第六章56 タンク職の高等テクニック
俺の『スイッチするぞ!』の言葉にみなオロオロしだす。
「ちょっ……ちょっと待って! ここに来て突き放すの!?」
「大丈夫。 ゴーレムの攻撃はタンクの二人が引き受ける。 自由にやってみろ」
『あ、あのっ! ディケムさん! 流石に無理です』とギルベルトとジューンが狼狽える。
「大丈夫。 二人とも自信を持て、属性有利の効果は絶大だ! そしてタンク二人なら十分戦える」
「さぁみんな準備は良いか!?」
「えっ……ウソ! ちょっとまっ――……」
「ギルベルト、ジューン。 スイッチだ!!!」
ギルベルトとジューンが反射的に前に出る―――!!!
さらに男のギルベルトがまず先に、ジューンの前に出る。
「大丈夫! ゴーレムの攻撃に風の防御は絶大だ」
俺の言葉にギルベルトが『本当に?』と言う顔をしている。
まぁ…… 先ほどの『青の牙』の惨状を見れば誰でもそうなるだろう。
人族は魔法文化が廃れていることから属性についてとても疎い。
属性有利を取る事がどれ程戦いに有利になるのか半信半疑なのだ。
ギルベルトが自殺に行くような顔でゴーレムの前に立っている。
そこへゴーレムの拳が盾ごとギルベルトを薙ぎ払う。
ガゴッオォォォ――――――ン!
ギルベルトが隔離結界に弾き飛ばされる!
「…………」 「…………」 「…………」 「ダ、ダメじゃない!!!」
全員が一斉に俺を見たが、俺は気にしない。
気にしていない俺の顔を見てみな怪訝な顔でもう一度ギルベルトを見ると――
結界に吹き飛ばされたギルベルトが直ぐに立ち上がっている。
皆が『イケる!』と言う顔でジューンを見る。
ジューンが涙目で首をフルフル横に振るが…… 皆にゴーレムの前に連れ出される。
「ちょっ……みんな待って! お願い無理、嫌ぁあああああ――……」
ガゴッオォォォ――――――ン!
ジューンが飛んでいく………
その頃にはギルベルトが戻ってきている。
ガゴッオォォォ――――――ン!
またギルベルトが飛ばされる………
だが今度は、ギルベルトは五メートルほど後ろに滑る程度で耐えた!
そして涙目のジューンも戻って来て次の攻撃に耐える。
ギルベルトとジューンが競う様にゴーレムの攻撃に慣れていく。
ガゴッオォォォ―――ン!
ドガッ―――ン!!!
二人のタンクは慣れてきた。
二人掛りならもうゴーレムの攻撃を捌く事は出来るだろう。
だがしかし。
タンク二人がゴーレムの攻撃を捌くだけならば問題無いのだが……
ゴーレムの強烈な一撃一撃が飛び交う中、アタッカーが前に出られないでいる。
ギルベルトとジューンが『ズルい! 私達も勇気出したんだから、次はみんなの番でしょ!?』と皆を睨む。
だがまぁ……
防御特化のタンクと違いアタッカーの防御装備は心もとない。
一撃食らえば致命傷になりかねない。
出られない気持ちも分からなくもない。
⦅ならば……⦆
俺は『合わせろ!』とアマンダの目を見て、『スイッチだ!』とギルベルトの前に出る。
そして―――
ズガッアアアアア―――――――――ン!!!
風を纏った盾でゴールド・ゴーレムの拳を攻撃のタイミングに合わせてはじき返す!
「え? うそ!? あのゴーレムの拳を『パリィ』した!?」
『パリィ』とは、『ジャストガード』とも呼ばれる盾技だ。
敵の物理攻撃をタイミングよく盾でブロックして、受け流しながらはじき返す。
その事により相手のバランスを崩し隙を作る! タンク職の高等技術だ。
敵の力を利用する事、攻撃後直後の硬直の隙を突く事から、敵の力が強ければ強いほどその効果を発揮する。
風を纏った盾でゴールド・ゴーレムの攻撃を『パリィ』すると――
ゴーレムが大きく後ろにのけ反り硬直する!
俺とのアイコンタクトでタイミングを待っていたアマンダが、ゴーレムに強烈な大技を繰り出す!
普通ならばあんな大ぶりの大技など簡単にかわされてしまう。
だが『パリィ』でバランスを崩し硬直している敵には当てる事は簡単だ。
ズドッオオオオオ―――――――――ン!!!
『パリィ』され、のけ反るように体制を崩したゴーレムのガラ空きの胸部にアマンダの大技がヒットする!
「おぉ!!! ゴーレムの胸に傷が!」
タンクが『パリィ』して、アタッカーが大技を叩きこむ。
これはパーティーを組んだ者達の理想の戦術であり憧れだ。
そう! 『憧れ』と言うだけあり普通は偶然に『パリィ』状態になる事は有っても、
自分から狙って『パリィ』する事は非常に難しいと言われている。
⦅俺には前世で培った技術が有るから、あまり難しい事には感じないのだが……⦆
見物人もレクランのアタッカーたちも………
俺がSクラスのゴールド・ゴーレム相手に狙って『パリィ』を決めた事を非常識だと呆れている。
だがしかし。
俺から言わせれば、これ位の事が出来なければSクラスの魔物には勝てる筈がない。
そして相手がゴールド・ゴーレムだからこそ俺はあえてやれと言っている。
ゴーレムは『作られたものだから動きにパターンが有る』からだ。
ズガッアアアアア――――ン!!!
ズガッアアアアア――――ン!!!
俺は立て続けに二度三度、狙って『パリィ』を決めて見せる。
「ギルベルト、ジューン! ゴーレムは『パリィ』の練習相手に打って付けだ。 タイミングを覚えろ」
「れ、練習相手って…… あ、相手…… ゴールド・ゴーレムですよ!」
せっかく自信を付けたはずのギルベルトとジューンが、また涙目で首をフルフル横に振りだし悲鳴を上げる。
皆もタンク二人を可愛そうな目で見ているが…… 俺は気にしない。
ズガッアアアアア――――ン!!!
ズガッアアアアア――――ン!!!
さらに見せるように俺は『パリィ』をまた二度三度決める。
そして―――
「スイッチだ!!!」
『ひぃいいいい―――!』 今度は悲鳴を上げながらもジューンが先に出る。
そしてゴーレムの拳がジューンに振り下ろされる――!
『そこだ!』俺の掛け声にジューンが盾でブロックして、受け流しながらゴーレムの拳をはじき返す!!!
ズガッアアアアア――――ン!!!
のけ反ったゴーレムの胸にアマンダが大技を繰り出す!
ズドッオオオオオ―――――――――ン!!!
ジューンの『パリィ』により、反るように体制を崩したゴーレムのガラ空きの胸部にアマンダの大技がヒットした!
「…………」 「…………」 「…………」 「…………」
『おぉぉぉぉおおおおお!!!』 レクランの皆に希望の光りが灯る。
そしてジューンが見事に『パリィ』を決めた事で今度はギルベルトに火が付く!
「よし! 次は俺の番だ!!!」
ガゴッオォォォ――――――ン!
「あ……」 「…………」 「…………」 「…………」
ギルベルトが結界に弾き飛ばされていた………
『うん』そんな簡単に習得できたら苦労しない。
それからしばらくタンクの二人はゴールド・ゴーレム相手に『パリィ』の練習をした。
ズガッアアアアア――――ン!!!
『よし!!!』
ガゴッオォォォ――――――ン!
『ぐっは………』
ギルベルトとジューンはしばらく成功・失敗を繰り返し、そこそこ『パリィ』のタイミングに慣れてきたようだ。
そろそろいい頃合だろう。