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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第7章 腐りゆく王国と隠されたみどりご
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第七章7 神木下のテラス会議

 

 神木の下フェンリルの眷属、真神オオカミが元気に遊び回る時節が終わり。

 植物たちの芽吹きがにぎやかになり、大地は緑の絨毯に覆われドライアドの眷属木霊が元気に遊びだす。

 この神木下のテラスも植物の生命力が溢れ花々が力強く咲き誇る、とても華やかな雰囲気に包まれている。



 学校で二度目のリサの暴走騒動があった夜。

 いつものメンバーにフュエ王女とラローズ先生を招いて、神木下のテラスで食事をとりながらミーティングを行う事にした。


 この季節の夜のテラスは、色とりどりの精霊オーブの光に花々が照らし出され、それはまるで色が溢れ出した色彩の洪水のように派手やかだ。




「ディケムくん? アルバリサ王女の事で大事な会議と聞いて来たのだけれど…… 凄く優雅な会議なのね」


 テラスの派手やかな雰囲気とテーブル上の料理を見て、ラローズ先生が少し呆れ顔で席に座る。


「ラローズ先生。ここは神木のお膝元、精霊を最も身近に感じられる場所の一つですよ。 優雅に遊んでいる様に見えますがこれも精霊使いならばとても大事な事です。 ほらラローズ先生の『ウォーターエレメント』も喜んでいるじゃないですか」


 顔をしかめるラローズ先生の周りを、ウォーターエレメントが嬉しそうにポワポワグルグルと回っている。


「先生…… そんな顔をしていると精霊に愛想を尽かされちゃいますよ」


『うっ! うぅぅ……』とラローズ先生が慌ててウォーターエレメントをなだめている姿が可愛らしい。




「さて話がズレてしまったが、まじめな話に戻ります。 ではフュエ殿下、今日のアルバリサ王女の暴走の件ですが、学校に侵入したルカ教信者によって引き起こされたと考えて良いのですね」


「はい。私はルカ教を知りませんが、黒い修道服の人物がリサの後ろに立って、薄っすらと光を帯びた小さな笛を吹きました。音は聞こえませんでしたが、その後リサが暴走しました」


「私も見ましたが、あの黒い修道服はルカ教の服で間違いないでしょう。 『Σ』(ヴァーシグマ)の刺繍もありました。 いろいろと気になる事は有りますが……まずはラローズ先生。 どうやってその黒い修道服を着た人物は学校に入れたのでしょうか?」


「正直言って分からないわ…… 魔法学校の警備は結界とまではいかないけれど、王族や貴族も通う事からはっきり言って王城の次に厳重と言っても良いわ。 生徒以外のしかも怪しい人物がフラッと入り込めるようないい加減な警備はしていません」


「ディケム様、私はあの時その人物を取り逃がしましたけれど、あの時黒修道服の人物を助けた人が居ます。 そしてその人物は黒修道服の人物を女性の声で『ボノス』と呼んでいました」


「フュエ殿下はその協力者の手引きで学校に忍び込めたのだとお思いなのですね?」

「はい」


「ではなぜこっそり忍び込んだのに、わざわざ修道服に着替えて、目立つように出てきたのか?」


 その質問にはラトゥールが推測を口にする。

「ディケム様。 宗教とは思想が極端であれ、周知されて初めて信者が増えていきます。 たぶん多くの学生に自分たちの存在と力を周知させたかったのでしょう。 今回の件で多くの学生がルカ教を知る事となりました。 あとは水面下で口コミを広げ人伝いに勧誘していけば、少なからずルカ教に傾倒する学生、協力する者は増えていくことでしょう」


「そんな! ラトゥール様はあんな危険なカルト教に傾倒する学生が居ると思われるのですか?」


「ディックよ。 学生はまだ思考も思想も不安定だ。特にしっかりと自分を持っていない心が弱い学生や不遇の身、現状に不満を抱いている者は強烈な主張を押し付けて来るカルト教にハマってしまう傾向が強いものだ」


「なるほど…… ルカ教の信者を増やす目的もあると言う事か。 だが不審人物は組織的に動いている様だが、一つ気になる事はフュエ王女が書いてくださった報告書にある、その黒い修道服の人物は『アルバリサ王女の力を初めて見る様だった』との記述です。 アルバリサ王女が暴走したのはこれで二回目だと言うのに」


「はい。 黒修道服の人物は『我らの希望の子よ』とリサに向かって言っていました。 それと『片翼しか無い出来損ないか!』とも叫んでいました」


「たしかにその言葉からすると、今回の黒修道服の人物はアルバリサ王女の暴走を初めて見たようですね。 ならば最初の暴走のきっかけを作った者と今回の信者は連携が出来ていないと言う事になる。 そして最初の暴走の時は『言葉』での暴走発動に対して今回は『笛』を使っての暴走と違いもある。 『言葉』の方は一瞬にしてアルバリサ王女は気を失ったが、今回の『笛』は多少なりとも王女は抵抗しフュエ王女に『逃げて』と言葉を交わしている。 そして『希望の子』と『片翼』と言う言葉……」


「はい」


「不審者の言葉から推測すると、あのアルバリサ王女のマナの形態変化、途中で現れた『黒い片翼の羽』には意味があると考えた方がよさそうだな」


「ディケム様。 黒修道服の人物はリサに向かって『あのお方の期待に応えられる力がある事を示しておくれ』とも言っていました」


「『あのお方』ですか……」

「はい」


「ルカ教、希望の子、片翼の羽、ボノス、あのお方…… 判っている事は二回の事件がアルバリサ王女を中心に起きたと言う事だけか……」


「分らない事ばかりですが、それでも今回の暴走はディケム様の火の精霊イフリート様のおかげで、前回よりは大事に至りませんでした。 リサも無傷で済みました。 腐蝕の力が精霊魔法の炎に弱いことが分かったのですから、イフリート様と契約されているディックさんでもリサを抑えられると言う事。 少しずつでも対策の幅は広がっていると考えても良いのではないですか」


「いえ……フュエ殿下。 鍛錬不足と言わざる負えませんが、俺ではあのアルバリサ王女の身に纏わりつくようなマナだけを燃やす繊細な炎のコントロールはまだ出来ません。俺がもし暴走するアルバリサ王女と対峙することが有るとすれば、少なからずとも王女に火傷を負わせてしまうと思われます」


「…………」 「…………」 「…………」 「…………」


「フンッ ディックよ。 人が纏うマナを、依り代を傷つけずにマナだけ燃やすなど普通は出来る事ではない、自分の無能さを嘆くことも無いぞ。 事も無さげに難しいことを簡単にやられてしまうから誰も気づかぬが、ディケム様だから可能とする神業よ」


 ⦅ラトゥールの俺自慢が始まった…… 居た堪れない⦆


「それでラトゥール、『ルカ教』と『先祖返り』について何か新しい事は分ったのか?」


「申し訳ありませんディケム様。 もう少しお時間を頂きたく存じます」


「わかった。 それならば追加で『ボーヌ王国』の調査も頼みたい。 俺は今回の事件はボーヌ王国の深層にある闇に原因が有るのではないかと思っている」


「はっ! かしこまりました」


「それではみんな今日の会議はこれでお終いだ。 引き続き調査をお願いする。 それからこれからはより一層アルバリサ王女の身の安全確保を最優先として心がけてほしい。 よろしく頼む」


「「「「はっ!」」」」


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