第七章16 仲良し四人組の魔法の杖作り
『えっ…… もしかしてなんとか出来るの?』というシャルマの言葉に四人が期待の目で俺を見る
彼女達にとって杖に焼き付けたい術式はどれも捨て難いのだろう。
基本的に杖に焼き付ける魔法陣の術式とは、術者が魔法を発動する為の補助機能だ。
それ単体ですごい魔法が発動するとかでは無い。
しかしこの杖に焼き付けられる魔法補助には発動スピードアップ、効果アップ、緻密な操作補助、複合魔法の待機容量……etc
などなど色々な術式、魔法自体の効果アップやバフまで加えられる術式がある。
それは魔法使いにとって無視できないとても重要な内容になっている。
特にシャルマ達は、ダンジョンでフュエ王女が装備バフの力であれほどゴーレムを圧倒した事を見て知っている。
彼女達はたかが道具と馬鹿にする事は決してできない筈だ。
「まだやってみないと断言出来ないけど、俺の見立てでは行けると思っている」
「ウソ…… ホント!? でもどうやって?」
「簡単に説明するとまず基本となる魔法陣は無駄が多いんだ。削げるところは削いでしまいたい」
「で、でもそれは安全マージンってやつでしょ?」
「あぁそうなんだが……君達の組み込みたい魔法陣の中にも代用してくれる術式があるんだ。両方組み込んでしまうと無駄がふえ容量を食ってしまう。更には誤作動の危険すら出てしまうんだ」
「そ、そんな事わかるんだ……」
「もちろんだ」
「そして今と似た事が君達の選んだ魔法陣の中でもいくつかできる。 代用できる術式は組み合わせて無駄を削ぎ落とし組み込みたい術式にリソースを回すんだ。 ついでに効率化を図れるところも改良し出力を更に上げる事もできる」
「えっ…… そんなに削ぎ落としてるのに、むしろ出力上げられるんですか?」
「削ぎ落としているのは贅肉だからね、落とした方が効率が良くなる場合もあるんだ」
「凄〜い。 ディケムさんって頭良かったんですね!」
「……………。 君達の俺のイメージってどんなんだよ」
「脳筋!」「脳筋?」「脳筋〜」 「の、脳き……」
「なっ…………」
「ちょっとここから真剣な話するぞ。 難しいから良く見ておいてくれ」
「難しいところ?」
「魔法陣ってのは、ここを改良すれば違うところに歪が出る、またそこを直すとさらに違うところに歪が出る。 全てを整えるのはパズルを組み立てるみたいに複雑なんだよ」
「へ〜」「ほ〜」「ほぇ〜」 「み、みなさん……」
「お、お前ら……」
「だって難しくてよく分かんないんだもん」
「まぁいい。 よしっ! これで二割オーバーくらいまで縮められたぞ」
「へ? でもまだ二割もオーバしてるの? それどうするの?」
「大丈夫予定通りだよ。 ここまで魔法陣で縮める事が出来ればあとは作成する過程で圧縮すればいい」
「作成する過程で術式容量の圧縮なんて出来るのですか?」
「あぁ大丈夫。 だけどそれはマナ操作の訓練を受けていないととても難しい事だから俺が補助して作り上げよう」
「「「「はいっ!」」」」
杖作りの担当先生は俺達の時と同じラローズ先生のようだ。
やはり道具作りとなると冒険者として培った様々な知識が役に立つからのようだ。
四人はラローズ先生を呼び魔法の杖(小)作成課題の最後の仕上げに取り掛かる。
「「「「それでは私達四人の、魔法の杖作成に入ります!」」」」
四人は宣言したあと、羊皮紙に書かれた魔法陣の上にすでに触媒となる琥珀を取り付けきれいに磨き上げた『埋もれ木』の杖をのせる。
俺の時は術式を杖に刻み込んだ後に触媒となる聖霊結晶を取り付けたが、その順序は刻み込みたい内容により変えるものになる。
シャルマ達四人が羊皮紙に魔力を注ぎ込むと……
魔法陣が発動し光り浮かび上がり羊皮紙が燃え上がる。
そして浮かび上がった魔法陣が杖に吸い込まれ杖全体に魔法陣が浮かび上がり光っている。
四人一斉に並んで杖作成に取り掛かっている光景は壮観で中々に見応えがある。
教室にいる別の学生達が興味を示して集まってくる。
『おぉ〜やってる やってる!』と下級生だけでなく上級生さらには先生方までも見学する為に集まり出した。
杖作りとは魔法使いが自分に合ったより良い杖を手にする為、一生涯作り続ける大事な仕事になる。
その為少しでも多くの情報を得るため、他の魔術師が作る工程を見たいと思うのは当然だ。
しかも四人が用意した素材は見た事も聞いた事すらない間違いなく特級品、伝説級の素材と言っても過言ではない。
その素材を使って行う杖作りは誰しも『見逃せない!』と思うのは当然だ。
集まった皆が『ゴクリ……』と固唾を飲む中、四人の王女達の杖作りは続いている。
普通の杖作りならばこのまま術式を杖に定着させればいいだけなのだが、今回は二割ほど容量オーバーとなっている。
これからが今回の杖作りで一番難しい所になる。
この容量オーバーの膨大な情報量を杖に圧縮して刻み込む為には、転写する際圧縮に反発する術式が弾きとびそうなところを抑え込み詰め込み定着させる必要がある。
だが力まかせに行えば枝がはじけ飛び、弱過ぎても今度は魔法陣が弾かれ刻み込めない。
繊細に繊細に魔力でゆっくりと抑え込み圧縮していく必要がある。
彼女達にはまだそんな事は出来ない。
しかしだからこその縦割り交流授業になる。
この時だけは上級生が下級生の課題を公然と手伝う事が許されているからだ。
彼女達が俺にリクエストした理由、期待していた事の一つはこれだろう。
彼女達四人の魔力を俺のマナで包み込み、繊細なコントロールを俺が一手に引き受ける。
⦅折角だからついでにマナを少し足しておこう⦆
徐々に魔法陣の情報が杖に圧縮されて行くにつれて、魔法陣の光が小さくなっていく。
そしてそれに反比例してなぜか琥珀の中に閉じ込められているすでに色褪せた蝶の羽に色が戻っていく……
『な、なんだこれは……』その光景を見ていたギャラリーから声が漏れる。
流石にこれには俺も驚かざるを得なかった。
杖全体に浮かび上がっていた魔法陣の光が完全に消え、杖に術式を全て転写出来たところで四人の杖はアルバリサ王女、フュエ王女、フローラ皇女、シャルマ嬢の順番に次々と一度強く輝きを放ち完成していった。
そして驚くことに触媒として使った琥珀の中の蝶の羽も生きているかのように青く輝き、色を完全に取り戻していた。
『すご〜い』『あの杖すっごくキレイ〜』
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パチパチパチパチ パチパチパチパチ
――教室は盛大な拍手に包まれた。
ラローズ先生が四人に声をかける。
「はい。 四人とも素晴らしかったわ。 自分達の作りたい杖をしっかり見据えて形にすることが出来たと思います。 そしてこの課題に対して自分達の力の足りない所もしっかり認め過信せず、それを補うために学校の制度と上級生を利用して作り上げた。 とても良かったわよ、四人とも」
⦅り、利用って…… 言いかた⦆
「「「「ラローズ先生ありがとうございます」」」」
「でもまだ最後のテストが残ってるわよ。 ちゃんと杖が使えるか試してみましょう」
「「「「はい」」」」
一番最初に完成させたアルバリサ王女が、初めて作った自分の魔法の杖を手に持つ。
彼女の喜びと感激がここまで伝わってくるようだ。
アルバリサ王女は一度後ろを振り返り、彼女の親友三人を見る。
四人で頷いた後アルバリサ王女が魔法を唱えるために杖に魔力を流し込む。
すると――! 杖から光る蝶の羽が生えてくる。
「なんだあれ? 杖が蝶の羽を纏ったぞ」
「うわ〜 キレイ……」
それはとても美しい光景だった。
どうしてそうなったのかは分からないが、今回四人が作った杖は作った本人が魔力を込めると青く光る蝶の羽が開くのだ。
四人以外が魔力を込めても蝶の羽は顕現しない。
そして蝶の羽が顕現している方が魔法の効力が上がるようだ。
⦅精霊虫入りの琥珀、なかなか面白い素材だな……⦆
アルバリサ王女が光る蝶の羽を纏った杖を振りかざし呪文を唱える――
≪――φως(灯り)――≫
杖の先に『灯り』魔法の青白い光がポッと灯り、青く光る蝶の羽と共にとても幻想的な光が辺りを照らし出した。
『わぁ〜 素敵〜』
パチパチパチパチ パチパチパチパチ
パチパチパチパチ パチパチパチパチ
――教室はまた盛大な拍手に包まれた。