第七章22 巡らされる謀略
王国十二騎士団会議を終えた数日後。
俺達が手に入れていた情報通り、ボーヌ王国は他国へ対し宣言を行なった。
『ボーヌ王国の「人族五大国同盟」からの離脱』
『ボーヌ王国・ロマネ帝国・ドワーフ族の同盟締結』
『人族・魔神族・エルフ族の「三種族同盟」への宣戦布告』
以上を正式に通達したのだ。
この情報を事前に知っていたアルバリサ王女とフローラ皇女は、とりあえずこの場は事なきを得た。
しかし何も情報を知らなかったアルバリサ王女の姉、ポマール・ボーヌ王女は酷いことになったと聞く。
「う…嘘よ…… ボーヌ王国が王女である私を切り捨てて宣戦布告したと言うの!? 王女である私を差し置いて宰相と国家評議会が勝手に事を起こしたというの!? あり得ない…… そんな事絶対に認めないわ――!!!」
「ボマール・ボーヌ王女。 戦争犯罪国家責任の容疑で一時的に身柄を拘束させて頂きます」
「嫌よっ! わたし王女よ! なぜそんな縄に縛られなければならないのよ? あぁコート様、これは何かの間違いなのです! お願いです私を助けて下さいませ。 コート様っ! コート様ぁあああああ――!!!」
「こら暴れるな、手荒な真似はしたくないのだ!」
「違うのよ、王女は私じゃなくてアルバリサよ! あの女がボーヌ王国を陥れた犯罪人よ、捕まえるならアイツを捕まえて! アイツなら斬首でも火炙りでも何でも良いわ! だからねぇ私は解放して? ねぇ良いでしょ?」
ボマール王女の拘束劇は見るも見苦しい酷いものだったと聞いている。
学校も昼時、学生達が昼食で賑わう校内での拘束劇となったようだ。
アルバリサ王女とフローラ皇女は、ソーテルヌ総隊預かりで拘束中と言う建前で難を逃れている。
だが日に日に俺とは違う派閥貴族からの圧力が増し、難しい局面が迫ってきている。
俺は急遽総隊の主要メンバーを集めて情報の擦り合わせをする事にした。
「ディケム様。 社交界でのフローラ皇女とアルバリサ王女を糾弾する動きが高まっています。 今はまだディケム様がお二人を匿っておられ、フュエ王女がかろうじて抑え込んでいる事もあり誰も大きな動きはしておりませんが、派閥貴族が集まり何かを画策している事は確かなようです」
「やっぱりそうなってくるか……」
「はい。 まだ推測ですがその中心に居ると思われるのはグリオット侯爵、ミュジニ王子の許嫁オリヴィエ嬢の父君だと推測いたします」
ラトゥールのその報告の名を聞きマディラとトウニーが『えっ!?』と驚きの表情を見せている。
「ディケム。魔法学校でも圧力が日増しに強くなっているわ。 今はフローラ皇女、アルバリサ王女ともに学校を休ませているけど…… 二人を排除退学させようと運動が起きてとても厳しい状況よ」
「ララも報告ご苦労様。 皆、まだ確たる証拠はないが此度のボーヌ王国事変の本当の目的は、アルバリサ王女を俺から引き離す事かもしれない。 俺の苦手な社交政治の圧力を使い間接的にじわじわと離れざるを得ない状況を作られている可能性がある。 フュエ王女を中心に社交界に注視してくれ」
「「「はっ!」」」
「ラトゥール、『ルカ教』についてその後何か分かった事はあるのかい?」
「はっ! ルカ教は我々の予想以上に深くシャンポール王国内部に入り込んでいるようです。 まだ特定は出来ていませんが既に貴族の中にも毒されている者が多数居ると思われます」
「貴族が毒されていると言う事は、かなり格の高い貴族が中心にいる可能性が高いな」
「はっ!」
「ラトゥール。 まだ決定づけるのは早計だが此度の事変、やはり先日の王国十二騎士団会議でも少し触れたが、ルカ教がアルバリサ王女を使いシャンポール王国の『国落とし』を企んでいると言う事ではないのか?」
『なっ! 国落とし!?』
総隊メンバーが集まる会議室が騒めく。
『そ、そんな……今回の宣戦布告はカモフラージュで、本当の狙いは直接シャンポール王国の『国落とし』だと言うのですか?』
『ルカ教団って……宗教ごときがそんな大それた事など出来るものなのか……?』
「ディケム様。 私もまだ早計だと思いましたが…… 今の見解は同じです」
『…………』 『…………』 『…………』 『そんな……』
俺の考えを聞いてざわついていた皆が――
ラトゥールまで俺の考えに賛同したことで言葉を失っている。
「ラトゥール、ルカ教とグリオット侯爵並びにオリヴィエ嬢の繋がりを調べてくれ」
「はっ!」
「そして…… ミュジニ王子が関わっているかどうかも調べてほしい」
「はっ!」
『なっ! ミュジニ王子?』
『ミュ、ミュジニ王子が関わっていると言うのですか?』
『でもなぜ王子が国落としなどする必要が……』
さすがにミュジニ王子の名は皆驚きを隠せないみたいだ。
ヒュプノスクリスをフュエ王女に奪われ、厳しい立場に立たされた王子が教団に唆され、間違った選択をした可能性はある。
まだ全てが推測の域を出ないが、ミュジニ王子の派閥が俺とアルバリサ王女を離そうとしている事は事実だ。
「あっ、あの……… ディケム様」
さっきから様子がおかしいマディラとトウニーが、今度は青い顔をして発言を求めてくる。
「どうした二人とも?」
「じ、実は先ほど…… ミュジニ王子の名代としてオリヴィエ・グリオット様が直々にお見えになりフュエ王女、シャルマ様、フローラ様、アルバリサ様の四人をお連れになられました。 『戦争回避の為に有力貴族を集め、フローラ様、アルバリサ様を応援する派閥を作る一席を設けた』と…… でも今の会議の話ですと……」
「ッ――なっ! もう痺れを切らし動いたと言うのか? まさか直接オリヴィエ嬢まで動くとは…… 後のことも考えられないとは愚かすぎる!!!」
正直油断していた事は否めない。
ミュジニ王子とフュエ王女の確執の事も『次期国王が誰なのか?』と言う難しい問題が関わる為、総隊の皆に知らせていなかった。
更に昨日、王女達の戦争犯罪国家責任の容疑が一時的保留となり急に身柄拘束期間が解除されたのもこの為だった様だ。
タイミングを見計らったようにミュジニ王子の名代として婚約者のオリヴィエ嬢が来れば、シャンポール王国で軍に関わる者は疑わない…… いや断る事は出来ない。
しかし油断していたのにも理由が有る。
オリヴィエ嬢が直接動けば、もし事が失敗した場合言い逃れが難しい立場になる。
それはオリヴィエ嬢一人の責任では収まらず、父君のグリオット侯爵やミュジニ王子にまで責任が及ぶ可能性がある。
なぜそこまで焦っているのか?
それともただ世情を理解できない愚か者なだけなのか?
すると――
「ソーテルヌ閣下に申し上げます! 只今シャンポール城上空に異変あり。 突如黒い霧に覆われています。 ラス・カーズ将軍より至急王城へ救援に来てほしいと要請がありました」
「まずい…… 既に事は進んでしまっているかもしれない。 ラトゥールは此処で待機、成り行きで総隊を動かしてくれ」
「はっ!」
「ディック、ギーズ、ララは至急装備を整えて俺と王城に向かう。 すぐに出るぞっ!」
「「「はっ!!!」」」