第七章23 罠と油断
――シャルマ視点――
ボーヌ王国が他国へ対し宣言を行なったあと……
当たり前の事だけどリサとフローラの立場が悪化していった。
事前にディケムさんから聞いていたから二人とも取り見出す事は無かったけど、辛く無いはずはない。
そしてディケムさんはハッキリ言わないけど……
今回の事変の要因は、理由は分からないけどリサのあの黒い翼が原因なのだと思う。
モンラッシェ共和国の情報網を使っても、リサのことは『ボーヌ王国の姫』と言うこと以外何もわからなかった。
でも逆に…… モンラッシェ共和国の情報網を使っても、それ以外の情報が出てこない事が不自然さを感じさせる。
リサ自身もあの黒い翼の事、自分自身の事を全然わからないのだと言う。
リサ自身に嘘がないのなら私達はリサを、友達を信じる。
たとえどんな困難が来ようとも私達の友情は変わらない。
私とフュエが学校から帰って来ると、フュエに来客が来たと連絡が入った。
私たちは身構えたけど……
来客はオリヴィエ様というグリオット侯爵家の令嬢で、フュエのお兄様の許嫁なのだと言う。
先日まで王位継承のことで少し行き違いがあったけれど、ボーヌ王国の『五大国同盟からの離脱』と言う大事を前に、『共に力を合わせましょう』とその誠意を示すため自ら此処へ赴かれたとおっしゃいました。
そして――
『アルバリサ王女とフローラ皇女の戦争犯罪国家責任の容疑及び身柄拘束の命は解除致しました。 この難局を乗り越える為にはボーヌ王国王女とロマネ帝国皇女、お二人の助力が必要です』と……私達友人四人全員を宮廷へ招きました。
宮廷に『賛同してくれる貴族を集めフローラ様、アルバリサ様を応援する派閥を結成する為に一席を設けました。 ボーヌ王国の王女、ロマネ帝国の皇女、シャンポール王国の王女、そしてモンラッシェ共和国の大統領令嬢まで…… この四大国の王女が集まれば成し遂げられない事など無いでしょう!』とおっしゃりました。
私達は毎日の様に激変するこの難局に冷静な判断が鈍っていたのかもしれません。
そして招待された場所が宮廷と言う、身元のしっかりした貴族しか入れない場所だったと言うことも要因だったのかもしれません。
私達はグリオット侯爵家令嬢の言葉を信じ、ディケムさんに相談もせずにのこのこと宮廷まで着いて来てしまったのです。
グリオット嬢に連れられ宮廷中庭につくと多くの貴族が集まっていました。
そして貴族達がリサを見た途端、神でも敬うかのように皆がひれ伏し出します。
「おぉおおおおお――――っ!!! ネフリム様がいらっしゃったぞ!」
「ネフリム様が我々を導いてくださる――っ!!!」
「ネフリム様私達をお救いください――っ!!!」
『ネフリム様』『ネフリム様!』『ネフリム様――!』『ネフリム様』
⦅えっ? 何これ……怖いっ! ネフリムってなに?⦆
その唯ならぬ異様な光景に、私達は判断を誤ったことに気づきました。
「やっと…… やっと我々を救って下さるネフリム様を、独り占めしようとしていたソーテルヌ卿から取り戻す事ができた。 これで我らの望みもやっと大願成就するっ!」
「おぉおおお…… これで我らは救われるのですね」
『ネフリム様』『ネフリム様!』『ネフリム様――!』『ネフリム様』
『ヒッ!』私達はその心の底から込み上げる悍ましい嫌悪感に、その場から逃げ出そうとしました。
でも…… もう遅かった。
『おぉおお――! ボノス様がいらっしゃったぞ』
『ボノス様ッ――!』
『ボノス様、我々に救いを――』
いつの間にか宮廷中庭には埋め尽くすほどの貴族が集まっている。
その貴族達の群衆の中から『ボノス』と呼ばれる男がゆっくりと歩いてくる。
その男はフードを深く被り黒い修道士服を着、外見だけでは男なのか女なのか判断できない中性的な骨格をしている。
『あの人は……』とフュエが呟く。
『ボノス』って…… 確か魔法学校でリサを暴走させた侵入者!
その不審人物が学校だけでなくこの宮廷内にも入ってきた。
⦅えっ? ここは宮廷よ…… そんなことあり得るの?⦆
私達はボノスから守るようにリサを背に隠す。
「さ〜ぁ……アルバリサ王女。 貴女の本気の力を私達に見せてください。 この前の学校で見せたような中途半端な力では無く、種族の始祖たるネフリムの本当の力をぉおおお――」
「いっ……嫌…です……」
「リサっ! あんな奴の言う事聞いちゃダメよ」
「そうよリサっ! 私達が貴女を守ってあげるから」
リサを庇う様に身構える。そんな私達を貴族達が取り囲む。
まさか貴族達が王女の私達に手など出さないだろうと、過信していたのかも知れない。
その考えの甘さをすぐに思い知らされる。
突然後ろからフュエが貴族に羽交い締めにされる。
「えっ! 嘘でしょ? 王女に手を出してタダですむと思っているの!?」
その直後にフローラが後ろから突き飛ばされ倒れ込む。
「ちょっ……あなた達これがどのような事なのかわかって――……」
叫んだ私も取り囲まれた貴族達に突き飛ばされ倒れ込む。
「さぁ〜あ〜アルバリサ王女……… このままじゃ貴女の大切なお友達が大変な事になってしまいますよ。 良いのですか?」
「やめて下さい! 『力を見せろ』と言われても私は自分じゃ何も出来ないのです!」
「いいや。 貴女は自分の中のもう一人の自分に気付いているのでしょ? 今の貴女がもう一人の自分の枷になっているのですよ。 今の貴女が居なくなれば…… もう一人の貴女の力が全て解放される」
「リサっ――――!!! ダメよ。 あんな奴の話を聞いちゃダメ! 私達はこんな奴らに負けないから」
グッ…… ガッ…… ウッ……
倒れ込んだ私達は貴族達に取り囲まれ、立てないように何度も何度も突き飛ばされる。
こんな取り囲まれた他勢に無勢の状況ではどうする事もできない。
そして私達を突き飛ばす貴族達の興奮が徐々に高まっていくのを肌で感じる。
それまで怪我をする程でもなかった突き飛ばす力も徐々に力が増していく。
手で押され突き飛ばされていた事も、足で押し蹴られる様になり……
私達も膝をついて倒れていたのが、体から倒れ込む様になっていた。
どんどん興奮して行く貴族達の蹴る力が強くなっていく――
ウグッ…… ガハッ…… グハッ……
そして、一人羽交い締めにされていたフュエにも貴族の手が伸びる――
「ば、ばかっ! フュエ王女には手を出すなと言っただろっ!」
ボノスが初めて焦りを見せる。
その時、フュエから一つの影が飛び出す――
そして私達を取り囲む貴族共をメイスの一振りで弾き飛ばし私達は解放された。
『『『『ネロ――ッ!!!』』』』 私達は救ってくれたネロに感謝して泣きながら抱きつく。
「もぅあなた達は何をやっているの! あれ程ディケムから用心する様に言われていたのに」