第六章65 ガーディアン・ゴーレム作成 その四
シャルマ視点になります。
私達が訓練場に移動すると。
そこにはソーテルヌ総隊精鋭部隊隊長のコルヴァスさんとカミュイゼさんが待っていた。
あのカミュイゼさんは教会講習の時に見回りに来た騎士だ。
年齢はディケムさんと同じくらい。
あの年代はマディラさん達と言い、ディケムさんに引っ張られ皆優秀な人が多いい。
ラス・カーズ将軍、ラローズ様、コルヴァスさん、カミュイゼさんがパーティーを組む。
そしてディケムさんとフュエがその前に対峙している。
フュエもいつの間にかフル装備。
ディケムさんは冒険の時と一緒のミスリルの剣と盾を持っている。
『始め―――!!!』の掛け声でディケムさんが一気に前に出る。
そこへラス将軍とカミュゼさんが一気に攻撃を仕掛ける。
二人の連携攻撃が弾かれた次の瞬間―― ラローズ様の魔法ウォーターが発動する!
ディケムさんが魔法を切り裂き、そのまま前に出たところをコルヴァスさんの盾が受け止める。
⦅…………⦆ ⦅…………⦆ ⦅…………⦆ ⦅…………⦆
その模擬とは思えない緊迫した動きに、見に来ていた騎士達が言葉を失っている。
そしてフュエ以外のディケムさんラスさん達が『ニッ』と笑う……
「いや『ニッ』じゃないからっ!!! ゴーレムのテストじゃないの? ただの模擬戦やってどうするんですか!?」
「あっ…… いつもの癖でつい」
⦅この人達はみんなバカなの!? 英雄ラス・カーズ様まで何やってるのですか!⦆
少し呆れたけど……
正直この卓越した模擬戦にも驚かされた。
Sクラスのラス・カーズ様の攻撃を難なく受け流すディケムさんには普通に感嘆したけど。
ラス・カーズ様に後れを取る事無く連携を取っている、カミュゼさんとコルヴァスさんにも驚かされる。
ソーテルヌ総隊での訓練がどれほど濃密なモノなのか想像に難くない。
⦅あの中でグラン姉様は一緒に訓練していると聞くけど…… 大丈夫なの?⦆
改めて皆仕切り直す。
本当は戦闘のさなかにゴーレムを構築して戦闘までの流れも訓練したかったと言っていたけど……
棒立ちのフュエを見れば無理な事は直ぐわかる。
『初心者にそんな事出来る訳ないでしょ!』と怒っておいた。
⦅脳筋って自分が出来る事を他人も出来ると思ってるのよね……⦆
今度は最初にフュエがガーディアン・ゴーレムを構築してから『始め!!!』の掛け声がかけられる。
そしてフュエがゴーレムに戦闘を指示を出す。
ゴーレムの戦闘パターンはそのままゴールド・ゴーレムと同じみたい。
だけどディケムさんが『核』に書き込まれている魔法陣を『最優先はフュエを守る事』と書き換えたらしい。
ラス・カーズ様の攻撃はあえて先ほどと同じパターンで始まった。
ディケムさんが捌いた攻撃をゴーレムがどのように対処できるのか?
ラス将軍とカミュゼさんが一気にフュエに攻撃を仕掛ける。
その瞬間、二人とフュエの間にゴーレムが滑り込む!
⦅えっ? 速い! ゴールド・ゴーレムはここまで早くなかった⦆
そしてラス将軍とカミュゼさんの連携攻撃ごとゴーレムは二人を殴り飛ばした!
⦅ちょっ! ゴーレム手加減しているの?⦆
⦅あれ…… Bクラス冒険者が一撃で再起不能にされた攻撃でしょ?⦆
だけど戦闘は終わらない。
吹き飛ばされたラス将軍とカミュゼさんを気遣う事無くラローズ様が魔法を放つ!
しかし水属性の弱点属性は土属性。
それを知っているのかゴーレムはラローズ様の『ウォーター』を避けもせずその身に受け、そのままコルヴァスさんを盾ごと殴り飛ばした。
『ちょっと! やり過ぎです、早く救護を!!!』
私の悲鳴に近い叫びにララさんが答える。
「心配しないでシャルマさん。 大丈夫ですよ。 ここの訓練場には王都の『闘技場』より強力な治癒魔法と防御魔法を組み合わせた魔法陣が組み込まれています。 ここではあれくらいの攻撃はたいした事ではありません。 ソーテルヌ総隊にはSクラス以上の人が何人も居るの。 だからそんな人たちが本気で模擬を出来るように設備が整えられているのよ」
半信半疑で私がララさんの説明を聞いていると、吹き飛ばされたラス将軍、カミュゼさん、コルヴァスさんが普通に歩いて戻ってくる。
『なっ……ちょっとウソでしょ!』と、私とフローラは目を見張る。
それにしても今の戦いだけを見ても、フュエのガーディアン・ゴーレムはダンジョンのゴールド・ゴーレムより強くなっている気がする。
少なくてもダンジョンで戦ったゴールド・ゴーレムはあんなに早くは動けなかった。
でも体を作る素材が『鉄』から『鋼』に変わっただけじゃないの?
それは強度は上がるけど、速さと力は関係ない筈。
私がそんな疑問を抱いていると……
「フン! 何を驚いた顔をしている。 あのゴーレムにはディケム様の精霊結晶が組み込まれているのだぞ。 ただの堅いだけのゴーレムと同じはずが無かろう」
後ろからかけられた声に振り向くと……
戦いたくてウズウズしているラトゥール様が立っている。
しかもディケムさんと同じミスリルの剣と盾を既に持ってる。
「お前ら不甲斐ないぞ! そんな有様ではゴーレムのテストにもならん。 ディケム様、私も模擬戦に加わりますが良いですよね?」
「あぁラトゥール。 頼む」
ラトゥール様を加えて模擬戦を仕切り直す。
『始め!!!』の声がかけられ戦闘が始まる。
今度は一瞬にしてラトゥール様がゴーレムとの距離を詰める。
ラトゥール様を薙ぎ払おうとしたゴーレムの腕が空振り――
そのままラトゥール様に腕を切り落とされる。
「す、すごい……」
そのままゴーレムを切り裂こうとしたラトゥール様の剣をディケムさんが盾で防ぐ。
ラトゥール様とディケムさんが剣で力比べをしているさなか、ディケムさんが叫ぶ!
「フュエ殿下! 自分の指揮下にあるゴーレムは自在に修復可能です。 早く腕を直してください」
「は、はいっ!」
フュエがゴーレムの腕を直した瞬間ディケムさん下がる。
「フュエ殿下! ゴーレムは放っておけばパターン通りの動きしか出来ません。 ラトゥールのレベルになると直ぐにパターンを読まれてしまいます。 攻撃パターンの中にフュエ殿下の命令を織り交ぜてください。 ゴーレムは殿下の従属、『思念』で動かせます」
「は、はいっ!」
ラトゥール様のゴーレムへの致命的な攻撃だけはディケムさんが防いでいる。
致命にならない攻撃とその他ラス将軍達の攻撃はゴーレムに任せている。
その状況で模擬戦の均衡は保たれている。
ディケムさんが戦闘のバランスを取っているんだ。
この一瞬の隙で均衡が崩れてしまう実践さながらの緊張感の中で、フュエにゴーレムの使い方を教えている。
フュエがゴーレムに指示を与え徐々にゴーレムの動きが変わってくる。
ラトゥール様も決定打をディケムさんに防がれ、不規則に動き出したゴーレムに手こずっている。
「殿下、良い感じです!」
「はい!」
「では殿下! 次はゴーレムを動かしながら自分自身も参戦しましょう」
「へ?」
ラトゥール様の動きを見てゴーレムを変則的に動かす事に頭が一杯だったフュエは、棒立ちのまま自分が戦う事を忘れていたようだ……
「殿下、ゴーレムは殿下の『思念』で動きます。 それは自分が二人居る感覚に近くなります。 この感覚に慣れなければ、下手をすれば自分とゴーレムを間違え自分がゴーレムの盾になる事さえ起きかねません。 感覚に慣れてください!」
「えっ…… えっ…… えぇえええ―――!」
フュエが自分も動こうとした瞬間、ゴーレムの動きが鈍くなる。
その隙をラトゥール様が見逃すはずも無く……
ゴーレムは切り捨てられた……
「フュエ殿下。 今のがゴーレムや精霊を使って戦う場合の難しさです。 ゴーレムと自分の二つの状況を把握し、同時に二つの動きを考え命令し自分も動かなければなりません。 その難しさを今、直に体験してご納得して頂けたかと思います」
「はい……」
「ゴーレムを使うだけならば簡単なのですが、せっかく二人の戦力で数の優位が取れるのを使わない事は愚策です。 実はこれは……結構難しい高等テクニックです。 ゴーレムを使う術者は大抵ゴーレムに戦闘を任せ自分は戦わないか、自分が戦う場合はゴーレムに命令を出しません。 ですがフュエ殿下にはさらに上を目指して頂きたい。 常に今言った事を意識して励んでください」
「はい」
正直…… ゴーレムを使う事にそんな難しさが有るとは思いませんでした。
でも、もしそれが出来るようになったとしたら……
フュエはさらに飛躍的に強くなる。
ガーディアン・ゴーレムだけでも、あのゴールド・ゴーレムよりも強い。
そしてクレリックのフル装備を整えたフュエも、シルバー・ゴーレムを圧倒出来るくらい強かった。
その二人が自由自在に連携できるようになったとしたら……
フュエは自分が確実に強くなれる指針をディケムさんから貰える。
わたしは心底、他国籍の自分の立場が恨めしい。
この日の訓練は結局、ゴーレムと自分を同時に動かそうと四苦八苦するフュエがポンコツ過ぎて……
ラトゥール様は戦う事をやめ、ラス将軍のパーティーと模擬戦を続けていた。
ゴーレムだけで戦っていた時はラス将軍達を瞬殺出来たのに、フュエが連携の動きをした途端急に動きが単調になり格段に弱くなる。
今はお互いちょうどいい訓練相手って感じになっている。
(これ…… 習得できなかったら、宝の持ち腐れにならないかしら……)