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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章11 仲良し四人組、アールヴヘイムを歩く

 

 ――フュエ王女視点――


 私たちはアールヴヘイムに転送され到着したとき。

 最初はその迫力に圧倒され、無数に広がる巨木の森の中に居ると言う事しか理解できませんでした。

 ですが目が慣れて来るにつれて、その巨木の一つ一つがエルフ族の住む高層階の住宅となっている事が見えてきます。

 さらによく見てみればその木々の間をエルフ族の人々が飛んでいる姿も垣間見え、そこにはエルフ族の人々の営みがある事がわかります。


 そしてその無数に広がる高層住宅の巨木のさらに奥、一際大きな巨木が見えます。

 一目見ただけであの巨木がこの国の中心、イグドラシルだと誰もが理解できる事でしょう。


「さぁお前達、まずはこの国の長老達にご挨拶に行くぞ」

 ラトゥール様の言葉に私達は『『『『はい』』』』と答えます。


 私達四人は始めて見る国、街を今にも走り出して見て回りたい衝動を抑えて、ラトゥール様の後について歩きます。

 そしてラトゥール様の話を聞きながら歩く私たちの先頭をエリゼさんが歩きます。

 流石は元ダークエルフ族の族長さんです。 すれ違うエルフの皆さんが道を開けエリゼさんに挨拶して行きます。



 転移してきた場所は、この国の中心にほど近い場所なのだとエリゼさんが説明してくれます。

 今いる転移用の場所として使っている木から、隣の木々への橋がいくつも見えますが、私達はまずは地上に降りて地上の道を歩くそうです。

 慣れてくれば色々近道が有るのだそうです。が、始めてこの国に来た私たちには、この国の中心を通る大通りを歩きエルフの国を見ながら長老様たちの住むイグドラシルに行って欲しいのだと説明してくれました。




 私たちは森を利用して作り上げられた巨大な街の中を歩きます。

 天高くそびえ立つ巨木を利用して作られた、無数に立ち並ぶ高層階の住居は見ているだけで圧巻の一言です。

 そしてその巨木の地面に面した一階層二階層付近は住居ではなくお店が入り、地表の路面は多くのエルフ族の人々で賑わっています。

 見上げると巨木と巨木は幾つもの橋で繋がり、橋で繋がる階層には広場も設けられており、そこには地表と同じようにお店が立ち並んでいる様子が伺えます。


「すごい……」

「人族の街とは、まったく作りが違うのですね」

「エルフ族の人々を『森の人』と例えられると聞きましたが…… まさにですね」

「ですが…… 森と共生と言っても決して素朴な文化と言うわけではありませんね」

「うん。 自然とうまく共生してそれがむしろ人族よりも文化度は上の気がします……」

『『『うん……』』』


 人族の王都にもいくつか高い塔を作っていますが、高い塔を建てる事は高い技術を持った職人を大勢必要とし膨大なお金を必要とします。

 そのため軍事的な高み台を兼ねた塔を必要数しか作る事が出来ません。

 それでも平地に建てられた単独塔としては三〇メートル位が限界でしょうか……。

 それがこの国は巨木を利用して作られている事からその高さは途方もなく高く、数も数える気にもなれません。

 人族が平地に平面的に国を広げていったのに対して、エルフ族は森を利用し上へ上へと街を広げて行ったようです。

 上を見上げれば森全体にエルフの人々の生活の明かりが燈りその数に圧倒されます。

 この壮大な光景を始めて見る人族はだれしも言葉を失う事でしょう。



 私たちは素直にこの国アールヴヘイムに感嘆していました。

 ですがそれは、同盟を結び平和な交流をしている今だからこそ許された感動でしょう。

 もしここが敵国だったとしたら…… 私たちは感動どころか恐怖と絶望に打ちひしがれていたに違いありません。


 (ディケム様はここに単身で乗り込んだのだと聞きました……)

 (とても私には信じられせん)


 上へと伸びる街を眺めていると、治安維持の騎士団の人達が『飛行(フライ)』の魔法で木々の間を飛んでいるのが見えます。

 ですが一般の住民の人々は主に歩いているように見えます。


 私が不思議そうに見ているとエリゼさんが教えてくれます。

「我々エルフは生まれてすぐに契約儀式を行い風の精霊シルフ様の加護を受けるのだ。 だからエルフ族は基本皆飛べる。 でも街中で皆が好き勝手飛んでしまっては無法地帯になってしまうだろ? だから軍以外のエルフは街で飛ぶ事を規制しているのだ。 もちろん自由に飛べるエリアもあるからそこで飛ぶ訓練は欠かさないけどな」


 その話を聞いて、珍しくリサがエリゼさんに質問します。

「あ、あの…… 質問してもいいですか?」

「あぁ遠慮するな。 多少の事ならば学生の質問だ、大目に見て答えてやるぞ」


「では……あの、エルフ族は森の人とも例えられるほど森と共に有る種族ですよね。 それなのに何故契約する精霊様は木の精霊様ではなく風の精霊様なのですか?」


「それは……戦争のためだ。 森に住む我々エルフ族はもちろん元々はドライアド様を信仰していた。 しかし…… 我々のご先祖様は苦渋の決断をしドライアド様からシルフィード様へと信仰を変えた。 制空権を取る事は戦争では圧倒的に有利になるからだ。 体格も小柄で非力な我々は人族と同じ種族として決して恵まれてはいない。 だがそのデメリットは飛ぶと言う事に関してはメリットに変えられる。 そしてその決断は正しかったと我々は信じている、もちろんドライアド様への未練が無いかと言えば噓になるが……」


「ドライアド様とシルフィード様の両方を信仰する事は出来なかったのですか?」


「お前たち学生はこれから習うと思うが、普通複数の精霊と契約することなど出来はしない。たとえ一柱だったとしても精霊様が消費するマナとは人一人にとっては大きすぎるからだ。 我々の長ハイエルフのアルコ様ですら出来はしない。 そんな事が出来るのはディケム様とラトゥール様くらいだろう。 そして一番の問題は風の精霊シルフィード様の天敵が木の精霊ドライアド様だと言う事だ…… そんな事が許されるはずも無い」


『あっ!』と私達四人も気づく。

 精霊様の最も嫌う事は弱点となりうる属性です。

 シルフィード様と契約しているのに、その弱点属性であるドライアド様と契約する事は常識で考えれば不可能。

 プライドが高く気高い精霊様が、もし自分の契約者が自分の頭が上がらない属性精霊を連れてこようとすれば怒るのは当たり前でしょう。


「我々は戦争のためにドライアド様とたもとを分けてしまったが…… 森に住む者としてドライアド様への敬愛を捨ててはいない。 だからディケム様のもとに下ったが、その庇護下に入る事でシルフィード様との契約をそのままにドライアド様の加護を受ける事ができた。 我々エルフ族は皆ディケム様に本当に感謝しているのだよ」


 (………………)


 私達はエルフ族との事変を大人たちから掻い摘んでしか聞かされていません。

 ですからもしかしたら実質的な従属国となったエルフ族の人々は、私達人族を恨んでいるのではないかと心のどこかで恐れていたのです。

 ですがこの国に来てその文化を見て、そこに住む人々の話を聞いて、初めて知る事学ぶ事が多くあるようです。

 私達を連れてきて下さり、経験を積ませて下さるラトゥール様に感謝です。




 しばらく街を見ながら歩いていると、街の中心を綺麗な清流が流れています。

 そしてその畔には素敵なカフェテラスが見えてきました。

 『『『『わぁ~ 素敵~♪』』』』とカフェ好きの私たち四人は一斉に声を上げてしまいました。


 そしてリサが『あのカフェに行きたい!』と言う思いを、先頭を歩くエリゼさんに遠回しに伝えようとしたようですが……


『シャンボール王国にもきれいな水路の傍に、私たちのお気に入りの素敵なカフェがあるのです。 ですがここアールヴヘイムのカフェは森の中と言う事もあり、より神秘的で精霊様の力を感じられる格別に美しい場所にあるのですね。 あんなカフェで私もお茶をしてみたいです』と……


 ですがエリゼさんから返ってきた言葉は……

「ディケム様がこの国に来た時、エルフ族は空を失い、住み慣れた家に縛り上げられ身動き取れない所に、この幼少の頃より慣れ親しんだ美しい小川が猛り狂う龍へと変わり襲いかかって来たと聞く。 エルフ族は誰もこの美しい小川が牙を向けてくるなど考えもしなかったのだ。 だからエルフ族は何も出来ずにディケム様に降伏した。 まさにあのお方は自然と共に生きる我々エルフ族が王と崇めるに相応しいお方だ」


「…………」 「…………」 「…………」 「…………」


 (あ……うん。 知ってました。 さすが武闘派ダークエルフのエリゼさんです)


 リサはあらぬ方向に話が向かってしまい『あは……あはははは…………』と笑って誤魔化していました。



『お前達……』と私達のチグハグなやり取りに見かねたラトゥール様から声をかけられます。

「お前達のあのカフェに行きたい気持も分かるがあとで自由時間はある。 その時にでも行けばいい。 今はとにかく長老への挨拶が最優先だ」


『『『『は~い』』』』と返事をする私達とは別に、ラトゥール様の言葉を聞きキョトンとするエリゼさんの表情が少し可愛かったです。




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