第六章60 討伐スコア年間ランキングの勝者
ここはシャンポール王都冒険者ギルド。
今日は『討伐スコア年間ランキング』の勝者が決まる日。
多くの冒険者達がギルドに集まり【討伐スコアボード】に表示される文字に一喜一憂していた。
今の時期はこの『討伐スコア年間ランキング』が決まる佳境の数日。
賭け事が一番盛り上がる時でもあり、金が一番動く時でもある。
あまりの盛り上がりに、この賭け事は冒険者だけでなく商人、一般大衆までも集まり巨額の金が動くようになっていた。
そんな美味しいイベントをマール宰相が放っておくはずが無い。
マール宰相はさらに客が喜び熱狂し大金が動く仕掛けを施した。
その仕掛けとは……
終盤の佳境の数日間、ランキングトップ一〇位のパーティーに『審議官』を密かに張り付かせ、リアルタイムにパーティーの討伐情報をギルドに送り、直ぐに討伐ポイントが【討伐スコアボード】に反映されるようにしたのだ。
リアルタイムに討伐得点が動けば賭け金もその都度動く!
そして客は過熱していき、どんどん大金をつぎ込んでいく!
マール宰相の思惑は大当たりし、今日も巨額の掛け金が動き国庫に多額のお金が入ってくる。
賭け事に興じる人々が、熱い視線で佳境に差し掛かった【討伐スコアボード】を凝視している。
一位:『赤の牙』五七五〇ポイント。
二位:『黒の牙』五六〇〇ポイント。
三位:『青の牙』五五五〇ポイント。
四位:『白の牙』五二〇〇ポイント。
五位:『レクラン』四五五〇ポイント。
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やはり例年通り『四色の牙隊』のポイントが頭一つ抜き出ている。
そんな中、冒険者達、賭場客の一番の注目はもちろん一位争い。
今年は『アルザス戦役五周年』と言う事で一位には『ミスリルの剣』が用意されている。
憧れの『ミスリル武器』欲しさに冒険者達は一位を狙い競争は白熱していく!
一位争いが白熱すれば【討伐スコア】の動きも激しくなり、賭けも白熱する。
締め切りの時間が迫る中、現在の一地位争いは『赤の牙』『青の牙』『黒の牙』の三パーティーに絞られている。
だが、三パーティーの差は一五〇~二〇〇ポイントと大きな差がついてしまっている。
もう『赤の牙』の優勝で決まりの空気だったが……
午前中に『青の牙』のポイントが加算されてからは、ポイントに動きが全く無い事が気になる。
賭けている多くの客が冒険者だ。
冒険者の客は、昨日の『青の牙』の情報をしっかりつかみ、同じ冒険者としての思考で考える。
『青の牙』は十中八九、Bランクのシルバー・ゴーレム狙い!
今は動きが無いのは体力を温存し、一気に二五〇ポイントを狙っているからだと。
もし冒険者の勘が当たり『青の牙』が最後にシルバー・ゴーレム討伐を成功させたとしたら――
『青の牙』が一気に一位に躍り出ると言う局面だ。
「それでフィーカ…… なんでトップ争いの『白の牙』のアンタが今ここで賭けを楽しんでいる?」
「は? バッカスお前はバカか? もうこの局面でウチがいくら頑張ったってトップ三位に入れると思うのかい? だったら皆と一緒に賭けを楽しんだ方が良いに決まっているだろう?!」
「ま、まぁそうなんだが…… 俺はお前に賭けてたんだヨ!」
「あらそれはごめんよ~! ならもし私の大穴が当たったら、バッカスおごってやるよ!」
「ほぉ! アンタも『青の牙』イフト狙いなのか? だが昨日の情報じゃ、シルバー・ゴーレムを倒せはしたが、かなりボロボロにされたらしい。 あの状況じゃ今日はまだ回復しきれていないだろう。 今日またシルバー・ゴーレムに挑むのは無謀ってものだろう?」
「私の大穴は『青の牙』じゃないよ」
「なんだ『黒』の方かい…… そりゃ今年はもう無理だ! いま一五〇ポイントも差が開いちゃ、イフトと同じシルバー・ゴーレムでも狙わなきゃとても追いつけねぇ。 今日ダーヴィヒがダンジョンに入ったなんて情報聞いてないからな」
「いや『黒』でもない…… 『レクラン』に賭けた」
「………………」
「なんだい、その奢られるのを完璧に諦めた冷めたツラは!」
「だってお前…… 『レクラン』ってお前達『白の牙』より下に居るんだぞ!」
「………………」
さすがにフィーカも『レクラン』が本当にトップを取れるとは思っていなかった。
ただ面白半分で数日前に賭けておいただけだ。
そろそろ今年の『討伐スコア年間ランキング』も終わろうかと言う時。
【討伐スコアボード】に情報が送られてくる表示が流れる。
ギルド中が静まり返る。
これから表示されるのが『青の牙』なのか?
それによって一位が逆転するかもしれない!
全員が固唾を呑んで【討伐スコアボード】を凝視する!
そして【討伐スコアボード】に―――
【レクラン:モントリューダンジョン、ガーディアンゴーレム(金)Sクラス討伐】
その文字が表示される………
「…………」 「…………」 「…………」 「…………」
誰もがそのスコアボードの表示をすぐには理解できなかった。
「は? Sクラスって…… なに?」
「ガーディアンゴーレム(金)って…… あのゴールド・ゴーレムを討伐したって事なのか?」
「それって…… 英雄ラス・カーズ様以来だれも成功していないヤツだよな?」
まだ誰もがその表示の意味をハッキリ理解できない中、【討伐スコアボード】の順位表が書き換わる。
一位:『レクラン』七〇五〇ポイント。
二位:『赤の牙』五七五〇ポイント。
三位:『黒の牙』五六〇〇ポイント。
四位:『青の牙』五五五〇ポイント。
五位:『白の牙』五二〇〇ポイント。
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「おいおいおい! うそだろ!」
「アマンダ達やりやがった!」
「本当かよ…… 信じられん!」
だんだんと皆がその状況を理解して騒がしくなったギルドの中。
凍り付いたフィーカとバッカスも頭を再起動させる。
「ほ、ほほほらバッカス…… な?」
「あ、あぁ…… ほ、ほんとうだ……」
大穴を的中させたフィーカも、奢ってもらう約束をしていたバッカスも……
まだ『ウソだろ?』と【討伐スコアボード】を見たまま立ちつくしていた。