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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章59 ゴールド・ゴーレム討伐完了

 

 ゴールド・ゴーレムがバラバラに引きちぎられ、俺達を囲う結界が消滅する。


 想像を超えた結末に見物人たちは言葉を失っている。

 だが……『ほ、本当にやりやがった……』と一人の冒険者が呟いたところで、その場の皆の時間が動き出す。


 闘技場と化した広場に詰めかけていた冒険者達が一斉にレクランへと声援を贈る!


「レクランがやりやがった―――!!!」

「英雄ラス・カーズ様のパーティー以来の偉業だ!!!」

「凄いぞ、レクラン! 俺今日見に来てよかった―――!!!」



 大歓声の中、俺は手の中に有るゴールド・ゴーレムの『(コア)』を見る。

 『(コア)』を破壊しなければ倒せないゴーレムの『(コア)』が手に入る事は非常に珍しい。


 ⦅これは面白い⦆


 俺はゴールド・ゴーレムの『(コア)』を隔離結界で包み込む。

 そしてその『(コア)』をフュエ王女に渡す。


「ディケムさん、『(コア)』破壊しないとゴーレム復活しちゃうんやないの?」


 シャルマが俺に訊ねた直後、褒賞の宝箱が出現する。

 隔離結界を張る事でダンジョンがゴーレムの消滅と認識したのだろう。


「ゴーレムの『(コア)』に隔離結界を張った、これでダンジョンマスターからの思念は届かない」


 『なるほど』とゴーレム討伐の恩賞でもあり、証でもある宝箱の出現にみな納得したようだ。


「フュエ。 ダンジョンから出たらフュエのマナでその『(コア)』を染め上げなさい」

「はい。 あの……でも『(コア)』を私のマナで染めてどうするのですか?」


「その『(コア)』は非常に貴重だ。『(コア)』に構築されている魔法陣を少し改良しフュエのマナで染めれば、ダンジョンマスターの支配からフュエの支配へと変えることが出来る」


「えっ? それはゴールド・ゴーレムをフュエのガーディアンに出来るって事?」

「そう言う事だ、シャルマ」

「ちょっと……そ、それ凄くない!?」


『おぉぉぉぉ! それ羨ましい』とみなが騒ぎ出す。


 皆が『私も欲しい!』『俺も欲しい!』と騒ぎ出したが……

 『自分のガーディアンに出来る』と簡単に説明したが、本当はそんな簡単な話ではない。

 ダンジョンのガーディアンゴーレムは、ダンジョンマスターのマナが無ければ動かない。

 ダンジョンコアの力を使い、ダンジョン内と言うダンジョンマスターの結界内の環境だからこそマスターから離れても自立して動いている。

 要はダンジョンの中でしか動けない仕様と言う事だ。


 それを外に持ち出し動かそうとすれば、フュエ王女が常にマナを送り続けなければ動かなくなる。

 今のフュエ王女にそれはとても負担で酷な話だろう。


 だが精霊を従属し精霊結晶を作れる俺ならば、自立式でつねにフュエ王女を護衛してくれるゴーレムに改造することが出来る。

 例えは悪いが、ポートの店の『冷蔵倉庫』へマナを補充し続けているのに近い。

 もちろん、そんな事を知らせない方が都合が良いから誰にも話はしないが………



「ほら皆、無傷のゴーレムの『(コア)』を手に入れる事は奇跡に近い、諦めろ! そんな事よりもゴールド・ゴーレム討伐の宝箱が目の前に有るんだぞ! ミスリル装備だぞ」


『そ、そうだった』と皆我に返る。

『やれやれ……』とは思うが、Sクラスのゴールド・ゴーレムを従える事は、冒険者の憧れミスリル装備よりも魅力的に感じてしまうのも理解できる。



 アマンダがいつもの様に宝箱を鑑定する。


「ミスリル装備だってさ!」


 『おぉぉぉぉぉ!!!』と皆喜びの声を上げる。


「ミスリル武器、『剣』『槍』『弓』『斧』『盾』。 ミスリル防具は、『板金鎧(フルプレート)』『胸部装甲(ハーフプレート)』『鎖帷子(チェーンメイル)』だってさ、選べる種類は鋼と同じだね。 どれにする?」


 皆が一斉に俺の顔を見る!

 ⦅俺、この戦いはほとんど戦っていないのだが……⦆

 まぁ、第三者的な立場の俺が決めた方が、後々争いにならないのも確かだろう。


 俺は『アマンダにミスリルの武器を持たせたい』と提案する。

 すると『私もそれが良いと思う!』 『あぁ、それでいい』 『賛成――!』

 と俺の言葉に皆が賛成してくれる。


「わ、私がミスリル装備を…… みんな、ありがとう!」


「だからアマンダには悪いが、その愛用の鋼の剣をミゲルにあげてくれないか?」


『あぁ、もちろんだ!』とアマンダは快く俺の提案を受けてくれる。


「ミゲル、お古で悪いが私の愛用していた剣だ。大切に使ってやって欲しい」


 ミゲルも憧れの鋼の剣、そして今では師として尊敬までしているアマンダ愛用の剣を貰えて嬉しそうだ。



 そしてアマンダが宝箱から『ミスリルの剣』を取り出す。

 そして皆に見せるように剣をかかげる!


 すると。

『おぉぉぉ! レクランのアマンダが、『牙隊』を飛び越えて『ミスリルの剣』を手に入れたぞ!』と野次馬の冒険者から声が上がる。



 これで鋼の装備が揃っていないのは、ギルベルトの武器だけなのだが……

 先ほどの野次馬の言葉で、俺は思い出す。


「みんな。俺としては不本意なのだがゴールド・ゴーレムを倒した事で、俺達の『討伐スコア年間ランキング』一位が確定したと思われる」


 『『『『えええっ――!!!』』』』

 とビギナーメンバーは目を見張るがベテランメンバーは気づいていたようだ。


 俺はこれ以上悪目立ちしたくはなかったのだが……

 正直彼らはゴールド・ゴーレムとの戦闘、かなり頑張っていた。

 あの戦いの中『パリィ』を覚え『次元斬』も覚えた。

 タナボタではなく胸を張って『自分達の力でゴールド・ゴーレム討伐した』と言っても良いと思う。


「今回の『討伐スコア年間一位』の景品は『アルザス戦役五周年』とかでミスリルの剣が褒美だ。 それを貰えたらリーラに渡したい」


「おぉぉ! そしてリーラの鋼の剣をギルベルトに渡せば――」

「うん! レクラン全員の装備が鋼以上になる」


 『わ、私がミスリルの剣を?』とリーラもアマンダと同じように戸惑いを見せつつも満面の笑みを浮かべていた。


 そしてリーラの剣を貰えると聞いたギルベルトの顔が、あまりに嬉しそうで()()だったことは…… メンバー全員見なかった事にした。

 涙目で首をフリフリして嫌がったリーラを説得するのが大変だった。


 アメリー達には少し悪い気もしたが、彼女たちの目的は強さを求める事ではない。

 フュエ王女の護衛こそが彼女たちの本分。

 彼女たちの顔を見れば、それをしっかり理解している事がわかる。

 それに、もし彼女たちが装備の不足を感じるような事が有れば、ソーテルヌ総隊から装備を支給しても良いと俺は思っている。





 メンバーとの打ち合わせを終えると、皆が思い出したように地面にへたり込む。

 それはそうだろう。

 一番ランクが高くてもCランク程度の彼女たちが、三クラスも上のSランクの魔物と死闘を繰り広げたのだ。

 素直に賞賛を送りたい。

 俺は全員にポーションを配り、しばらく休むように伝える。

 そして『青の牙』が寝かせられている場所へ急ぐ。


 『青の牙』のメンバーは戦闘に巻き込まれない場所に寝かせられてはいたが、誰も回復をさせている様子は無い。

 冒険者は冒険のプロだ、その在り様は軍隊とは大きく異なる。

 大規模討伐などの特殊なクエスト以外では、生死をかけたダンジョン内で、自分達パーティーの生命線ともなる回復薬や回復魔法を他のパーティーに使う事はほとんどない。

 安全なダンジョンの外に出れば売る事は有るかもしれないが、出口を出るまで何が起こるか分からないのがダンジョンと言う場所だ。

 入口付近の罠にはまり、深層に飛ばされ全滅したなど珍しくもない話しだ。


 冒険者の心得として自分達の身は自分達で守るのが鉄則!

 他のパーティーへ回復薬を使う事は自分のパーティーへの裏切りと見られることが多いい。



 とは言うものの…… 俺は基本軍人だ。

 いくらダンジョンの中とはいえ、もう出口は直ぐそこと言う場所でポーションを使い果たし、死にかけている冒険者が目の前に居る。

 『甘い奴だ』と見られているがそれでも良い。

 出来る限りの事はしてやりたい。


 俺は『青の牙』一人一人にポーションを飲ませて行く。

 幸運にも『青の牙』に死人は無く、みな重症ではあるが致命傷ではないようだ。

 ⦅まぁ…… 打撃系の攻撃を受けての重傷は見た目がヒドイのだが……⦆

 正直女性メンバーには同情しかない。



「青の牙のイフト、これで自分達で出られるか?」


 イフトは『あぁ……』と返事したあとしばらく黙り、そして俺に問いかけて来る。


「なぁなんでお前は俺達を助ける? 俺達の…… いや俺の行為はマナー違反だった。 冒険者として最低の行為をした。 どれだけ罵られても良い。 だがそれ程俺はトップを取りたかった…… この結果は、まさに俺が暴走した事への天罰。 メンバーには本当に申し訳ない事をしたと思っている」


「俺の目的は『討伐スコア年間一位』では無かったから、別に横取りとかはどうでも良かったですよ…… 『俺は』ですけどね。 一部のメンバーは怒ってたけど、まぁどうでも良いです」


「…………。 そうか…… アマンダが言っていたディケムと言うのは君の事か?」


「えぇ、俺はディケムですが…… イフトさんはアマンダと知り合いなんですね」


「あぁ同郷の幼馴染なんだ。 そうか君があの…… 跳ねっ返りのアマンダ、リーラ、アメリーの三人娘をまとめたという…… 納得したよ」


 ⦅へ? なにその跳ねっ返りの三人娘って?⦆


「はは、あの三人はすぐに『牙隊』に喧嘩吹っ掛けてくるじゃじゃ馬パーティーだったからね。 その三人が組んだと聞いて驚いていたんだよ」


「なるほど………」


「本当はアマンダは俺が守りたかったんだけどね…… 今は君に託すしかない。 彼女を頼む」


 ⦅この人はアマンダに自分の力を見せるために、あんな無茶を………⦆


「年上の彼女を『俺が任されました』と言うのも違う気もしますが…… 任されました」


「ありがとう。 直ぐにアマンダに認められる男になって迎えに行く」




 そして俺達は見物人たちの声援の中【モントリューダンジョン】を後にした。



 最後にアマンダが大人気なく『へへ~ん!』とミスリルの剣をイフトに見せびらかしていた事は見なかった事にする。


 ⦅アマンダはイフトの気持ちを知らないのか?⦆


 いつも姐御肌のアマンダも妹が兄をからかうような、あんな表情もするのだなと……

 俺も笑みがこぼれた。


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