第七章21 王国十二騎士団会議
ソーテルヌ総隊との会議の翌日、俺の緊急招集を受け各砦に常駐している王国騎士団十二部隊の全隊長が集まって来る。
シューティングスターが活動期に入ったことで第五部隊、第八部隊、第十二部隊が影響を受け遅れて来たが夜には全員揃う事が出来た。
みなワイバーンの扱いが上手くなってきている様でなによりだ。
騎士団には隊長・副隊長にのみワイバーンを渡している。
各部隊の隊長・副隊長は毎月三部隊ずつ王都に交代で来ることになっている。
砦の情報報告と王都防衛の為だ。
その時に彼等には総隊竜騎士部隊の訓練に参加して貰ている。
ワイバーンを使役する事は簡単な事じゃない。
定期的な訓練は必須事項だ。
王城の軍事会議室の長テーブルに十二人の将軍が集まっている。
その様は壮観の一言だ。
王国騎士団第一部隊:ラス・カーズ将軍
王国騎士団第二部隊:フォン・マクシミリアン将軍
王国騎士団第三部隊:ガーター・エヴォラ将軍
王国騎士団第四部隊:ロドス・ベント将軍
王国騎士団第五部隊:カラ・エルマス将軍
王国騎士団第六部隊:サラ・エルマス将軍
王国騎士団第七部隊:マルタ・アヴィス将軍
王国騎士団第八部隊:ラザロ・フリアン将軍
王国騎士団第九部隊:バルト・カルメル将軍
王国騎士団第十部隊:リヴニア・トワゾン将軍
王国騎士団第十一部隊:アータ・フリース将軍
王国騎士団第十二部隊:ダドリー・グラハム将軍
正直学生の俺がこの将軍達の前に立つのは違和感しかないが……
将軍たちも俺が魔神族のラフィット将軍の生まれ変わりだと知っている。
魔神軍には皇帝と対等の将軍が五人いた。
その筆頭だった『剣鬼ラフィット将軍』。
生ける伝説と言われたその武将も既に亡くなり十五年の歳月が流れている。
王国騎士団も戦争を重ね世代交代をし、既にラフィット将軍を話しの中でしか知らない隊長も居る。
だが椅子に座る俺の隣に実直に立つ、魔神族五将が一人ラトゥールの存在が騎士団隊長たちを緊張させている。
みなソーテルヌ邸演習場での訓練で、ラトゥールに徹底的に鍛えられている事も恐れられている要因かもしれないが……
⦅虎の威を借るキツネとはこの事だな……⦆
此度の会議には、マール宰相と四門守護者も同席している。
「王国騎士団隊長の皆様には火急の招集に応えて頂き感謝致します」
「「「「はっ!」」」」
俺の挨拶が終わると、ラトゥールが皆に集まってもらった趣旨を告げる。
『ボーヌ王国の「人族五大国同盟」からの離脱』
『ボーヌ王国・ロマネ帝国・ドワーフ族の同盟締結』
『人族・魔神族・エルフ族の「三種族同盟」への宣戦布告』
『シューティングスターの活性化』
騎士団に話すのはここまでだ。
もちろんまだ裏情報の為、ボーヌ王国が既に宣言し確定した訳では無いが、事が大事のため我々は最悪を想定して動かなければならない。
この最悪の状況を想定して『西側領地の町や村をどうするのか?』『砦はどう対処するのか?』を話し合う。
だが今のところ――
『ルカ教の動き』
『ネフィリム問題』
『アルバリサ王女・フローラ皇女をどうするか?』
これらの件は騎士団の話し合いの状況を見て、知らせるかどうか考えるつもりだ。
ラトゥールが話を終えると――
『なんと言う事を……』
『とても信じられない……』
『また人族は過ちを繰り返すのか……』
と騎士団隊長達はこの事態をまだ消化しきれない様子だ。
マール宰相には事前に報告を上げている。
ルカ教が不穏な動きをしていることも伝えている。
だがまだ俺が思っている『アルバリサ王女を使い、国落としを画策している可能性』は確証となる情報が少な過ぎて伝えられるレベルではない。
そして不確かな現状で伝えて良いレベルの話でもない。
俺の考えは伝え、マール宰相には事前に国王陛下と話し合って貰っている。
俺の考えは『大規模な戦争は回避』アルバリサ王女の問題を解決すれば、ルカ教は単純な軍隊同士の戦争には興味が無いのではないか? と思っているからだ。
ルカ教が『ネフリム』の力に拘っている事は確かだ。
だがなぜルカ教が『ネフリム』の力を使いシャンポール王国の国落としを画策しているのか……
その理由がわからない。
「マール宰相、ボーヌ王国からの宣戦布告の通達は時間の問題だと思われます。 攻めに出るのか守りに徹するのか陛下と宰相殿の考えをお聞かせください」
マール宰相が『う〜ん……』と煮え切らず黙って考え込んでいる。
この様子を見る限りシャンポール陛下との話し合いは指針を示すほど進まなかったとみられる。
その様子を察した将軍達が『それならば』と激しい討論を始める。
「やられる前にやるべきだ――!」
「いや、戦争になれば西側の町も村もタダでは済まない、まずは交渉から――……」
「何を悠長なことを言っているのだっ! 向こうは宣戦布告してくるのだぞ、話し合いなど通用する筈がなかろう」
「シューティングスターはどうするのです? ボーヌ王国ばかり気にしていて後ろから竜に襲われでもしたらひとたまりも無いですよ」
「ドワーフ王国の情報が無いのも不気味ではないか?」
「――――…………」
「――……」
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こちらの話し合いも混迷を極めそうだ……
事前にソーテルヌ総隊の会議に出席していた第一部隊ラス・カーズ将軍も黙っている。
裏で暗躍している者の存在を知れば、大きな決断を下すのは慎重にならざるを得ない。
しかしすぐにでも大国が宣戦布告をして来るであろう状況下で、しばらく傍観と言う選択もあり得ない。
『ソーテルヌ閣下はどうお考えなのですか?』
騎士団第二部隊フォン・マクシミリアン将軍の問いかけに場が静まり返る。
「失礼ですが…… 閣下とラス・カーズ将軍が黙っていると言うことは、何か情報を掴んでいるのでは無いですか?」
マクシミリアン将軍の指摘に苦笑いするしかない。
その時ラトゥールが今新しく入った情報を俺にメモで渡してくる。
⦅なるほど……⦆
新しく掴んだ情報を加味して俺は口をひらく。
「このボーヌ王国の情報は私も昨日ラトゥールから報告を受けたばかり。 今日皆に集まって貰ったのは情報を共有するためと皆の意見を聞きたかった事もあります。 現状では情報が少な過ぎて判断しかねますから…… ですが私の考えを申しますと、ボーヌ王国に戦争をするだけの力は無いと思っています。 そしてロマネ帝国とドワーフ族は、同盟はしたものの戦争まではしてこないのでは無いかと」
「それは何か根拠がお有りなのですか?」
「現在ボーヌ王国は奇病が蔓延して国崩壊の危機状態だと情報を得ています。 そんな国が侵略戦争など起こす体力が無いかと。 そして今つかんだ情報だと、ドワーフ族は海の向こう『鬼神族』からの侵略を受けている様です」
「『鬼神族』…… といえば海の向こうの島国。 力で言えば『魔神族』に匹敵すると言われている強種族。 海の向こうの島国と言う離れた領地ゆえ、今までほとんど動かなかった種族が…… とうとう動き出したと言うことですか」
「この状況から鑑みて、ボーヌ王国の宣戦布告は我々を撹乱するためのもの。ドワーフ族とロマネ帝国は後方の憂いを無くす名目で同盟の話を持ちかけ、その威を借る為に使っているだけかと」
「してその真意は何なのでしょう?」
「我々の注意を王都から遠ざけたいのでは無いかと……」
「それは誰が何の為にでしょうか?」
「それが分からないのです。 ですがこのシャンポール王都で何かをしたい……暴動なのか、クーデターなのか…… 国落としなのか。と言うことでは無いでしょうか」
「なっ…… 国落とし!?」
「ですから我々ソーテルヌ総隊とラス・カーズ将軍の第一部隊は王都から離れられません。そして今までの話が仮説なだけに、宣戦布告への対処をしないこともあり得ません。 さらにはシューティングスターまで暴れている様では……」
少し考えた後、マクシミリアン将軍が口をひらく。
「では閣下の意向は、我々が敵の策にハマった程でボーヌ王国との戦争準備を整え敵の注意を惹きつけ。守りに徹しながら有事に備えろ…… と言うことで宜しいでしょうか? もちろん本当に攻めてきた場合は迎え討つ方向で」
やはりマクシミリアン将軍は臨機応変に動ける柔軟な人だ。
本当は騎士団には何も告げず、好きに動いてもらうしかないと思っていた。
しかしこちらの意図を汲んで動いてくれれば、これほど心強いことは無い。
「難しい舵取りになると思いますが、そうして頂きたい」
マクシミリアン将軍が一つ頷き、立ち上がり皆に問い始める。
「どうだろう各隊隊長殿。私はソーテルヌ閣下の指針に従うつもりだ。 幾度の危機を救って頂いた閣下の推測に賭けてみたい。 賛成の隊長は起立してくれ――!」
マクシミリアン将軍の呼びかけに、全ての隊長が立ち上がり軍の基本方針は固まった。
するとマール宰相が重い口をひらく。
「ソーテルヌ卿、町や村はどうするのだ?」
「私の予想ではボーヌ王国もロマネ帝国もドワーフ族も何もしない。 切り取った他国の町や村、領土を収めることは容易なことではないですから。 下手に手を出せば内側から崩壊する恐れもあります。それをするだけの体力は彼らにはないでしょう。 ですから何もする必要は無いとは思いますが…… 敵の策にハマった程ならば、それなりの動きを見せた方が真実味も増すでしょう。 問題は普通ならば避難場所となる王都が、これから一番危険な戦場となる可能性があると言うことです」
「ならば逃げ出す準備だけは整えさせ、情報だけを流し…… 何もしない。 と言うことか?」
「そこはマール宰相の腕の見せ所と言う事で……」
『…………』マール宰相が苦笑いをしている。