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第一章35 アルザスの奇蹟


 ⦅ふぅ—— いろいろヤバかった……… 辛うじてカヴァ将軍を倒した⦆


 奥義、金翅鳥王剣(きんしちょうおうけん)により、カヴァ将軍は粉々に砕け散り、さらに念のため固有結界内でイフリートがマグマを超超高熱に温度を上げ、破片も残さず燃やし尽くした。

 奥義の威力が凄過ぎて、せっかく貰った護身用の剣の刀身も消滅していた………


 残りの魔族兵もイフリートの圧倒的な火力であらかた片付いた。

 結論だけ見ると人族軍の圧勝………

 だけれどもこの戦いはそんな簡単な戦場ではなかった。


 人族軍の戦死者、ケガ人も多く、全滅寸前まで追い込まれた戦いに精神的にも追い込まれた兵士が多かった。




「もう何も力残っていません………」

 俺は精魂力尽き、水竜から落ちたところをラス将軍が受け止めてくれた。


「たすかりました……… ありがとうございます」

「いや助かったのはこちらだろう…… ディケム君ありがとう、ほんとうに助かった」


 お互いに笑い合い、固く手を握っていると――

 ラローズさん、ラモットさんをはじめ、一緒に訓練をした見知った騎士団の人たちが押し寄せた。

 さらに王国騎士団の他部隊の人たちも集まり――。

 歓喜の声に包まれた!



 だがしかし―――!


 俺たちが一番恐れていた音が聞こえる。

 何千の馬が崖を駆け下りてくる地響き――。

 その音は、俺たちを死へと誘う鎮魂歌のように………


 このタイミングで悪夢が起きた………。 

 いやこのタイミングだからこそ動いたのだろう。

 崖上の魔神軍が一斉に雪崩れ込んできたのだ!


 これで終わる……… 戦場の王国軍全員が覚悟した。


「さすが魔神軍だな。 このタイミングで攻められたら、我々に為す術が無い……」

「ですね……」


 地響きのような軍馬の足音が止まる。

 そして魔神軍の総大将が叫ぶ!


「我は魔神軍 ボー・カステル皇帝配下 ラトゥール将軍だ――!」


 ラス・カーズ将軍が返す!

「我は人族軍 シャンポール王国騎士団 ラス・カーズ将軍だ!」


 お互いに名乗り合った後は、腹の探り合いだ………

 だが正直我々人族軍は、戦いになれば全滅を免れない。

 ラス・カーズ将軍の手腕に、皆の命が託されている。


「ラトゥール将軍、魔族軍への援軍としては、タイミングが遅いのではないか?」

 人族軍全員が息をのむ………


「いや、ラス・カーズ将軍、我々は戦いに来たのではない」

「なに?」

 人族軍全員が目を見張る! 戦い以外の道が有るのかもしれないという期待が膨らむ。


「その少年と、話をさせてほしい」


 ⦅ッ———え!!⦆

「俺ですか?」


 ラトゥール将軍は頷き、俺をじっと見ている。

「お名前をお聞かせください………」

「ディケムと言います」


「年齢は?」

「10歳になります………」


「やはり! ラフィット様―――!!」

 ラトゥール将軍が俺の前に片膝をつき、頭を下げる。


「いえ…… あの、俺は…… ディケムです」

「あなたは、ラフィット様の生まれ変わり! 金翅鳥王剣(きんしちょうおうけん)は剣鬼ラフィット様の奥儀です」

「―――えっ、でも………」


 あの【大いなるマナ】の中で見た記憶、多分おれの前世は魔神ラフィットだろう。

 でも…… だからってこの状況、どうするのが正解だ?

 間違ったら、人族全滅だよね??


「ラフィット様、これを! ラフィット様の愛刀【鬼丸国綱(おにまるくにつな)】です!」


 ラトゥール将軍は傅いたまま、見事な刀を差しだしてくる。


 そしてなぜか俺の手が、自然にその刀をつかんだ、以前から使い慣れた刀を握るように、その刀は吸い込まれるように俺の手に収まる……


 いや、刀だけではない…… このラトゥール将軍が差し出した鬼丸国綱(おにまるくにつな)を受け取る所作全て、何百何千と繰り返したのだろう……… 俺の体の記憶に染みついている。


 その所作を見て、ラトゥール将軍が涙ぐむ………


「この鬼丸国綱は妖刀、魔人族の国宝の一つですが、いままでラフィット様以外を主と認めたことが有りません!」


「………………」


「ラフィット様! ………ずっと…ずっとあなたを探していました………」


 ラトゥール将軍という最強の魔神の一人が、目の前で小さい娘のように泣いている。

 それは、なぜかとても美しく………

 俺は、この人が前世で俺のとても大事な人だったのだと…… 必然と理解した。




 今回のアルザス渓谷の戦いは、人族の勝利で終わった。

 二年前の雪辱を果たした形になる。

 両軍共に被害は大きかったが、魔族軍は六将の一人カヴァ将軍と援軍を含め一万以上の兵を失った。


 魔神軍は何もせず引き上げていったが…… ラトゥール将軍が一人だけ、人族軍に残りディケムの傍に居ると駄々をこねた。

 だけど、まだいろいろあり過ぎて、心の整理が出来ない事と、まだ一〇歳の子供の近くに魔神軍の将軍が居ても悪目立ちするので、一度お引き取り願うことにした。


 鬼丸国綱(おにまるくにつな)もさすがに魔神族の国宝とか凄すぎて分不相応なので『返します』と言ったが、魔神族の皇帝ボー・カステル様から、必ず俺に渡すように言われているからと……

 そして奥儀:金翅鳥王剣(きんしちょうおうけん)は炎をまとわせ全力で撃つ場合には、この刀鬼丸国綱(おにまるくにつな)以上のマナ内包量がなければ耐えられないそうだ………。


 さらには、鬼丸国綱(おにまるくにつな)自体が離れたくないとばかりに、俺から離れると拒否するように、渡された人のマナを吸い上げ、駄々をこねる……

 結局ありがたく貰うことにした。

 タダより高い物はない……ような気がする ……コワイ


 そしていつでもラトゥールさんと連絡が取れるように、通信用の魔術具を渡された。

 マナを大量に消費するが、俺ならば大丈夫、人族の通信魔術具は複数人の魔術師が必要になるので、この通信機は人族の物よりも高性能だ、さすが大国だ。


「ラフィット様…… いえディケム様、この度は一度引きますが、なにか有りましたら、すぐにご連絡ください! 私は魔神族を捨て直ぐにお側に駆けつけますから!」


「あ…ありがとう。 その時はお願いします」


 後ほどラローズさんから、ラトゥール将軍はラフィット将軍のフィアンセだった事を聞かされた。

 ま~そうなのだろうと思った。

 ラトゥールさんは、人族とか生まれ変わりとか、関係ないのかな?



 そして、ウンディーネが少しうるさかった……


「ディケムよ!トカゲを昇格させるとか、どういう事じゃ! これではもうトカゲと呼べぬではないか!」


「ウンディーネ、お前は少し性格を治すといいぞ! 同じ主を頂いたのだから同僚が強くなった方が良いであろう? あるじが倒れれば、ワシもオヌシも消滅するのだからな!」


「それはそうなのじゃが…… トカゲが良かったのじゃ! トカゲが……」

 ウンディーネの威厳が壊れていく……




 そしてこの日から、アルザス渓谷は、

『アルザスの悲劇』から『アルザスの奇跡』と呼ばれるようになり……


 不本意ながら俺はその日から、

『アルザスの奇跡ディケム』とか、呼ばれるようになった。



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