第六章57 剣技:次元斬
タンクのギルベルトとジューンの二人がゴールド・ゴーレムの敵視を取り『パリィ』の成功率も三割ほどと、なかなか良い感じに仕上がって来た。
たまに二人とも吹き飛ばされ敵視の穴が出来た時は俺がフォローすればいい。
俺は次にアタッカーの五人を呼ぶ。
「アマンダ、リーラ、アメリー、フュエ! ……⦅ミゲル⦆」
「ディ、ディケム殿! なぜ俺の名だけ声が小さいのだ!」
「いや……ミゲル。 さすがに相手はSクラスだ。 今一番死ぬ確率が高いのはお前だ、無理しない程度にガンバレ」
「し、死ぬ…… わ、わかった。 無理しない程度に頑張るとする」
正直申し訳ないが、今回のゴールド・ゴーレムでのレベル上げはベテランメンバーがメインだ。
Gクラスメンバーには、ちと荷が勝ちすぎている。
回復とバフをメインに戦闘に参加し、高レベル帯の戦闘の雰囲気だけでも感じてくれればいい。
だが、フュエ王女だけは一線で参加してもらう。
彼女の装備が特級品と言う事もあり今一番の戦力がフュエ王女だからだ。
『初心者があまり最初から強力な武器、装備を使う事はお勧めできない』と言っていたのは誰だ?
と怒られそうだが…… 成り行きと言うものもある。
俺だってこの状況は泣きたくなる。
まさかフュエ王女と冒険パーティー組んで、ダンジョン潜って、Sクラスゴーレムと戦う事になるとは思っても居なかった。
『事実は小説より奇なり』ってやつだ。
シャンポール陛下が今の状況を知ったら気を失うかもしれないな……
「アマンダ、リーラ、アメリー、フュエ! さっきアマンダがゴーレムにつけた傷はすでに回復されている。 ゴールド・ゴーレムの能力の一つだろう。 『核』が胸の中に内包されているタイプには最悪の能力だと言っても良い」
ミスリル装備をフルセット集めたいラス・カーズ将軍が一度しかチャレンジしなかった理由が頷ける。
「倒すためには今のレクランが取れる方法は二つ。 一気に倒せるだけの大ダメージを与えるか、あの回復を上回る迅速なダメージの蓄積だろう」
『でも…… 今の私達には、その両方とも出来ないと思う』
アマンダの悲観的な言葉に他の三人も頷く。
「ギルベルトとジューンは今『パリィ』を覚えている。 アマンダ、リーラ、アメリーは今から見せる技を覚えてほしい」
「あ、新しい技?」
「そう。 勇者がよく使う技『次元斬』だ」
「次元斬って………」
「次元斬は振動系の空間剣技の一つ。 極めればゴーレムの『核』を直接攻撃することも出来る!」
「ちょ、直接!!!」
「まぁすぐには無理だから最初は『次元斬』を覚えるだけだ。 だけどそれでも表面を斬るだけよりもゴーレムには有効なはずだ」
「「「はい」」」
「あ、あのディケム様! 私は何をすれば……」
「フュエはしばらく見ていてくれ『次元斬』はマナを練ってそれを『闘気』として剣に乗せて使う技だ。 アマンダ達はマナの使い方を学んでいないが感覚でそれをなんとなく知っている。 だからフュエはマナを知る事から始めてほしい。 マナの感覚がつかめたら自ずとその武器の使い方が分かるはずだ」
「は、はい!」
俺はアマンダ、リーラ、アメリーに『次元斬』を見せるために、マナを練る。
この加減が難しい。
正直言うと前世の『剣鬼』と謳われた剣技を使ってしまうと、この『魔法のミスリル剣』の実力を発揮してしまいゴーレムの『核』を斬ってしまうだろう。
『属性武器』はゴーレムに非常に有効な武器だ。
そして『核』を直接斬れる『次元斬』はゴーレムの弱点を突く技となる。
この二つを組み合わせてしまうと……
俺は程々の闘気に押さえて剣技を放つ―――!!!
『次元連斬四連撃!!!』
ズガガガガガガガガッ――――――ン!!!
『…………』 『…………』 『…………』
ゴールド・ゴーレムの頭が消し飛んでしまった……
でも大丈夫、『核』が胸の中に有ると言う事は頭は飾りだ。
それにすぐにゴーレムの回復力で生えてくるだろう。
「今のは『次元連斬四連撃』、簡単に言えば『次元斬』の斬撃を四つ飛ばしただけだ」
厳密に言えば『振動波』同士が共鳴を起こし、斬撃の数が増える程威力は倍増していくのだが…… 今はその説明は要らないだろう。
「まずは斬撃一つ『次元斬』を覚えてくれ、その先に斬撃を増やせると覚えていてくれればそれで良い」
「「はい!!!」」
『次元斬』を見たアマンダ、リーラ、アメリーは一切ためらわなくなった。
それは彼女達三人が今までにそれに近い事を感覚だけで偶然やっていたからだ。
独学でなんとなくマナを感じ、闘気に変えて偶然剣にまとわせていた。
闘気を剣に纏わせたと言えるほど良いモノでもなく、本当にお粗末なものだったのだが、感覚を知っているのと知らないのでは雲泥の差が有る。
あとは指針を示してあげれば、自分達で勝手に『次元斬』までたどり着けるだろう。
三人の顔が笑っている。
今まで漠然としていたモヤモヤが晴れ、答えまでの道筋を見つけた顔だ。
マナを見ることが出来る俺には分かる。
三人が剣に纏わす闘気の量がどんどん増している事が。
ギルベルトとジューンが『パリィ』の訓練。
アマンダ、リーラ、アメリーが『次元斬』の訓練。
そしてエラ、シャルマ、フローラ、ミゲルは回復魔法で援護している。
もうシャルマ、フローラ、ミゲル、フュエ王女は魔法不発の心配など忘れ、息を吸うように自然に回復魔法を発動している。
変異種討伐クエ、大規模討伐クエスト、ダンジョン、そしてCクラス、Bクラス、Sクラスのモンスターとの死闘。
彼女たちがこの短期間に経験した実戦は下手な冒険者の比ではない。
実戦に勝る訓練など他に無い。
貴重な経験を彼女たちはしている。
俺の前にアマンダ達三人が四苦八苦しながら『次元斬』を習得しようと励んでいる。
苦労するのも当たり前だ、『次元斬』などそんな簡単に習得出来たら勇者が怒るだろう。
だが、生死がかかったSクラスモンスターとの実戦の死闘!
その極限の緊張感が極限の集中力を実現させる。
そしてその極限の状態の中で、同じレベル帯の競うライバルがいて一緒に技を磨いている。
その異常ともいえる環境は究極の経験値バフが掛かっていると言って良い。
そしてもし……
その極限の状態の彼女らを的確に導く師がそこに居たとすれば―――
実現不可能だと思われることも、可能な事へと変異する!
ギルベルトがゴールド・ゴーレムの攻撃を『パリィ』する!
そこへアマンダが剣技を放つ―――!!!
『次元斬―――!!!』
ズガガガガガガガガッ――――――ン!!!
『…………』 『…………』 『…………』 『…………』
「やっ、やった!!! ディケムさん! やりました―――!!!」
アマンダがまるで少女のような笑顔を俺に向ける。
まだまだ威力は『次元斬』と言うにはお粗末だが、技としてはきちんと成立している。
ここまで習得できれば、時間の問題で『次元斬』を自分のモノにできるだろう。
そして競うように技を繰り出していたリーラとアメリーも『次元斬』を発動させる!
威力や出来はアマンダと同じお粗末だが、彼女たちも直ぐに自分達のモノにできるだろう。
「みんな、凄い!!!」
「アマンダもリーラもアメリーも…… ギルベルトもジューンも! 凄い!凄い!凄い!」
さっきまで絶望的な顔をしていたパーティー全員に笑顔がこぼれている。
この短期間で『レクラン』が見る見る強くなって行くのが誰が見てわかる。
そしてそれを見ていた見物ギャラリー達も騒ぎ出す。
「おいおいおい! どうなっている? レクランがどんどん進化してるぞ!」
「『次元斬』とか勇者の技じゃ無いのかよ? なんであの三人が使ってるんだよ!?」
「『パリィ』だってオレ実際に見るの初めてだぞ! 本当に狙って出来るんだな、あんな技」
「これヤバくないか!? 本当にラス・カーズ将軍以来のゴールド・ゴーレム討伐成し遂げちまうぞ!」
先ほどまでお通夜のようだった、闘技場と化したこの広場の空気が一転した!
見物人たちは驚嘆し、『ゴールド・ゴーレム討伐』という歴史的な偉業の立会人に成れる事を期待し、大声援を送り続ける!