第六章66 ゴーレムとお出かけ 『冒険者ギルド』
フュエ王女のガーディアン・ゴーレムを作った翌日。
『レクラン』メンバーとクエストに出かけるためにギルドに向かう。
昨日のフュエ王女は結局、あれからあまり進歩しなかった。
まぁ正直、そんな簡単に出来るようになるとは思っていない。
それにゴーレムの動きにすぐ対応できるほどの強敵と対峙する事も、そうは無いだろう。
ゆっくり覚えて行けばいい。
街中を…… 俺、フュエ王女、そしてその後ろを四メートルほどのゴーレムが歩いている。
ガーディアン・ゴーレムはとにかくゴツイ! 目立つ!
街中の人々が驚いて見ている。
一般の人々はまだ驚くだけで良いのだが…… たまにゴーレムを見て逃げ出す人がいる。
逃げ出す人は、たいてい【モントリューダンジョン】でゴーレムに挑みひどい目にあった冒険者だ。
それでもこんなデカいゴーレムを従えて歩いても、大騒ぎにならないのはこのシャンポール王都が今は平穏で人々に余裕が有るからなのだろう。
本当の事を言えばフュエ王女のゴーレムは形を固定してはいない。
だから王女のイメージ通りの形にすることも出来るのだが……
まだ王女にはゴーレムの質『金属の種類』『金属の含有量』『金属と土の密度』を安定させたり。
『連携して動いたり』と、形を変えるより先に覚えなければいけない事が多いい。
連れて歩く恥ずかしさ以外はこのゴツイ形のデメリットは無いから、しばらくゴーレムはこの形のままとしておく。
ギルドの近くまで歩いてくると……
徐々に近づいてくるゴーレムを見て、ギルド前が大騒ぎになっている。
そしてギルド本部の建物から武装した冒険者達が飛び出てくる。
先頭に居るのは『民衆の守り手』黒の牙のダーヴィヒだ。
「と、止まれ! ディケムこれはどうなっている!? なぜ【モントリューダンジョン】のゴールド・ゴーレムがここに居る?」
「落ち着いてくれダーヴィヒ。 このゴーレムはフュエの従属下にあるから心配ない」
「なんだと! だが…… どうやってそんなことが出来る?」
「先日のゴールド・ゴーレム討伐で、フュエがゴーレムの『核』を手に入れた。 それを元に作ったゴーレムだ、心配ない」
『所有者の変更』の事など細かい事は面倒なので話さない。
意味も分からないだろうし、それを出来る事を知られるのも面倒だ。
『ほ、本当に大丈夫なのか?』とダーヴィヒ達が恐る恐るゴーレムをペタペタと触っている。
「昨日シャルマ達も触っている。 問題ない」
ダーヴィヒ達が落ち着きを取り戻したところで、とりあえずゴーレムは大きすぎてギルドに入らないので外で待たせておく。
外から『ひっ!』とか『うわっ!』とか聞こえてくるが気にしない。
ゴーレムの騒ぎが一通り落ち着いたので、俺とフュエ王女もギルドの掲示板前のメンバーと合流する。
『ねぇディケム…… あの外のゴーレム本当に大丈夫なの?』とアマンダとリーラも少し心配していたけど、シャルマとフローラが『大丈夫!』とお墨付きを出していた。
『それなら!』とクエスト掲示板を見ているアマンダが目を輝かせて一つのクエスト依頼書を手に取る。
「ねぇみんな! この依頼やってみないか!?」
そう言ってアマンダが選んだ依頼書は【ボーデンドラーゴの肉調達】と書かれてある。
「ボーデンドラーゴってなに?」
「Aランクの『地竜』だよ」
「ち、地竜!? そんな簡単そうに言うけど、竜の討伐とか無理でしょ!」
「普通の『竜種』ならそうなんだけど…… ボーデンドラーゴは頭があまり良くないんだ。 いくら斬りつけても死ぬまで襲ってこないんだよ」
『へ?』と、さらにシャルマ達の頭に『????』が浮かぶ。
「そう、襲ってはこないから強さをクラスで表現するのが難しいんだけど…… ボーデンドラーゴはその大きさ、硬さ、怪力、重さで歩く大きな岩山と称されるの。 ようは襲っては来ないけど、一〇メートルくらいの歩く大きな岩山を剣で斬り倒さないとならない難しさがあるから、Aクラスとされているのよ」
「ほほぉ~ 歩く大きな岩山を剣で斬るとか…… そうするとやっぱりお買い得って訳じゃなさそうじゃ無い?」
「そう! 普通ならそうなんだけど、あのゴーレムが居ればボーデンドラーゴの動きを止められるんじゃないかと思うんだ。 ボーデンドラーゴ討伐の難しさはあの重量の巨体を止められないこと。 いくら斬ってもボーデンドラーゴは死ぬまで止まらない。 下手打って踏みつぶされて死者が出るくらいだから」
「………。 そ、そんな転がる大岩に轢かれに行くような危ないクエ、なんでそんなにやりたいの?」
「確かにボーデンドラーゴクエは、その特殊な難易度からAクラスの勇者と呼ばれる冒険者達でも中々手が出せないんだ。 でも………」
「でも?」
「その肉が絶品なんだ!!!」
「はぁ?」
「肉の味が絶品で、上級貴族の美食家たちが金に糸目を付けずこぞって手に入れたがるのに…… ボーデンドラーゴの肉は殆ど出回らない! その討伐の難しさからいくら報酬が破格だったとしてもこのクエを引き受ける冒険者はいない。 ボーデンドラーゴ討伐は、大人数で罠や柵など数を揃えて動きを止めてから討伐する軍隊向きクエストなんだよ。 市場にたまに出る肉は貴族がイベントのために大枚叩いて討伐軍隊を組んで手に入れた肉のおこぼれなのさ」
「ほほぉ~ その話しもっと詳しく聞きましょうか?」
「シャルマ…… なんか目の色変わってないか?」
「だってそんな手に入らない絶品の肉、興味示さない方がおかしいでしょ? しかも依頼は『肉一キログラム』だけで…… 依頼料は『要相談』って事はきっと破格に決まってる! 討伐できれば大金も入って残りの肉は自分達で食べられる。 二度おいしいじゃない!」
「でも…… なんで依頼は一キロなんだろう?」
「基本討伐する事は諦めているのだろう。 持っている人少し分けてくださいって依頼だと思う」
「なるほど!」
そんな話をしていると、ギルド奥の席から一人の貧しい身なりの少女が歩いてくる。
「あっ、あの…… このクエスト受けていただけるのですか?」
「あなたは?」
「このクエストを依頼した者です」
これでシャルマの『報酬が破格』は無くなった。
それにしても…… ギルドとは良くも悪くも公平だ。
普通なら金のない少女の依頼、それも『報酬料は要相談』など請け負わない。
それがクエスト依頼されていると言うことは。
「まさか報酬料は自分だとか言わないだろうな?」
「ちょっと! ディケムさん!!! いきなりなにを――……」
「はい」
「なっ! ちょっとあなた、なに言っているかわかっているの!?」
「はい。 ですが私の大事な弟が奇病と呼ばれる【ボーデン・アブリーネン病】(土壌減退病)なんです。 両親を亡くした貧乏な私たちには頼る大人もお金もありません。 ですから私が身を売るしか…… ただ一人の私の家族なんです」
「【土壌減退病】って…… あの大地の呪いとか言う?」
「はい。 ボーデン病は奇病中の奇病、放っておけば命にかかわると…… 呪いと言っても栄養失調のようなものなので教会などの『壊呪』では治りません。 ですが土の属性を持つ土の眷属地竜の肉を食べさせれば簡単に治るそうなのです。 ですから地竜の肉で最も手に入れやすい、美食家の間でごく稀に取引されると言うボーデンドラーゴの肉が欲しいのです」
『なるほど……』と皆が顔色を変える。
そんな中、リーラがとりわけ思いつめた顔をしている。
『どうしたのリーラさん? 何かあるの?』と心配したシャルマが訊ねると……
「いや、私の父もむかし同じ病に…… ウチも貧乏だったから母がこの子と同じ事をしたの。 でも、結局誰もクエを受けてくれなかった……」
「そ、そうですか…… それは辛い過去を聞いてしまいました。 すみません」
「いえ、父は今も元気です」
「へ?」
「その時たまたまギルドに居合わせたラローズ様が、国王様に献上されるボーデンドラーゴの肉を少しちょろまかしてくれたの。 だからラローズ様はウチの家族の恩人なの、それから私はラローズ様を尊敬しているわ」
「な、なるほど」
⦅ちょろまかすってのが、ラローズ先生らしい……⦆
結局俺達は『ねえみんな、私はこの子の依頼受けたい』そう言ったリーラの意見に、全員賛同してボーデンドラーゴ狩りのクエストを受けることにした。