されている」


「えっ…… ゆ、夢の世界………?」


「そうだ、そこでのお前は殺されるどころか…… 死にたいと思っても死ぬ権利すら与えられていない事を知るだろう。 お前の大好きなオネイロスの夢を楽しむがいい」


「えっ…… えっ、えっ、えっ  い、嫌ぁぁぁぁッ――――――!」


 泣き叫ぶボノスをメリダが引きずって連れていく。

 まぁ壊すつもりは無いが、素直にしゃべらすには多少の恐怖も必要だろう。




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