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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章72 夢の精霊オネイロス

 

 夜も遅い時間、俺はマナの異常な高まりに目を覚ます。


 すると……

 廊下から少女の話声が聞こえてくる。


 ⦅こんな時間に…… 廊下に誰か居るのか?⦆


 俺はこっそりと少しだけ扉を開け、廊下の様子を伺う。

 すると廊下に縫いぐるみと遊ぶ少女の影だけが見える。


 ⦅この時間にフュエ王女が縫いぐるみと遊んでいるのか?⦆


 『ッ――!!』


 俺の気配に気付いたのか少女の影は、別の部屋へと逃げ込む。

 俺もその後を追い、扉に耳を寄せ部屋の中から聞こえる声に聴き耳を立てる。


『あは、あははははは』

 少女の笑い声が聞こえる。


 すると次に……

『えーん、えーん。 お母さーん』

 少女の泣く声が聞こえて来る。


『フュエは僕たちの…… 私達のお友達………』

『フュエはずっとここに居ればいいよ!』

『お父さ――ん! お母さ――ん!』


 ⦅ッ――! やはりフュエ王女か!?⦆


 俺はすぐに部屋の中に飛び込む!

 しかし……

 部屋の中には誰もいない、そしてさらに奥に扉がある。


『あは、あははははは』

『えーん、えーん。 お母さーん』


 扉の向こうから、また少女の笑い声と泣き声が聞こえる。


 俺はさらに扉を開き次の部屋へと入る。

 しかし誰もいない! そして先に扉があるだけだ……

 扉の向こうからまた少女の声だけが聞こえて来る。


 ⦅ここはどうなっている!? 泣いているのは誰だ?⦆


 そして俺はおもむろに自分の手のひらを見る……

 掌には何もない。

 だが、自分がどうして掌を見たのかわからない。


 気を取り直して俺はまた扉を開ける、するとまた扉の向こうに扉―― さらに開けても扉。

 次々に扉を開けても、扉がある部屋があるだけ……

 そして扉の向こうからは、変わらず少女の笑い声と泣き声だけが聞こえてくる。


 ⦅クソッ…… 厄介な!!!⦆


 ―――すると突然!

 俺は後ろから腕をつかまれる!


 ⦅ッ――! この手の感触。 俺は知っている!⦆


 俺はとっさに腕を振り払うように後ずさり、後ろを振り返ると――

 そこには顔を黒く塗りつぶした少女が立っている。

 そしてその後ろには、楽器を持った縫いぐるみの軍楽隊が並んでいる。


 俺は……

 シンバル担当のクマの縫いぐるみ。

 バトンを振る少女を先頭に縫いぐるみの軍楽隊がマーチを奏でる。

 俺はその最後尾で一緒に行進している。


『マーチったらチッタカタァ〜行進だ〜』

『マーチったらチッタカタァ〜行進だ〜』

『カワリ バンコ』

『カワリ バンコ』

『私を運んでチッタカタッタッタァ〜』


 ⦅そろそろ俺のシンバルのパートじゃないのか?⦆

 ⦅でも俺は楽器など演奏した事がないぞ⦆

 ⦅ヤバイ…… このままだと演奏が台無しに――……⦆


 するとまた俺は突然おもむろに自分の手のひらを見る……

 だがやはり掌には何もない。

 なぜ俺は掌を見る? 手には何も持っていないじゃないか……


 いや……  ッ―――違う!!!


 手に何も持っていないんじゃ無い!

 掌に何も書いて無いことがおかしいのだ。

 俺の手には寝る前にフュエ王女が描いた『ネコの絵』があるはず。


 そうか思い出した―――!

 俺はくまの縫いぐるみじゃない!

 これは現実じゃない夢の中だ!!!



 先頭にいる少女が俺に振り向く。

『あら? 気づいてしまったの? 気づかなければずっと楽しくいられたのに……』


 さっきまで仲間だった縫いぐるみ達が一斉に俺を見る。

 そしてぐんぐんと大きくなり俺を囲む。


『さ~ぁ、ど~する~? そんな体じゃ何もできないでしょ?』


 俺の体はクマの縫いぐるみ。

 こんな体じゃ武器も持てない。

 口も開かないから、魔法の呪文も唱えられない。


 困惑する俺を見て少女が『フフフ』と笑っている。


 ――だが! これは夢だ!!!

 夢ならば……

 夢の中で夢と気づく事が出来れば、何でも自由に出来るはず!


『ウンディーネ!』

 俺は開かないはずの口を動かすと、その呼びかけにウンディーネが顕現する!


『やっと気づいたか馬鹿者! まったく待たせおって!』

『あぁ、ゴメン待たせた』


 気づけば俺は元の体に戻っている。

 そして女の子はいつの間にか居なくなり……

 俺の前には動かなくなった縫いぐるみだけが転がっている。


「さあディケムよ、フュエの夢に干渉している『夢魔』を倒しに行くぞ!」

「あぁ!」



 目の前の扉を開くと、次の部屋にはすべての壁に扉がある。

 この部屋が今まで通りにいくつも続いているとしたら……

 『夢魔』の居る場所にたどり着く事は難しいだろう。


 だが俺はフュエ王女のマナを探す。

『見つけたッ―――!』

 俺はフュエ王女のマナを辿り次々と扉を開けていく。


 ―――そして!

 一つの大部屋にたどり着く。


 部屋には二つの椅子が向き合って置いてある。

 その二つの椅子に同じ服を着た二人の少女が座っている。

 一つの椅子には顔が塗りつぶされている少女が座っている。

 その足元には、真っ白なネコが従者のようにちょこんと座っている。


 そして向き合うもう一つの椅子には……

 小さいがフュエ王女そっくりの少女の人形が座っている。


「フュエ殿下ッ―――!!!」


 俺はとっさにその人形に向かって叫んだが、反応はない。

 だが、ウンディーネがもう片方の少女を見て『これは………』と目を見張っている。


「どうしたウンディーネ!?」


「ディケムよ! あやつは……『夢魔』なんてそんな生易しい低級ではなさそうだぞ…… まさかお前は――― 【オネイロス】!」


「フフ……そうよ、久しぶりねウンディーネ。 あなたはやっと主を見つけたのね」


「夢の支配者……夢の上位精霊オネイロス。 な、なぜ……お前がここに居るのじゃ!?」


「ヒュプノスクリスは眠りの短剣だもの。 そこに夢の精霊の私が宿っていたとしても不思議ではないでしょ?」


「なるほど…… じゃが、なぜお前がその娘にちょっかい出すのかよく解らんのじゃ」


「アハ、お前の主がその娘に過ぎたる力を与えたからよ」


「八属性装備の事か……」


「その力がその娘の王家の血『四元素の大精霊』を使役した王祖シャンボールの血を増幅させ、ヒュプノスクリスの()()に干渉し私を目覚めさせた」


 ウンディーネとオネイロスのやり取りを聞き俺は呟く。

「なるほど…… それで目覚めたお前が悪戯をしていたと言う事か。 それにしてはあまり趣味の良い夢じゃないな」


「フフフ。 勘違いしないで、坊や。 あの人形たちはその子の夢。家族が欲しいと言うその子の願いそのものよ。 その子は明るく振舞っているけれどね…… 誰からも愛されず疎まれ続けた事で愛情に飢え、心を病んでしまっているわ」


『フュエ王女が愛情に飢えているだと?』

 俺の呟きに、少女の人形と化したフュエ王女がビクッと震え下を向く。


「お前はその子の【胆力】を買っているのだろう? だけどそれは、胆力と言うにはあまりに酷いその子が死にたがった事で身についてしまった事。 誰にも愛されなかったその子は自分の出生を呪い、愛されない自分を呪い、何度も死のうとした。 人よりただ、死ぬことへの恐怖を持っていなかっただけだよ」


「そんな…… まさかフュエ王女がそんなはずは……」


「坊や、人にはみな秘め事が有るものよ。フフフ…… 人の願い、夢を実現させるのが私の力よ!  そぅ目覚めた私はその子を通してお前に干渉した。 そしてお前は私の狙い通りよせばいいのにさらにその娘を守る為に力を与えた。 そしてその力にその娘も順応し、さらには『ヒュプノスクリス』にまで認められた……… いや、その装備のせいでヒュプノスクリスがその娘を認めたのでしょう。 おかげで私は完全に目覚め、そして『ヒュプノスクリス』も眠りから覚めたわ!」


「ん? 目覚めた? そう言えばお前は…… 『ヒュプノスクリスの()()』とか言っていたな? ……と言う事は、お前は――」


「そうじゃの。 そう言う事じゃろうな」


「へ? あ……いや…… べべべ、べつに私は……」


「平たく言えば、お前はヒュプノスクリスに閉じ込められていたと…… 助け出して欲しいと言う事だろ?」


「うぅ…………」


「図星か! だが、お前ほどの力が有れば短剣から出る事も容易いじゃろぅ?」


 ウンディーネの問いに、オネイロスが隣に座る『白猫』を見る。

 ⦅あの白猫は…… 前に見た悪夢で俺を助けてくれた猫?⦆


「お、おまえ…… まさかその猫が怖いとか言うのではないだろうな?」

「………………」

「な、なんという………」


 すると突然、オネイロスの隣に座る白猫が、トコトコとフュエ王女の人形の側に歩いて行く。

 そして……

 フュエ王女の足に頭をこすりつけて、腹を見せゴロゴロする。


「なっ………!」

 オネイロスが目を見張っている。


「これで、お前は自由なのではないのか?」

「いや、ダメだ! まだ出られないみたいだ」


「ならどうすると?」

「多分だが、お前と戦いお前が勝って、私がお前の力を認めて、契約すれば出られるだろう」


「いや…… 戦わなくてもいいだろう? 普通に契約すれば」

「それは私の心情が許さない。 私が欲しかったら、その力を示せ!」


「いや…… 夢でしょ? それほど欲しいとは………」

「おまえっ! ゆ、夢だぞ! 夢が自由になれば、あんな事もこんな事も出来るのだぞ!」

「うぅん…… ちょっと良くわからない」


「…………。 えええぇ―――い! もぅどうでも良い! とにかく戦え!!!」



 結局俺は『夢の精霊オネイロス』と戦うしかなくなった。




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