第六章64 ガーディアン・ゴーレム作成 その三
シャルマ視点になります。
「さて、フュエ殿下。 ゴーレムを作るのも魔法になります」
「はい」
「ダンジョンのように決められた同じ強さのゴーレムを何体も作り出すだけなら、『核』の魔法陣にゴーレムの情報を組み込みんでしまいますが、今このゴーレム『核』は全くのフリーです」
「はい」
「ですからどのようなゴーレムを作るかはイメージが重要となります」
「と言う事は…… 逆に言えば好きな形のゴーレムを作れると言う事なのですね!」
「はい。 ですが初め慣れるまでは作るゴーレムは決めておいた方が良いです。 自由に作るのは先の話にしましょう。 初めはすでにイメージに深く刻まれている【モントリューダンジョン】のゴールド・ゴーレムにしてください」
『は、はい……』と返事はするものの、フュエは少し残念そう。
「なぜ今は好きな形は諦めた方が良いかと言うと、ゴーレム作成には他に基本となる重要な要素が有るからです。 そちらに意識を集中させないと強いゴーレムは作れません。 ダンジョンのようにゴーレムの形と能力を固定してしまうのは、その必要とする作業を簡略化する意味が強いのです。 ですがそれは楽なのですがゴーレムの強さ、可能性を固定してしまう事。 より強いゴーレムを作る事が出来無くなると言う事になります」
「わ、わかりました」
「もちろん形や大きさも強さの大きな要素ですから、自由に作れるようになったら練習しましょう」
フュエが『はい!』と嬉しそうに返事をする。
よほど形を変えたいらしい…… その気持ちも分からないでもない。
あのゴールド・ゴーレム強そうだけど……可愛くはない。
一緒に連れて歩くなら可愛い方が良いに決まってる。
「では初めに、ガーディアン・ゴーレムには『銅』『銀』『金』が居ましたが、素材が本物の銅、銀、金だったわけではありません。 もし本物だったとしたらむしろ硬さで言えば『金』が一番柔らかく、次に『銀』で『銅』が一番堅い素材となってしまいます」
「えっ! そうなのですか?」
⦅えっ! そうなの!?⦆
「はい。 ゴーレム作成に良く使われる魔法は『土魔法』ですから、ゴーレムの素材は砂や土に鉄の粒『砂鉄』を混ぜたものを使うのが主流です。 ですから最も固い『ゴールド・ゴーレム』は砂鉄の含有量がもっとも多いと言う事です。 色が金色なのは只の趣向と言う事です」
⦅なっ! そうなの? あの金色ってただのデザイン的趣向なの!?⦆
なんか、ダンジョンマスターが一生懸命ゴーレムの色考えている光景を思い浮かべると、急にゴールド・ゴーレムが可愛く思えてくる。
「今回このゴーレム『核』には八属性の精霊結晶を組み込みました。 もしフュエ殿下が精霊使いなら、強引にその八属性のゴーレムの体を作ることが出来るのですが…… それは非常に難しい事なので忘れてください。 四門守護者でも自分が契約する精霊の属性のボディしか作れないでしょうから」
「はい」
「ですが、金属の精霊アウラの属性だけは別です。 もともとゴーレム『核』が土と砂鉄でゴーレムを作る為に作られているので、アウラの属性と相性が非常に良いのです」
「は、はい……」
「簡単に言うと『土に混ぜる砂鉄の含有量の調節』と『砂鉄を他の金属に置き換える』事が出来ます」
「ちょっと待ってくれディケム君! と言う事は!!!」
それまで聞いているだけだったラス・カーズ将軍が、何かに気づいたようで興奮気味に口を挟んでくる。
「そうですラスさん。 今、アウラはオリハルコンまで作ることが出来ます。 だから極端な事を言えば理論上オリハルコンで出来たゴーレムを作ることが出来る!!! と言う事です」
『やはりそうか!』 とラス・カーズ将軍は驚いた後……
『だがそんな事したら……』とまた悩んで呟いている。
「はい。 ただの理論上です。 正直私なら作れますが…… そんな効率の悪いものを作る気は有りません。 実用性の無いただの趣味の域でしょう。 要は『金属の含有量』と『金属の質』を高めれば、必要とするマナも多くなると言う事です」
「なるほど、やはりそうなのか……」
ラス・カーズ将軍が少し残念そうに呟く。
オリハルコンで出来たとんでもないゴーレムが出来るかと思ったけど……
そんな簡単な事じゃ無いらしい。
「いまのフュエ殿下のマナ量だと出来て『鋼』まででしょう。 含有量はやって見なければわかりません」
ちょっと! 『鋼』までとか残念そうに言っているけど……
ダンジョンのゴールド・ゴーレムは土と鉄だけでSクラスだったのよ!
フュエが作るゴーレムは『鋼』って事はもっと固くて強くなるって事じゃ無い!
『ではフュエ殿下、始めましょう』とディケムさんはフュエに言う。
作るゴーレムは――
・形はゴールド・ゴーレム。
・素材は『鋼』。
・含有量はゴールド・ゴーレムと同じ五〇%
だそうだ。
ちなみに【モントリューダンジョン】のゴーレムは。
ゴールド・ゴーレムが『鉄』の含有量五〇%。
シルバー・ゴーレムが『鉄』の含有量二五%
普通のゴーレムは『鉄』の含有量五%
ただ、鉄の含有量が少ないほど、土の密度を高め、煉瓦のように固くさせていたらしい。
フュエがゴーレム『核』に魔力を注ぐ。
そして自分のイメージを固定させて、『核』を放り投げると――
土がモリモリ盛り上がりゴーレム『核』を包み込み、ゴーレムが形成されていく。
そして私達の目の前に【モントリューダンジョン】のゴールド・ゴーレムが姿を現す。
昨日死闘を繰り広げたばかりのゴールド・ゴーレム。
私とフローラは身構えるが、ゴールド・ゴーレムはフュエの側で動かない。
「フュエ殿下、初めてのゴーレムにしては上出来です」
「ありがとうございます」
『ですが――』と言い、ディケムさんがゴールド・ゴーレムを真っ二つに切り裂く。
「鋼の含有量が足りません。 あと土が柔らかすぎます」
鋼の巨大なゴーレムがバターのように切り裂かれる様を、みな唖然と見ている。
ゴーレムはただ形を作ればいいと言うものでは無いらしい。
ゴーレムの強さとは。
金属素材の種類
金属素材の含有量。
土素材、金属素材の密度(硬さ)。
内包するマナの量。
ゴーレムの形、大きさ。
など…… さらに属性を付与したり、組み合わせでいくらでも強くなるようだ。
逆に言えば、いくら鋼で作ったとしても密度がスカスカだと、今のように柔らかいゴーレムになってしまう。
そして逆に柔らかい砂のゴーレムを作るという手もあるけど……
『核』を傷つけられるデメリットも出てくるとか。
作るのは難しそうだけど……
でも発想次第でいくらでも無限に強く出来ると言う事だ!
⦅やばい! あれ私も欲しい―――!!!!!⦆
それからしばらく私達はお茶を飲みながら、フュエとディケムさんの特訓を見ていた。
そして、やっとディケムさんの合格のサインが出る。
初めの目標、『鋼』の含有量五〇%のゴールド・ゴーレムが出来上がったらしい。
「さて…… ラスさん。 そろそろ体を動かしたくないですか?」
「あぁ。 その言葉を待っていたよ」
⦅な、なにこの脳筋の会話!? コワイ⦆