第六章63 ガーディアン・ゴーレム作成 その二
シャルマ視点になります。
ディケムさんが『アウラ!』と呼ぶと一柱の少年の姿をした精霊様が顕現する。
『あ、あれが上位精霊様!』 私は目を見張る。
舞踏会で初めて見た精霊様とは全然違う。
となりでフローラが震えているけど、わたしでもその存在の格の違いを感じ取れる。
「アウラ。 ゴーレム『核』はいわばダンジョン『核』の下位互換みたいなものだ。 空間を管理するダンジョン『核』に対し、個を管理するゴーレム『核』。 暗黒竜のダンジョン『核』を作ったお前なら作る事は可能だよな?」
⦅え? ダンジョン『核』を作ったと言ったの?⦆
フローラが『ウソよね?』と私に同意を求めてくる。
でも、私とフローラのそんな『ウソと言ってほしい』という希望も直ぐに否定される。
アウラ様は『もちろん』と言って、ゴーレム『核』に手をかざし何かを調べ始める。
「うん。 別に『新しい仕組み』や『罠』は見当たらないよ。 膨大なマナが必要だけどこれなら複製は出来るよ。 ディケム様ならマナは問題無いでしょ?」
「あぁ、だがアウラ。 このゴーレムはフュエ王女に使わせたいんだ。 ダンジョン『核』の管理下にないこの『核』だと、ゴーレムを構築するには消費魔力が膨大過ぎる。 今の王女では魔力量が足りないし、作れたとしても維持などとてもできないと思うんだ。 なにか面白い案はないか?」
「フュエが使いたいのか…… 親友シャンポールの血を色濃く受け継ぐこの子に使わせると言うのは僕も賛成だけど…… これはゴーレムを構築・維持・回復させる為の膨大なマナをどこから持ってこられるかと言う問題だからね。 精霊と契約していないフュエが自分で、となるとなかなか難しい問題だね。 面倒だけどその都度ディケム様がマナを補充してあげるしか無いんじゃない?」
なるほど……
あんな質量のゴーレムがどうやって動いているのか?
動かすエネルギーは何処から来ているのか?
今まで考えもしなかったけど。
ダンジョンと言う、ダンジョン『核』の管理下で特定の場所でしか動かさないから、あんなSクラスの化け物が動くらしい。
決まったパターンでしか動けないと言うのも頷ける。
ゴーレムと戦った経験がある、ラス・カーズ将軍とラローズ様も驚いているのが分かる。
倒す対象だったゴーレムを逆に自分が動かすと言う視点に立った時、その運用の難しさを初めて知る事となる。
だけど……
ディケムさんは『ゴールド・ゴーレムをフュエのガーディアンに出来る』とレクランメンバーの前で言った。
きっと何か打開する案が有るに違いない。
『うん。 俺がその都度補充ってのも今はいいんだけど、有事の際に使えないと意味が無いんだよ』と言いながら、アウラ様が手をかざすゴーレム『核』に、ディケムさんも手をかざす。
すると『核』の上に魔法陣が浮き上がる。
その魔法陣をディケムさんは魔法の杖(小)をペンの様に使い何やら書き換えている。
モンラッシェ事変でディックさんが召喚魔法陣を書き換えたと聞いたけど、普通はそんな非常識なことは出来ないと私の魔法の家庭教師の先生は言っていた。
でも今、私の目の前でディケムさんも『核』に一度焼き付けられた魔法陣を書き換えている。
⦅先生…… ここは魔法の常識が通用しないようです⦆
「よし。 これでゴーレムの所有者をフュエ王女に書き換えた。 もう隔離結界は必要ない。 もし【モントリューダンジョン】にゴーレムを連れて行ったとしても、フュエ王女の管理下から離れる事は無い」
四門守護者以外の皆が『魔法陣を書き換える』と言うその非常識な光景を呆れて見ているなか。
ディケムさんは、まだゴーレム『核』に何かをしようとしている。
「さて、これからが本題のマナの補給方法だけど…… まだ完全な解決方法は分からないから、とりあえず仮に動かせる所まで改良しておくとしよう」
そう言ってディケムさんが、残り七柱の上位精霊様を顕現させる。
そしてディケムさんが
『ここは神木のおひざ元、驚くほどマナに満ち溢れている』と呟くと――
ディケムさんを中心とした地面が光り輝きだす!
一帯にマナが充満し、飽和し、黄金の粒子が地面からキラキラと立ち昇っている。
『な、なにこれ? この光……大丈夫なの?』
私の問いかけにもフローラは目を見張ったまま答えない。
ゴーレム『核』を円状に囲んでいる八柱の上位精霊様が光り輝き、マナが飽和状態になったように見える。
そして――
八柱の上位精霊様がゴーレム『核』の中に入って行く。
「これで良し。 ゴーレム『核』の中に精霊結晶を組み込んだ。 これなら溜め込んだマナでゴーレムを構築する事が出来る。 そしてマナが満ちているシャンポール王都の近くなら問題なく消費したマナを自然回復する事ができる」
「えっ!? ディケム様? 自由にゴーレムを使えると言う事ですか?」
「フュエ殿下。 あくまで今は『シャンポール王都の近く』だけです。 このガーディアン・ゴーレムはSクラスとレベルが高いだけに、マナの消費も激しいのです。 ですからもしマナの少ない別の領地に連れて行けば、自然回復で補充できるマナの量は少なくなり、マナの補給と消費のバランスが崩れ、いずれ蓄積したマナが尽きた時ゴーレムは『核』だけ残し崩れ去るでしょう。 もちろんマナの自然回復だけでなく、フュエ殿下が自分の魔力をゴーレムに注げば維持出来る時間は伸びるでしょう…… ですが今度はフュエ殿下の魔力がもたない。 殿下を守るためのゴーレムに殿下の魔力を使う事は本末転倒、基本はお止めください」
「は、はい分かりました。 あの…… 今後なにか改善できる策は有るのでしょうか?」
「今の所は考えつきません。 もしフュエ殿下が下級精霊とでも契約していれば、ゴーレムに精霊を宿らせマナの自然回復に頼るだけでなく、自分でマナを補給することが出来るようになります。 精霊とはマナそのもの、息を吸うように自分を維持する為にマナを吸収しているからです。 ですが決して精霊と契約しようなどと思わないでください。 精霊との契約とは、熟練魔術師が命を懸けて成す事ですから」
「は、はい…… でしたら四門守護者の方がこのゴーレムを使った方が戦力として良いのではないでしょうか?」
「正直。 四門守護者がわざわざゴーレムを使って戦うかと言えば…… よっぽど上位精霊を顕現させた方が強いと言う話です」
「ですよね………」
「まだこのゴーレムは完成形ではありません。 ですが戦う戦力と言うよりは四門守護者が不在の有事に人族領防衛に使えれば面白いと言う話です。 ですからフュエ殿下が使えてこそ、その真価を発揮するのです」
⦅ちょっと面白いって!⦆
⦅そんな事でSクラスゴーレム作られたら、他国の立つ瀬がないんですけど!!!⦆
「さて、今できるゴーレム『核』の改良はここまでです。 それではゴーレムを作りましょうか」
ディケムさんの言葉に、皆期待に胸膨らませゴーレム『核』を注視した。