第七章27 強制転移
俺はマナが繋がっている四門守護者に飛行の魔法をかける。
シルフィードと繋がるギーズには必要ないが、俺が使ったほうがその分魔力のリソースを戦闘に回す事ができる。
『各隊員に告ぐ。 このまま片翼の堕天使が王都上空に居たのではまともに戦えない。 これから王都城外西のロワール平原座標「AE:29」へ強制転移させる。 戦闘部隊は速やかに座標地点に向かってくれ』
『『『『はっ!』』』』
俺はワイバーンに乗り天使の近くまで飛ぶ。
ちなみに皆には見た目上『片翼の堕天使』『天使』と言っているが、あれは天使の力を解放している『ネフリム』だ、厳密には天使ではない。
だがほとんどの隊員がまだ『ネフリム』の存在を知らない今、ややこしくなるので天使と呼ぶ事にしている。
降臨した天使は王都上空に浮かんだまま動く気配を見せ無い。
俺は状況を確認する為、天使の近くまでワイバーンに乗り近づいてみる。
⦅アルバリサ王女の意識がもしかして有るのか?⦆
……そんな俺の微かな望みも直ぐに吹き飛ぶ。
⦅憎い⦆⦅憎い⦆⦅憎い⦆⦅憎い⦆⦅憎い⦆⦅憎い⦆
天使の『憎しみ』が思念で伝わってくる。
何に対しての憎しみなのか俺達には図り知る事は出来ないが……
その憎しみの深さと、その矛先が人族に向いている事は確かなようだ。
そして俺が天使を観察していると天使がゆっくりと片腕を前にあげる……
天使が上げた手の平にマナが集まっていく。
その量、密度は桁違いだ。
⦅っ―――や、やばい!!!⦆
ドンッ―――!
躊躇なく放たれた漆黒のマナは俺がギリギリ張った簡易的な防御結界に弾かれ、王都東のランス平原へと飛んで行く……
ドォゴゴゴゴゴオオオオオオオ―――!!!!
皆が見る先に天使の放った漆黒のマナが引き起こしたキノコ雲が立ち昇っている。
『ひぃいい――っ!』言霊の向こうでララの引きつる声が聞こえてくる。
『神罰』と言う言葉が皆の頭に浮かぶ。
今の攻撃がそのまま王都に直撃していたら……
隊員達の息を呑む音が聞こえ緊張が俺にも伝わってくる。
『今ので対話の余地が無い事が確定だ。 もしこれが神の意思『神罰』なのだとしても、俺は座して滅びを待つなど御免だ。 これより速やかに天使を王都に張ってある「九柱精霊結界」の外に飛ばす。 既に九柱にまで成った精霊結界ならばこの程度の天使の攻撃なら問題無いだろう。 避難誘導班は速やかに城外に居る人々を城内に避難させてくれ。 戦闘班は指定位置に急げっ!』
『『『『はっ!』』』』
シャンポール王都壁外には街に入る為に大勢の人々が並んでいる。
その人々が突然顕現した天使とランス平原で巻き起こった大爆発でパニックに陥っている。
王都に逃げ込みたいが、王都の上空にその元凶の天使が居たら逃げ場を失うのも当然だ。
速やかに天使を強制転移させたいのだが……
敵を強制的に転移させる事は難しい。
明らかにどこかへ飛ばそうとしている転移魔法陣を敵の前に展開させ『その上に乗ってじっと動かないでくださいね』なんて出来るはずがない。
強制転移先、城外西ロワール平原の座標「AE:29」に転移の出口を指定。
「ネロ、お前の空間魔法とウンディーネの転移魔法を強制的に繋ぐ!」
「ほいさ」
「フェンリル一瞬だけ絶対零度で天使の動きを止めてくれ」
「分かった」
本当に……
敵を倒さず、ダメージも与えず、丁寧に指定した場所に運ぶなどはたから見たら『愚の骨頂』だと笑われるに違いない。
力の無駄遣いも良いところだ。
だが…… どうしてもここで天使の力を測る物差しが欲しい。
おれがダメージを与えては、俺が知りたい情報が半減してしまうのだ。
天使の周囲に突如六柱のイフリートが顕現する。
天使が反応するより早く、そのイフリートが全方向から天使へと猛烈なスピードで突進していく。
もう避けることは出来ないと判断した天使は、衝撃に備えダメージを軽減する為に堅く身構える。
天使にイフリートが衝突するその瞬間――
イフリートは消滅しフェンリルが襲いかかる。
受け身に徹した天使はフェンリルの絶対零度を避けることは出来ない。
そして火炎に備えていた天使は、突然真逆属性の冷気に変わった攻撃をレジストすることが出来ない。
俺の読み通り天使は一瞬で凍りつき僅かなスキがそこに生まれる。
凍り付いた天使の四方にはルナのクリスタルが取り囲んでいる。
そのクリスタルを起点に積層型の魔法陣が展開されていく。
天使が危険を感じ氷の束縛から逃れようとした瞬間―――!
漆黒の片翼堕天使は王都上空から強制転移させられた。
『さぁみんな。 もぅ王都の心配はする必要は無くなった。 あとは皆の健闘を見せてくれ』
王都城外西ロワール平原にはラス・カーズ将軍率いる王国騎士団一五〇〇騎が陣を張り天使が転送されるのを待ち構えている
第一部隊は半数を王都防衛に残し一〇〇〇騎が参戦。
そして王都防衛とシューティングスター警戒の為王都に来ていた騎士団二部隊。
王国騎士団第九部隊バルト・カルメル将軍率いる五〇〇騎のうち半数の二五〇騎。
王国騎士団第十一部隊アータ・フリース将軍率いる五〇〇騎からも半数の二五〇騎。
合計五〇〇騎がラス・カーズ将軍の指揮下に加わっている。
そしてその王国騎士団部隊の後ろにソーテルヌ総隊が控えて居る。
ラローズ隊長率いる精霊部隊。
コルヴァス、カミュゼ隊長率いる精鋭部隊。
そしてイゴール隊長率いる竜騎士部隊約一〇〇騎。
部隊全員で一五〇にも満たない中隊程度の数だが、全員がワイバーンに乗り一人一人が一騎当千の力を持っている事が窺える。
そしてその上空では総隊総帥のラトゥールを筆頭に四門守護者と謳われる近衛隊四名が戦場を見下ろしている。