第七章12 仲良し四人組、六賢者と会う
――フュエ王女視点――
エルフ族の長老様と会う前に、街を歩きながらラトゥール様が六賢者について説明してくれます。
「お前達も少しは勉強して知っているとは思うが長老と会う前に少し説明しておく。 このエルフ族領は六賢者と呼ばれるハイエルフによる合議制で国は運営されている」
「「「「はい」」」」
「その六賢者を束ねる者が『アルコ』というハイエルフだ。 推定三〇〇〇歳と言う長き時を生きる者。 このエルフ族の長老達はその長い寿命を活かし代々歴史を書き記し、後世に残す役割を担っている事から『時の観測者』とも呼ばれている。 彼等が賢者と呼ばれる由縁だ」
「さ、三〇〇〇歳……」
「時の観測者……賢者様」
「あとの六賢者の名はクラヴ、カルフ、オルヴィ、ルオモ、ランディアだ。 この六人の名前だけは人族の王女として覚えておけ」
「「「「はい」」」」
「ちなみにこの五人の年齢は一番若輩のランディアが一五〇〇歳、あとの四人は二〇〇〇歳を超えていると聞く」
「若輩で一五〇〇歳…… ですか」
「このエルフ族の一番の強みは『武力』でも『魔力』でも無い――この『知識』だ。 まぁお前たち学生が作る魔法の杖の素材探し如きで話を聞ける相手ではないな……ふつう」
「…………」 「…………」 「…………」 「…………」
「フフッ 冗談だ。 偉い賢者様ってのは本当だがアルコ長老はとても気さくだ。小さな疑問にも真剣に答えてくれるだろう。 安心して質問してみるがいい」
「「「「は、はい……」」」」
アールヴヘイムの中心にそびえ立つイグドラシル。
そのイグドラシルを利用して作られた宮殿の様な建物に賢者様がいらっしゃいます。
宮殿は外から見ると木に覆われとても素朴でシンプルに見えましたが、その内部に入ると目を見張るほど素晴らしいステンドグラスで彩られていました。
木を利用した建物は壁にレンガを組み合わせ、光が差し込む窓には細かな細工のステンドグラスがはめ込まれています。
そのステンドグラスから射し込む日の光は、モザイク模様に色とりどりに彩られ、賢者が住まう場所にふさわしい厳粛で幻想的な雰囲気を作り出していました。
「待たせたなアルコ長老、そして六賢者の方々よ」
ラトゥール様が六賢者の方々に口調は少し砕けた物言いですが、きちんと礼を尽くしていました。
ラトゥール様はディケム様絶対主義者な為、ディケム様以外にはあまりへりくだりませんが、基本的には常識人で礼儀をわきまえていらっしゃる方です。
その所作を見て、ラトゥール様の挨拶に悪い印象を抱く者は少ない事でしょう。
「ラトゥール様。 お待ちしておりました。 それで彼女たちが……」
「そうだ、彼女たちが人族四大国の王女だ。 まだ学生だが見分を広めてやりたくて連れてきた。 エルフの国を見せてやってほしい。 両国の見分を深めた次代の若者達が育つ事がこれからの両国の絆に必要だ」
「はい。 かしこまりました」
「あぁそれから。 彼女たちは学校の課題で探さなければならないものが有るらしい、可愛い質問だが聞いてやってくれ」
「もちろんでございます。 子供はエルフ族も人族も同じ大切な宝です。 そして学生の疑問と好奇心はいずれ賢者へと至るための第一歩。 どのような質問であれ私達に応えられることならば真摯にお答えいたしましょう」
ラトゥール様から目くばせをされ、私達四人は緊張しながらアルコ様の前に進みました。
「お初にお目にかかります。 シャンボール王国王女 フュエ・シャンポールと申します」
「モンラッシェ共和国大統領の娘 シャルマ・モンラッシェと申します」
「ロマネ帝国皇女 フローラ・ロマネと申します」
「ボーヌ王国王女 アルバリサ・ボーヌと申します」
「「「「以後、お見知りおき下さいませ」」」」
「王女様方ようこそエルフの国へいらっしゃいました。 少ない時間でしょうがこの国を楽しんでください。 この国はディケム様の庇護を頂き滅亡の危機から救われたのです。ですから人族に敵意を持つ者などここには居ません。 仮にもし敵意を持った者が居たとしたら、庇護の契約上この国に居る事は出来ません。 ですから安心して街をお楽しみください」
「はい。 ありがとうございます」
ここはディケム様が庇護した国。
私達はその契約のもと身の安全は守られると言う事…… しかしその逆も然り。
もし私達がエルフ族を傷つける事が有れば、ディケム様の怒りが私達に向かうと言う事でしょう。
「王女様方、私達はこの後ラトゥール様とお話しをしなくてはなりません。 その間エリゼに街の案内を頼みますが…… ですがその前にまずは皆さんの質問にお答えいたしましょう。 その方がお互いに後の時間を有意義に使えるでしょうから、よろしいですかラトゥール様?」
「もちろんだアルコ族長。 よろしく頼む」
「はい。 では王女様方質問をお聞かせください」
『あっ……はい。 ありがとうございます』と私達四人は顔を合わせ頷いてから質問を始めました。
「それではお尋ねいたしますアルコ様。 私達の今回の目的は魔法の杖を作るための素材探しなのです。 杖用の良い『枝』と『触媒』に心当たりはありませんでしょうか? 出来れば初めて作る杖ですから少し特別な素材が欲しいのです。 森に住むエルフの国ならば凄い素材が有るのではないかと思いまして…… お知恵を貸していただけたら幸いです」
私の質問に他の三人も頷き、アルコ様の顔を見て返事を待ちます。
「あらあらまぁまぁ~ 本当は初めて魔法の杖作りをするならば、普通の素材で作ることを勧めたいのですが…… そんな事を聞きたいのではないのでしょうね。 あなたたちが欲しいのは杖では無くて仲良し四人組と一緒に特別な素材を探し集めて作ったという思い出。 それは特別な場所で特別な素材を集めればさらに思い出深くなると言うものですからね。 その気持ち否定もしませんし素敵なことだと思います」
「「「「えっ……」」」」
アルコ様に言われて初めて私達は自分たちの本当の気持ちに気づきました。
私達が求めているのは素材じゃなくて四人で作る思い出。
『あはっ♪』とつい四人で顔を向き合い笑い合ってしまいました。
「ここは森の人エルフの国。 ほとんどの杖に適した素材の木が生えていると言ってもいいでしょう。 イチイ、ヒイラギ、ニワトコ、ニレ、樫の木…… 杖の素材として銘木と言われているのはこの辺でしょう。 もちろん木が育った年月と内包したマナ量によって価値は変わってきます。 その事から最上級とされる杖の素材はこのイグドラシルの枝となりますが…… イグドラシルは悠久の時を生きる神木です、普通は実もつけませんし葉も枝も落としません。 伐る事など絶対にゆるされません。 葉はため込んだマナが飽和状態になった時に稀に落としますが、それをイグドラシルの恵みと呼び薬の材料となるのです」
「「「「はい……」」」」
「少し話がそれましたが、要はどの種類の木にするかは人の好みに寄るもの。ですがその良し悪しは木が生きた年月とため込んだマナ量と言う事です。 そこで面白い素材を教えましょう」
『はいっ!』と私達はアルコ様の話に集中する。
「このイグドラシルの地下には空間があり、そこに地底湖があるのです。 その湖の底にはイグドラシルがまだイグドラシルでは無かった時代に落とした枝が沈んでいるのです」
「えっ……! でもそんな古い昔の枝って腐っているのでは無いのですか? ましてや水の中ならなおさら……」
「木が腐ると言うのは水分が木材の組織を壊していくというわけではないのです。虫や菌の繁殖によって食べられてしまうことにより組織が崩壊していく事なのです。菌が繁殖するには空気と湿気が必要なのです。 ですから空気が十分でない水の底、しかも光も届かぬ地底湖では菌が繁殖しないので木が朽ちることがないのです。 地底湖が太古の素材を現代まで保管してくれているのですよ」
『…………』木は水で腐るのだと思っていました……驚きです。
「その地底湖に沈んでいる枝を『埋もれ木』と呼んで、我々エルフ族は特別な素材として大切に使ってきました。 どうです? その『埋もれ木』ならあなた達四人が探しに行くのに相応しい素材だと思いませんか? そしてその冒険はあなた達四人の大切な思い出になると思いますよ」
『『『『わぁ~~♪』』』』 私達は興奮のあまり思わず声を上げてしまいました。
そんな特別な素材想像もしていませんでした。
「ただし…… そこは私達が代々聖域と定め神聖な場として大切に守ってきた場所。 この場所を守るためにも『埋もれ木』を引き上げる者は自分の分だけと定めているのです。ですから人の手を借りて湖から枝を引き上げる事は出来ません。 正直王女様四人では難しいかしいかもしれません。 誰も手伝う事の出来ない試練となりますが挑みますか?」
誰の手も借りることなく、湖底の枝を引き上げなければいけない。
泳ぎが得意なら出来るかもしれませんが……
そんな事王女として育てられた私達四人全員が出来るの?
私は三人の顔を見回しましたが、誰も断る気などサラサラ無い顔をしています。
⦅ですよね~⦆
『『『『やらせてください!』』』』と四人一斉に返事をしました。
「分かりました。では…… 私、六賢者の一人アルコはこの四人が我々の聖域に立ち入り『埋もれ木』と『アンバー』の採集をすることを認めます! そして六賢者の皆にもコレを提案する。 他の皆も同意してくれますか?」
『認めます』『認めます』『認めます』『認めます』『認めます』
アルコさんの宣言に他の六賢者の皆さまも同意してくれました。
「六賢者全ての許しが出ました。せっかく王女様四人がこのエルフの国を訪ねてくれたのです。 『埋もれ木』を四人全員が手に入れられることを祈っています」
『ありがとうございます』私達は六賢者の皆さんに深く頭を下げました。
「あぁそれから、その聖域の地底湖の周りの砂に『琥珀』と言う宝石が落ちています。 その宝石は神木から流れ出た樹液が長い年月をかけ宝石となった物です。 それも杖の触媒として持ってくると良いでしょう。 元は同じ神木から零れ落ちた素材ですから相性は抜群なのですよ。 もちろん一人一つだけですよ」
すると別の賢者様がさらに情報をくれます。
「アンバーには稀に、樹液の中に閉じこめられた精霊虫が入っている物が有ります。 これはアンバーと一体となった精霊虫の力も宿っているとても希少なものです。 探してみてはいかがですかな」
「「「「ありがとうございます!」」」」