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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章75 遠い約束

フュエ王女視点になります。

 

 夢の精霊オネイロスの『ネロ』が私のガーディアン・ゴーレムとなり。

 今までソーテルヌ公爵邸本館のみと制限されていた、私の行っても良い場所が広がりました。

 でも…… 残念ながら私が一番行きたい『神木』下のテラスだけは、ディケム様の許可無く入ることは出来ません。

 少しがっかりしましたが…… 確かにあの場所は聖域。

 新参者の私が簡単に入っていい場所ではないでしょう。


「ディケムはケチよね! ねっ! フュエ。 あの神木のそばにこそ行きたいのにね!?」

「まぁまぁネロ。 あの場所はディケム様が大切になさってきた聖域、そんな簡単に入っていい場所では無いのよ。 それに……ネロだけなら精霊だから行っても良いのでしょ?」


「それはそうだけど…… 私はフュエと一緒に行きたいのよ!」

「まぁ! ありがと」


 そんな話をしながら私たちは公爵邸内を散策している。

 私とネロと白猫の『シロ』と一緒に。


 シロはとても不思議。

 ただの白猫に見えるけど……

 夢の中で初めて会って、ネロと一緒に夢の中から出てきてしまった。

 そしてネロと一緒にひと時も私の側から離れない。


 あの夢は…… 私の夢でもあり、ネロの夢でもあり……

 でもネロが封印されていたのは『ヒュプノスクリス』の中。

 シロはネロと一緒に宝剣の中に居たと言う事は、ただの猫のはずがない。

 でもネロもシロを遠ざけようとはしないから、このままで良いのでしょう。

 ディケム様も何も言わないですし。

 魔法学校では『使い魔』が流行っていると聞きます。

 ただの猫かもしれませんが、シロが居ても目立つことは無いでしょう。



 邸内をてくてくと三人?で歩いていると……

 訓練に来ている多くの騎士の皆さんとすれ違います。

 騎士の皆さんが、まったく同じ顔の私が二人居ることに驚き、手で目をこすり二度見してくる様がおかしくて楽しいです。



 私たちが最初に訪れたのは訓練真っ最中の訓練場。

 ディケム様は居ませんが、ララさん、ディックさん、ギーズさんがラトゥール様から教わっている姿が見えます。

 ギーズさんの近くに、教会講習で教わった特別講師のマディラさん。

 その近くにポートさんと、見回りに来てくれたグリュオ伯爵家子息のカミュゼさんも居ます。

 そして冒険酒場『止まり木』のトウニーさんの姿も見えます。

 教会で先生として習っていた方々が、生徒として教わっている姿を見るのも新鮮です。


 あそこに見えるのはラス・カーズ将軍とラローズ様……

 他にも知った顔のそうそうたる顔ぶれの皆さんが訓練に来ています。


 すると……

 『フュエ王女!』と私が見学に来た事を知ったラトゥール様に呼ばれます。


「フュエ王女。 いい機会だ、そのゴーレムに憑依した『オネイロス』の力を見せてくれ」


 ラトゥール様の話は『ネロが加わった事で戦い方が全く変わってくる。 だから訓練しておけ』と言う事みたいです。


 そうでした。 私はいま危険な身の立場!

 新しく加わった戦力ネロとの連携を練習しなくてはなりませんでした。


 ネロが『よかろう』と嬉々として訓練場に向かいます。

 この前と同じ訓練相手として呼ばれたラス・カーズ将軍たちが、私の形をしたネロに驚いています。


 私もシロに『少しここで待っててね』と言って訓練場に向かいます。

 シロは驚くほど私の言う事を聞きます。


 ⦅本当に猫かしら? 猫って気まぐれって聞くけれど……⦆


 訓練場に立つと突然――

 ネロが体の中から私の『セイクリッドスプラウトメイス』を取り出します。


「はぁ? ちょっ……ちょっと! ネロ! どこから武器出したのよ!」

「フュエ、私の『依り代』は砂鋼で出来たゴーレムだ、体のどこにでも収納できる。 しかも私は夢の精霊だぞ、夢とはいわば別の世界! 夢と現世を繋ぐ私は空間魔法が得意なんだよ」


 そんな事を言い出したネロが、体の中からもう一本同じ形のメイスを取り出します。

 武器の形まで同じでは私とネロ、どちらが本物か見分ける事は難しくなる。


「『セイクリッドスリープメイス』! ディケムに頼み急遽作ってもらったのだ! 影武者としての私が今まで何もしていないはずが無いだろう?」


 ラス将軍の前には、私が二人いる。

 明らかに困惑している様子がうかがえる。

 どちらが本物かわからないと言う事は、ゴーレムではなく私を攻撃しなければならないと言う事だからでしょう。


 すると見かねたラトゥール様が叫ぶ!

「ラス将軍! 遠慮はいらん。 本物のフュエ王女は九属性になったオリハルコン装備を身に着けている。 この訓練用のダメージ軽減魔法陣が設置されている場所で、お前の剣が通るとでも思っているのか? 残念だが傷一つ付ける事は出来ないだろう。 それにここにはララもいる、多少傷ついたところで問題ない」


「面白い! ガーディアンの私が居て、フュエに傷を付けられると思っているのか? 触れる事さえ許さぬ! 一瞬で終わらせてやる! さぁ来いッ!!!」


 ネロの挑発に、ラス将軍が鬼の形相で躊躇なく()()襲いかかって来る――!!!


 ⦅ひぃいいいい――――――ィ!⦆


 勝負は一瞬でした。

 セイクリッドスリープメイスに薙ぎ払われたラス将軍たちは、一撃で眠りにつき倒れてしまいました。

 外見は少女の私でも、その力はゴールド・ゴーレムのバカ力。

 そして、凶悪なのがやはり『眠り』の状態異常でした。


「はん! 見たか! 戦闘において『眠り』とは最悪なまでに致命的だ!」




 今日の訓練はここまでとし、またシロを連れて三人?で邸内を散策する。


 ネロはいろいろな場所を『うんうん』と確かめ考え込むように歩いている。

 そして薬草園に差し掛かると……

 今まで私の後を付いて来るだけだったシロが『ニャ―』と異常なまでの興味を示し走り出した。


『ちょっ……ちょっとシロ! 待ってよ!』私もシロを追いかける。


 そしてシロが止まった先には『なぜ公爵邸にこんな大きな畑が?』と口に出してしまうほどの見事な薬草園が広がっていました。


「ん? どこから迷い込んだのこの白猫? ……まぁ、このソーテルヌ邸で普通の迷い猫など有るはずもないか」


 シロが研究所の白衣を着た青年に首をゴロゴロされて可愛がられている。


「あ、あの……すみません。 ごめんなさい! その猫わたしの猫です! お邪魔してしまって申し訳ありません」


「いえいえ邪魔なんて、私は薬師部のフィノと申します…… あれ? もしかしてフュエ王女殿下ではございませんか?」


「は、はい」


「えっ…… でもあちらから歩いて来られるのもフュエ王女殿下……?」

「あ、あれは私のガーディアン・ゴーレムのネロです」


「フュエ殿下そっくりのガーディアン・ゴーレムですか…… なるほど…… まぁココで働いていると、信じられない事ばかりですので、驚きませんよ私は」


「す、すみません……」


「それにしてもフュエ殿下の猫は、この薬草園を気に入ってくれているようですね」


 私がフィノさんとお話ししている最中も、シロは『ニャ―ニャ―』と嬉しそうに薬草園を駆け回っている。

 たまに勢い余って他の白衣を着た人にぶつかっている……


 ⦅これは…… かなり邪魔してしまっているのでは……?⦆


 フィノさんが仕事に戻るのを、手を振って見送ったあと、やっとネロが追い付いて来る。

 相変わらずネロは『うんうん』うなずきながらブツブツ言って歩いている。

 でも今は…… なにか少し嬉しそうに口元に笑みを浮かべている。


「どうしたのネロ? 何か嬉しそうだけど……」


「ん? あぁ…… ディケムの奴は信じられん事をしているなと思ってね。 これならばもしかするとシャンポールが成しえなかった事も……」


「信じられない事ってなに?」


「ん? 分らぬかフュエ? ほら、この畑を見てみろ。 信じられない程のマナで溢れているだろ?」

「ごめんなさい。 まだマナと言われても良く分からないの」


「そうか…… フュエは早くマナについて勉強した方がいい。 この畑一つ見てもこの世界のどこよりもマナに溢れているのよ。 たぶん四隅に置いてある大きな精霊結晶の像で随時マナを満たしているのでしょう」


「そ、そうなの!? この畑凄いのね!」


「――でも! 核心はそこじゃないの、あの神木よ!  神代に生きた記憶をそのまま持つ私でも、これほど精霊が集まっている場所を見たことがない。 精霊と神木は相関関係、本来なら途方もない時間をかけ育つ神木も、ここではイグドラシルへと格を上げるのもそう遠い話では無いでしょう。 そして神木が力をつければつけるほど……精霊たちもどんどん力を増していく。 少し見て回っただけでこの場所が聖域と呼ばれる意味を知る事が出来たわ。 ホント…… バカみたいなマナの好循環を作り出している。 この環境下なら誰だって勝手に力を増してゆくわ」


「そ、そうなんだ……」


「ここの薬草がこれ程マナを内包して元気なのは、豊富なマナとバカみたいに活性化したドライアドがいるからよ。 神代でもこれほど力を持ったドライアドを私は見たことが無いわ。 それはディケムという一人の主を中心にマナで繋がった神木と精霊達が相乗効果で力が増しているからよ。 神木が育って行く過程をこの仕組みに組み込むとか…… なんて恐ろしいシステムを作ったのかしら。 現に私もディケムと契約して、かなり格が上がって強くなったわ」


「ふ~ん……」

「コラ、フュエ! なんだその気のない反応は!」

「だって~、話が難しくて私にはまだちょっと……」

「まぁ…… 確かにフュエにはまだ早いかもしれないわね」

「ごめんなさい」


「だけどフュエ、これだけは覚えておきなさい。 今まであなたは精霊が舞う表面の美しさだけを見て、ディケムに憧れていたのでしょうけど…… これ以上先に進みたいと思うのなら、その美しい表面の下にどれほど恐ろしい真実があるのか、彼が何を為そうとしているのかを何時か知らなければならないわ」


「恐しいだなんて…… ネロあまり脅かさないでよ!」


「…………。 まぁ今は良いわ。 フュエもそのうち分かるわよ。 これだけの事をする意味と、彼がここまで来るまでにどれほどの事をしてきたのかを…… こんな事一人の人間の人生で成す事は不可能、その事の意味をあなたはいつか知るでしょう」



 今の私には、ネロの言いたいことは良く分からなかったけど……

 ネロが王祖シャンポール様と交わした約束は二つあると言う。

 一つはシャンポールの血を受け継ぐ子孫を守る事。

 そしてもう一つは……

 ネロもディケム様もまだ教えてくれない。


 その『もう一つの約束』を私が教えてもらえたとき、私はディケム様の身内として認められるのかもしれない。



 神木を見上げているネロの隣で、私も神木を見上げる。

 ネロは少し涙ぐんでいるように見える。

 ネロは神木の先にあるマナに帰った王祖シャンポール様を思っているのかもしれない。


 神木を見上げていると……

 遊び疲れて帰ってきたシロが、私の足に頭をこすりつけて来る。


「フュエ、そろそろ部屋に帰りましょうか」


『うん』とネロの言葉にうなずいて、三人でまた歩き出す。



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