第六章68 ゴーレムとお出かけ 『帰還』
ボーデンドラーゴ討伐を成し『竜殺し』の二つ名を得たレクラン一行は、荷台をゴーレムに引かせ意気揚々と王都へと帰還した。
討伐したドラゴンを運べば、当たり前だが人々が集まってくる。
「おい見ろよ! レクランとうとう『竜殺し』まで達成したぞ!」
「本当だ! しかもあの獲物は地竜のボーデンドラーゴじゃないか! スゲ~」
「マジか! でもまぁSクラスのゴーレム討伐したんだ、『竜殺し』だって達成できるだろう」
「おいあれ! 荷台引いてるの…… その噂のゴーレムじゃないか!? いったいどうやって?」
何台もの連なる荷台をゴーレムが引いていればさらに注目を集めるのは当然だろう。
次々に集まってくる野次馬の群衆を引き連れて冒険者ギルドに到着する。
俺たちはゴーレムに荷台の見張りを任せ、クエストの報告をするためにギルドに入る。
ギルド受付嬢にボーデンドラーゴの角と肉を見せて、念のため外の荷台も見せる。
今回のAランククエストは『ボーデンドラーゴの肉調達』だ。
『肉の調達』だけでもその入手の難易度で、もし買って来ただけでもAランクなのだが……
それをAランクの魔物ボーデンドラーゴを討伐して調達してきたとなれば話はさらに変わる。
『Aランクの肉の調達クエ達成』
『Aランクの魔物討伐達成』
この二つがギルドに達成記録として登録されるからだ。
「え……Aランククエスト【ボーデンドラーゴの肉調達】クエスト達成と、Aランク難易度【ボーデンドラーゴの討伐】を確かに確認いたしました。 おめでとうございます」
ギルド受付嬢の言葉にギルドの冒険者達が沸く!
シャンポール王国登録冒険者の最高峰、『牙隊』ですらBクラスなのだ。
Aランク難易度の討伐が達成されることはなかなか有る事ではない。
それがさらに特殊な狩り方法が要求される『ボーデンドラーゴの討伐』となればなおさらだろう。
すると俺達の帰りを心配でずっと待っていたのか、依頼主の少女が奥の席から泣きながら走って来る。
依頼したクエストは非常に難しいと言われていたのだろう、弟の病気を治せるのか心配で仕方なかったようだ。
その様子を見てリーラが依頼主の少女に一キロの肉と肝臓部位を渡す。
「この肝臓を焼いて食わせりゃ弟は直ぐ治るはずよ。 そのあとは二人で肉でも食って精つけな! ボーデン病は栄養不良が原因で起こる事が多いいから」
「あ、あの…… でも肝臓部位なんて貴重なもの、私そんなお金………」
「この肉は今日の討伐の私の取り分だ。 私がどう使おうが良いだろ? それをお前にくれてやるって言っているんだ」
「えっ…… でも……」
「だからもう自分を売るとかやめろ。 もしまた困った事があれば、またこのレクランのリーラを頼りな。 ほら女だって私みたいに冒険者になって自立出来るんだ」
「………………」
「ほら早く弟のところに行ってやりな! 弱っているのに一人で待ってるのは心細いだろ」
依頼主の少女が泣きながら、大切にボーデンドラーゴの肉を腕の中に抱えこみ、リーラに何度も何度も深く頭を下げて走っていく。
満足げに見送るリーラの後ろ姿を俺たちは皆でニヤニヤして見ていると……
「な、なによ?」
「いや、リーラって結構いい奴なんだなって」
「う、うるさいから! しかも『結構』って何よ!!!」
そんなリーラをギルベルトだけは『俺は知っていたよ』と満足げに頷いている。
そしてそんなギルベルトを『キモイ!!!』とリーラがペシペシ叩いている。
照れるリーラを皆で褒めていると……
「おぉおおおおお―――お前達!!! あれボーデンドラーゴじゃ無いか!? あれお前達が討伐したのか? 頼む! あれ俺にも食わせてくれ」
すごい勢いでダーヴィッヒがギルドに入ってくる。
「はぁ!? なんでダーヴィッヒさんにまで食べさせなきゃいけないのよ。 嫌ですよ」
「そ、そんなこと言わずに~ なぁ頼むよ! 俺も一度でいいから『死ぬまでに一度は食べろ!』とか『食ったら飛ぶぞ!』とか謳われるボーデンドラーゴの肉、食べてみたかったんだよ。 なっ!? 頼むよ、なっ!?」
「イ~ヤ~で~すっ!!! ダーヴィッヒさんなら自分で獲ればいいでしょ!?」
「そんなのもちろんやってみたさ! だがとても倒せる気がしなかった。 『牙隊』で共闘した事も有ったが駄目だったんだ。 だからなぁ、頼むよ~」
可哀想に、ダーヴィッヒは入ってくるタイミングが悪すぎたようだ。
ちょうど皆にいじられていたリーラの照れ隠しの道具にされているようだ。
取り敢えず俺たちはギルドに『A級クエスト達成』の登録と『Aランクモンスターの討伐』登録を済ませギルドを後にする。
そして装備屋のドサージュの店に、加工に使えそうな素材ボーデンドラーゴの甲羅、爪、牙、鱗、棘などを保管してもらい、ポートの酒場「止まり木」に肉を持ち込む。
「ポート! ボーデンドラーゴの肉だ。 人数分焼いて後は保管しておいてくれ!」
アマンダの『ボーデンドラーゴ』の肉の言葉に酒場が騒然とする。
その肉は上級貴族でも一生に何度か食べられるかどうかのレア食材。
もちろん中級貴族のミゲルも食べたとこはない。
多分若いフュエ王女もディケムも食べた事が無いほどのレア食材だ。
この二人に関しては、それほど食に貪欲ではない分、今まで食べた肉が何なのか詳しくは覚えていないだけかもしれないが……
そんな肉が持ち込まれれば、皆騒然となるのは当然だろう。
ダーヴィッヒは未だにリーラに頼み込んでいる。
正直、ボーデンドラーゴの巨体から取れる肉は凄い量だ。
今日くらい全員に振る舞っても良いのではないかと俺は思う。
すると今回討伐の立役者のフュエ王女がそんな顔でアマンダを見る……
その顔を見たアマンダは『う~ん…… もぅ仕方ないか!』とあきらめた顔をする。
「フュエが良いと言うなら……仕方ないねぇ〜 今日だけは皆に奢ってやるよ。 ボーデンドラーゴ肉のパーティーだ! みんなフュエに感謝して食いな――!」
「おぉぉおおおおお――― フュエ様万歳!」
「レックラン万歳―――!」
「アマンダ最高―――!」
その日の酒場は大いに盛り上がりだった。