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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章15 縦割り交流

 

 今年から魔法学校三年生になった俺は上級学年になり、下級生との縦割り交流と言う学校行事に参加する事になる。

 交流の方法は色々あるが、昨年下級学年だった俺は戦士学校でコルヴァス先輩に模擬戦を申し込んだ事が有る、あれもこの縦割り交流の一環だった。


 交流は時間を決めて全校生徒で交流する事が多いのだが、この学校は軍事学校だ。

 俺のように殆ど学校に来ない上級生も居る。

 その為下級生からお目当ての上級生に個別リクエストを出す事も出来る。

 もちろん受けるかどうか、誰のリクエストを受けるかは上級生に選択権がゆだねられる。



 そしてこの縦割り交流のリクエストだが…… とにかくララが大人気だ。

 男子生徒だけではなく女子生徒にまで人気になっている。

 そしてディックとギーズもそれなりのリクエストを受けている。

 そして俺はと言うと…… ほとんど申し込みが無いのが現状だ。


 ララからは『ディケムはいつも忙しそうだからみんな遠慮してるんだよ……きっと』と慰めてくれるけど、結構指名されないと言うのも悲しいものだ。

 やっぱり昔からコミュ障気味な事は否めない、俺自身もとっつきにくいオーラを出しているのかもしれない?


 そんな俺に珍しく縦割り交流の指名リクエストが来た。

 『おぉおおお――』と驚いていたらリクエストはシャルマ達だった。


 ⦅なんだ……シャルマ達か⦆


 シャルマ達はフュエ王女達と一緒に今もうちソーテルヌ邸に泊まっている。

 毎日のように夕食も一緒にとっている。

 教えて欲しい事が有ればわざわざ学校でなくても、家に帰ってから聞いてくれればいいのに……

 とは思ったがアルバリサ王女の事もあるし、わざわざリクエストを出してきたのだから意味があるのだろうと受ける事にした。


 俺へのリクエストはフュエ王女、シャルマ嬢、フローラ皇女、アルバリサ王女の連名で来ている。

 交流リクエストの内容は『魔法の杖(小)の作成を教えてください』と書かれている。

 そして備考には『素材は揃いました。 魔法陣の書き方を中心にアドバイスお願いします』と書かれている。


 そう言えば先日フュエ王女がラトゥールとエルフ領に行き、『埋もれ木』と言う珍しい杖の素材と精霊虫入りの珍しい『琥珀(アンバー)』を獲って来たと、楽しげに冒険譚を聞かせてくれたな。

 夕食時に王女たちのそんな冒険譚を聞いて、弟のダルシュが目を輝かせて聞いていたのが印象的だった。

 四人で手に入れてきた思い入れのある素材、だから最後の仕上げも手を抜きたくないのだろう。





「ディケムさん、リクエスト受けてくれてありがとう」

「ソーテルヌ公爵様もリクエスト受けてくれるんだって皆んな騒いでたわよ」

「どうせ王女だから特別だろとか言われてたけど……」

「なんか俺へのヘイトになっている気がするんだが……」

「それは日頃の行いでしょ」


 なんか何もしていないのに酷い言われようだな。


「魔法陣なら家でも教えられるんだが……」

「杖(小)は授業で作らなきゃダメだし、学生皆がやる課題を家でディケムさんに教えてもらったら更にヘイト集まっちゃうと思うのよ。学校で教えて貰えば贔屓感は薄れるでしょ?」

「もう手遅れな感じはするけど…… まぁいいか」



 この縦割り交流授業の時間は、全校生徒が各々興味のある科目のグループに分かれて交流を行っている。

 そしてその交流の中で学校の課題を上級生に習い進める事も推奨されている。


 校庭を見ればディックが下級生に黒魔法の実技を教えているのが見える。

 そして俺がいるこの教室には座学を中心とした交流が行われている。

 その座学交流の中でも俺の周りにはシャルマ達のリクエストにより魔法陣に興味のある下級生が集まっている。

 俺はシャルマ達のリクエストに応えてここに来たのだが、別に他の生徒がこの交流を一緒に聞くのを禁止する事はない。

 もちろん俺がメインに教えるのは、俺を呼び出した四人のお姫様という事にはなるのだけれど。



 俺達五人の周りにはすごい数の生徒達が集まってきている。

 流石にこの人数を気にするなと言う方が難しいが、俺たちは魔法陣の話をする。


 まずは四人が手に入れてきた素材を見せてもらう事にする。

 机の上に『埋もれ木』と精霊虫入りの『琥珀(アンバー)』が四つずつ置かれた。

 その誰も見たことの無いレアな素材に『おぉおおお――』と驚きの声が周囲から上がっている。


「これは…… 中々凄い素材を集められましたね」


 俺の素直に漏らした感嘆の言葉に四人が『イェ〜イ』と手を打ち合わせ喜んでいる。


 俺が杖作りで使った『神木の枝』と『精霊結晶』はあり得ないもの……

 有ってはならない物だった。

 しかし彼女達が集めてきた素材は、この素材が存在する事を説明出来るれっきとした伝説素材の部類だ。

 そして妖艶に黒く光る埋もれ木の枝と琥珀に入る精霊虫の蝶が、彼女達王女四人が持つに相応しい気品と色気を備えている。


 『私達も中々やるでしょ? もっと褒めて〜褒めてよ〜』とシャルマが煩わしい。

 そして『ねぇ参考にディケムさんの杖(小)を見せてよ』とねだられた。


「俺の杖はあまり参考にならないぞ」

「だってラローズ先生が授業で凄かったって言うから。 参考までに見たいのよ」


 シャルマにせがまれ俺は腰に装備している自分の杖『神珠の杖(小)』を机の上に置く。

 俺の杖は触媒から杖の本体にかけ蔓が伸びて絡まった形状をしている。


「これ……『何をどうやったらこうなるの?』って形状してるわね」


 シャルマが恐る恐る触ろうとした時 パチッ! と手を弾かれる。

 フュエ王女は手を出さない。

 流石はアーティファクト武器ヒュプノスクリスの持ち主だ。

 兄のミュジニ王子が無理にヒュプノスクリスを手に入れようとして痛い目をみているのを知っているからだ。


「シャルマ、その杖は俺以外触れないんだ。 目一杯マナを注ぎ込んで作ったら『名付け』が必要な杖になってしまった」


「名付け?」

「あぁ…… まぁアーティファクトに近いマナ量を持っていると言う事みたいだ。 素材が『神木の枝』と『精霊結晶』使ったからね」


「アーティファクトって………」


 俺の杖は参考にならないと言うことで、改めて仕切り直して魔法陣について皆で話し合う事にした。



「基本的に杖を作る素材により、詰め込める術式の容量が決まってくる」

「うん。 それで私たちの素材はどうなの?」

「特級品と言って良いだろう」


 四人全員嬉しそうにまた手を打ち合わせ喜んでいる。

 とてもいいグループだ。


「だけど、作るのが小さい杖だからどうしても大きい杖よりは内容量が厳しくなる」

「そうなんだ……」


「そして授業でも習ったと思うけど、必要最低限組み込まなきゃいけない基礎となる魔法陣がある。 普通にそれを組み込むと君達の特級素材を使ったとしても半分位の容量を必要としてしまう。 そして君達の組み込みたい魔法陣を見せてもらったけど、それだけで杖の容量を軽く超えてしまっていた」


「やっぱり……」

「ほら〜 だから盛り込みすぎって言ったじゃない」

「でもフローラだってあれもこれもって言ってたじゃない」

「だって…… どれも諦めきれないんだもん」

「そうするとディケムさん、大幅に内容をカットしないとダメって事だよね?」

「どうするのよ? 何を諦めるかまた考えないとダメじゃない」



「君たちはその為に俺を呼んだんじゃ無いのか?」


 『えっ!?』と俺の言葉に四人が期待の目で俺を見る。



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