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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章28 王国騎士団第十一部隊隊長アータ・フリース

 

 ――アータ・フリース将軍視点――


 私は栄えあるシャンポール王国の精鋭部隊、王国騎士団第十一部隊の隊長アータ・フリースと言う。


 フリース子爵家令嬢として生まれた私は七歳の頃、戦渦に巻き込まれ命を落としかけた事が有ります。

 そのとき助けてくれたのが当時王国騎士団第三部隊隊長だったメアリー・ミラー将軍でした。

 戦場を駆けまわり圧倒的な力で魔族軍を蹴散らし、突出した指揮力で部隊を勝利へと導くメアリー将軍の姿は、私には私が信仰する勝利をもたらす神の使いと謳われる『天使シグルドリーヴァ様』が天より舞い降りた様に見えました。


 その姿が目に焼き付きあの姿に憧れて、それからの私は王国騎士団隊長、とくにメアリー将軍を目指したのです。

 その後メアリー将軍の死を知った私は悲しみに暮れながらも、その意思を継ぐ事を『天使シグルドリーヴァ様』に誓いました。

 女だてらにとよく言われたけれど……

 あの日の誓いを胸にどのような辛い訓練にも私は耐え、努力だけは誰にも負けない自負がある。

 そしてついに私は、数々のライバルを押しのけて王国騎士団隊長の座を手に入れました。



『誉れある王国騎士団隊長の名に懸けて、私は如何なる敵からも王とその国民を守る事を誓います』


 隊長襲名の時に宣言したこの言葉に嘘偽りなど決して無い!

 そして今でもその気持ちは絶対に変わっていない。


 けど…… けど…… こんなの聞いてないです――!!!

 ムリ、絶対ムリッ! 天使様と戦うとかありえないです。


 天使様と戦うと言う事は神様に逆らうと言う事ですよね?

 でも……目の前の天使様は堕天使みたいだから……

 でもでも本当に堕天使なの? 黒いだけで堕天使って決めつけて良いの?

 イヤイヤ百歩譲って堕天使だったとしても、そもそもそんな存在と人が戦うとか無理でしょ?

 さっき天使様の攻撃がランス平原で大爆発を起こしたのを皆見たでしょ?

 あれとどうやって戦えと言うの?

 嫌……ホント嫌…… あぁ~なんで私こんな時に王都に居たんだろ?



 今まで心の支えとし祈り続けて来た『天使シグルドリーヴァ様』と同じ天使様に対峙する事は、私にとって絶望でしか無い。

 いや…… 私だけではないはず。

 神様への信仰は人それぞれだけど、特に戦いを生業としている騎士は、神様の騎士・御使いたる『天使様』を崇拝している者が多い。

 その天使様と戦うと言う事は信仰を捨てると言う事。

 もちろん私だって分かっている。

 私の後ろにはいくら相手が神様だったとしても守らなければならない王とその国民が居る事を。

 今はどちらかを選ばなければいけない究極の時、王国騎士団長の私は国民を守る事を選ぶのは当たりまえ、必定だ。


 私の前にはラス・カーズ将軍、隣には第九部隊バルト・カルメル将軍が居る。

 お二方とも揺ぎ無い目で、これから天使様が転送されてくるだろう場所を睨んでいる。

 震えているのは私だけ?


 ふと自陣、私の部下第十一部隊の騎士達を見ると皆も震えている事に気づく。

 しかしラス・カーズ将軍率いる第一部隊の騎士達は誰も迷ってなど居ない、震えている者など一人も居ない。

 皆、隊長のラス・カーズ将軍を信じているのだ。


 ⦅騎士団をまとめる隊長の私がこんなでは…… 皆の命を守れない⦆


「十一部隊の皆! 我々の後ろには大勢の国民、我々の家族が居るのだ。 我々の敵がたとえ主たる神だったとしても、我々が第一に守るのは国民・家族だ。 迷うなっ! これは我々が愛する者を守る為の戦いなのだっ!!!」


「「「「おぉおおお―――!!!」」」」


 私の鼓舞に部下たちが答えてくれる。

 だけどこれは部下達だけでなく、私自身に向けた鼓舞…… 戒めだ。



 そう、突如起こったこの大舞台…… 私は怖気づいてる場合では無いのだ。

 私達の部隊はこの戦いにしっかり爪痕を残し、その力を示さなければならないからだ。


 私の部隊、王国騎士団第十一部隊は次席の十二部隊があの生ける武神ダドリー・グラハム将軍が率いていると言う事で、事実上の騎士団序列は一番最下位と言っていい。

 王国騎士団の騎士団序列は一つ違えば大きな差がある。

 その為誰しもが一つでも上の部隊に上がる事を望み、切磋琢磨している。

 だから今現在私の部隊所属の騎士達は、私と言う新参の将軍の下に着いてしまった事で苦汁をなめているのだ。


 今日この戦場には――

 我々騎士団の後ろにソーテルヌ公爵閣下直属の精鋭部隊が待機して我々を見ている。

 そして我々の上空にはそのソーテルヌ総隊を指揮する近衛隊の四名が見ている。

 さらに極めつけにソーテルヌ閣下ご本人がこの戦いを直接観察し我々の力の程を見ていらっしゃる。

 このような実戦で、上官が直に見ている戦場で力を示せるチャンスなどそう有るものではない。

 最大のピンチは最高のチャンスでもある。

 ここで活躍を見せ『王国騎士団にアータ・フリース将軍と第十一部隊あり』と知らしめなければいけないのです!



 気持ちが昂り部隊の士気も上がって来た所で……

 突然、虹色に輝く燕が飛んできて私の肩に留まりました。


 ⦅こ、これは…… 噂に聞く『言霊』と言うものでしょうか?⦆


 そして思念話の様に、ソーテルヌ閣下の声が聞こえてくる。


『各位、この言霊グループに第九部隊バルト将軍と第十一部隊アータ将軍も参加させた。 うまく連携を取ってくれ。 バルト将軍、アータ将軍も奮闘を期待しているよ』

『『はっ!』』



『さぁみんな、今回の戦闘はこれからも続くであろう天使との戦いの基準となる大切な戦いだ』


 ⦅えっ? これからも続く…… 天使との戦い?⦆


『更なる厄災となる上位天使の降臨に備え、人族を守る為に少しでも多くの情報を集めなければならない』


 ⦅えっ? なに? 更なる厄災となる上位天使ってなに?⦆


『残念だがこれまでの人族の歴史書には、天使と戦い勝てた記述など一切ないが…… だが我々なら十分やれると私は信じている。 さぁ~人族史初めての天使を退けた戦いとして歴史にその名を刻んでくれ!』


『『『『はっ!!!』』』』


 ⦅は? え……なに? 私達の知らないところで何かが起こっているの?⦆



 ソーテルヌ閣下のお言葉の後。

 皆が見つめるその場所が輝き始め転移陣が展開される。


 ⦅ほ、本当に閣下はあの天使様を強制的に転移させられたんだ…… 凄い⦆


 転移陣に巨人より更に大きい人影が薄っすらと浮かび上がり、徐々にその形を成してゆく。

 そしてはっきりと視認できるようになったとき……

 我々の前には絶対零度で凍らされた漆黒の片翼堕天使の姿があった。

 その天使からは氷漬けにされながらも人族への『憎悪』『怒り』が伝わってくる。


 そして―――

 凍っているはずの天使の口から直接魂に響くような声が轟く!


【ΏχΏαχαΧαααααααα―――………】


 その天使から発せられた声は、我々の脳を揺さぶり魂が砕けるような苦痛を与えてくる。


 そしてその声により天使を覆う氷は爆ぜ……

 自由になった天使はゆっくりと立ち上がり我々を見下ろした。



 ⦅ひぃいいいいいいいい――― やっぱり嫌ぁぁああああああ―――!!!⦆





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