第六章67 ゴーレムとお出かけ 『討伐クエスト』
【ボーデンドラーゴ討伐】のクエストを請け負った俺達は、ボーデンドラーゴが生息するエリアに向かう。
生息域はアルザス平原の北、【竜の狩場】と呼ばれる危険地帯、シューティングスターと呼ばれるSSクラスのエンシェントドラゴンがエサを狩る狩場の入り口らしい。
一日借り切った馬車二台に乗り俺達は移動する。
その馬車の後ろをゴーレムが走る…… とてもシュールな光景だ。
そしてそのゴーレムが何台を連結させた荷車を引いている。
今日の狩は少し遠い場所と言うこと。
決め打ちで獲物を狙いに行くこと。
獲物が大きい為、荷台が数台必要になることから、あらかじめ用意したものだ。
これで狩れなかったときは恥ずかしい限りだろう。
だがこの光景を見れば、ボーデンドラーゴ狩りは普通の冒険者には難しいことが分かる。
運ぶだけでも軍などの大人数で行かなければ無理そうだ。
ようやくボーデンドラーゴの生息域に到着すると……
その壮大な光景にみな息を呑みしばらく立ち尽くした。
そこは見渡す限り果てしなく続く平原に、一〇メートルほどの体高を高くした亀のような地竜が数え切れないほど歩いている。
その歩みは巨体なだけにゆっくりと見えるが、横に並べば必死に走ってもおいていかれる速さだろう。
「なるほど、これは討伐が簡単そうに見えるけど、結構厄介だな」
「そう、ボーデンドラーゴはほぼ無抵抗と言ってもいいけど、挑んだ者はその歩みと質量に踏みつぶされよく死人が出るほどよ。 さらには定期的にシューティングスターが、ボーデンドラーゴを狩に来る事もこの狩りの難しさなの」
そんな話をしていると遠くからドラゴンの鳴く声が聞こえてきる。
「ほら! 噂をすればだ、皆あそこの『防御陣地』に隠れて!」
俺たちは急いで人工的な隠れ穴(防御陣地)に隠れる。
俺たちが隠れた穴は、代々貴族が軍を使いボーデンドラーゴを狩る為に作った物らしい。
「今回は本当に運がいい。 シューティングスターは週に二回ほどボーデンドラーゴを狩りに来る。 それを避けながら討伐しなければならないのだけれど…… もし討伐の途中でシューティングスターに出くわしてしまえば全滅は免れない。 今回は今シューティングスターの狩りが終われば、しばらく奴がここに来る事はない」
『防御陣地』に隠れて見ている俺たちの前に、威風堂々と真っ白な羽毛に包まれた竜が舞い降りる。
⦅あれは…… やはり月龍ククルカン⦆
【月龍】なのに人々から『流星』(シューティングスター)と称されるエンシェントドラゴン。
四つの羽根を持ち、真白の羽毛に包まれ輝くその体が天から降りてくる様が降り注ぐ流れ星に見えたのかもしれない。
俺はその姿を見てつい『美しい……』と言葉が漏れてしまう。
「あのドラゴンを初めて見て、美しいと言ったのはアンタぐらいだよ」
皆が『エンシェントドラゴン』という圧倒的強者の存在に畏怖し震えている。
俺はファフニールと一緒にいる分皆よりも免疫ができているようだ。
息を殺してシューティングスターが去るのをじっと待つ。
ボーデンドラーゴを一匹鷲掴みにしたシューティングスターは――
『グァァァァァァァァァァァオオオオ―――!!!』
と咆哮を上げて一気に上空に飛び立ち去っていった。
「さぁ! 私たちも行くよ!」
「おぉぉぉぉ―――!!!」
『防御陣地』から一気に飛び出した俺たちは一番近くのボーデンドラーゴに向かって走り出す。
我先にと勢いよく走り出したはいいが、ボーデンドラーゴがでかいだけに距離感を失っていたらしい。 全力で走っても全然追いつく気配がない。
「こ、こんなにボーデンドラーゴって速いの? 普通に追いつけないんですけど」
結局俺達は少し遠いがこちらに向かってくる個体に目標を変える。
そしてやっとの事で辿り着いたボーデンドラーゴに俺たちは挑む!
俺たちが一体のボーデンドラーゴに挑んでも他の個体が気にした様子は一切無い。
「本当に種族間で仲間に危険を知らせるとか、皆で守るとか無いんだな」
「だから言ったでしょ? ボーデンドラーゴは襲ってこないって」
別の個体は同種が見えていないのか、気にもしていないかのように草を食べ続けている。
手始めに腕試しとして、アマンダ達上級冒険者達がゴーレムを使わず仕掛けてみる!
だが………
すでに皆理解しているが、歩き出した巨大なボーデンドラーゴは人と比べると一歩の歩幅が大きい、その動きの遅さに惑わされるが反比例して移動する距離が早い。
ただでさえ速く動いている相手に斬撃の威力を一〇〇%伝えることは難しい、そしてそれが固くて質量がバカデカいとなれば尚更だ。
暫く腕試しと頑張っていたアマンダ達もいい加減諦める。
「フュエ! 頼む」
「はいっ!」
フュエ王女の指示でゴーレムが動き出す。
あの大きなゴーレムも一〇メートルものボーデンドラーゴと比べると小さく見える。
しかし――!
ドゴッ―――――――――ン!!!!
さすがはSランク越えのガーディアン・ゴーレム。
三倍近い大きさのボーデンドラーゴをの動きを真正面から組み合い止めて見せた!
「よし! みんな行け――――――!!!」
止まってしまったボーデンドラーゴは巨大な的に等しい。
避けられる心配がない今、皆が力いっぱいのフルスイングで攻撃する。
アマンダ、リーラ、アメリーは、奥義『次元斬』を放つ!
『次元斬』はAクラス以上の英雄が使う技、十分ボーデンドラーゴに通用する技だ。
動きを止められたボーデンドラーゴはなにも出来ない。
さらに石のように堅い皮膚を通す『次元斬』のような大技があれば、お買い得な『竜』と言うのも納得できる。
まぁ…… 普通は動きを止めるだけで死人が何人も出そうだが。
必勝パターンに持ち込んだレクランだったが……
それでも討伐完了するまでに一時間ほども時間を必要とした。
俺は一応『シューティングスター』が来る事を警戒し、見張りを頼まれていたので一切手を出していない。
そう、彼女達だけでAクラスの魔物を倒すことに成功したと言う事だ。
ボーデンドラーゴ討伐は冒険者としての一つの夢なのだという。
その『美味たる肉』と『Aクラス級』と言う難易度。
そして冒険者なら誰でも憧れる竜を討伐したと言う『竜殺し』の二つ名。
パーティーでこれを討伐出来ることは格として別格のパーティーだと言う証明となる。
『竜殺し』を達成したアマンダ達が、意気揚々とボーデンドラーゴを解体し荷台に積み込んでいく。
その彼女たちの顔からは笑顔がこぼれ、自信に満ち溢れていた。