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寂滅のニルバーナ ~神に定められた『戦いの輪廻』からの解放~  作者: Shirasu
第六章 眠り姫と遠い日の約束
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第六章54 ゴーレムチャレンジの惨劇

 

 転送魔法陣が強烈な光を放ち『金色』に輝く。

 そして転送されて来たレアゴーレムの色はゴールド!

 討伐ランクSクラスのゴールド・ゴーレムがそこに立っている!!!


「おいマジかっ! そんな事が……」

「ウソだろ…… ゴールド・ゴーレムとか初めて見たぞ!」

「これが…… 英雄ラス・カーズのパーティーしか倒した事が無いという」


 見物に集まった冒険者達もみな驚きに目を見張っている。

 そして魔法陣の前に立ちチャレンジする意思を示していた『青の牙』のメンバー達は、この想定外の相手に言葉を無くしている。



 すると突然!

 ゴーレムと『青の牙』だけを隔離するように、見物の冒険者との間に結界が展開される。

 今までの(カッパー)ゴーレム、(シルバー)ゴーレムには無かったことだ。


「なっ! 防御結界だと!?」

「これは……  閉じ込められたの?」

「それも有るかもしれないが大勢での討伐、数の攻略を防いでいるのだと思う」


 突然張られた防御(隔離)結界により『青の牙』以外がゴーレムとは戦えなくなり……

 そして『青の牙』が逃げ出す事も出来なくなってしまった。




 見物人で溢れかえる広場は異常な雰囲気に包まれていた。

 多くの冒険者達が『ゴーレムチャレンジ』の大本命『ゴールド・ゴーレム』の登場に湧く。

『これを見に来たんだ!』

『良いところを見せろよ。 ガンバレ!』

『よしいけっ! やれ―――!!』

 と……無責任な見物人たちは、極上のグラディアトル大会(剣闘試合)でも見るかのように、熱狂的なエールを送り賭け事を始める始末。



 だがそんな外野の大騒ぎとは裏腹に結界内の『青の牙』の様子がおかしい……

 只々呆然と立ち尽くしている者も居れば、パニックで震え狼狽えている者も居る。

 とてもこれから『ゴーレムチャレンジ』に挑む精神状態には見えない。


『ヤバイ…… あいつ等完璧にゴールド・ゴーレムの威圧に吞まれてしまっている! このままじゃ……』

 アマンダの悲鳴に近い言葉も見物人たちのバカ騒ぎでかき消される。

 冷静に結界内の状況を把握しているのはこの広場に小数人しかいない。


 昨日までのイフトたち『青の牙』ならばこの状況にも冷静に動けたのかもしれない。

 しかし昨日彼らはゴールド・ゴーレムよりもランクが二つも低い、Bクラスのシルバー・ゴーレムに壊滅寸前まで追い込まれていた。

 自分達の力がギリギリBクラスなのだと思い知らされていた。

 それなのに今、目の前に居るゴーレムはAクラスを飛び超えてSクラス。

 さらにはAクラスからSクラスの間には途方もないレベルの差があるとも聞く。


 『青の牙』全員が絶望していた。

『AクラスならまだしもSクラスなんて勝てるはずが無い!』と……


 リーダーのイフトの口が動く、その戦意を失った無防備な様子から『降参だ!!』と叫ぼうとしたのだろう……

 しかしその瞬間っ!!!


 ドゴッ――――――ン!!!!


 降伏する暇すら与えぬ無慈悲な一撃が振るわれる。

 一瞬にしてパーティーメンバーの半分以上が結界防壁に殴り飛ばされていた。


『なっ! ウソだろ……!?』

『ひっい!』

『きゃあああああ――!!!』

 お祭り騒ぎだった見物人たちの笑顔が暗転する……

 笑い声が一転悲鳴に変わる。


 殴り飛ばされ意識を失い倒れ込んだ『青の牙』メンバーの手足があらぬ方向にひしゃげている……

 それは直視できない程の惨い光景、そして上位冒険者が一撃で戦闘不能に陥ったという絶望の光景だった。


『あぁ…… そんな…… やめてくれ……』イフトの呻く声が響く。


 理解を超えた出来事がイフトの思考を鈍らせる。

 今イフトが言わなければいけなかった言葉は、そんな言葉では無かったはずだ。


 まさに地獄絵図とはこの事だった。

 絶望の中、結界内に閉じ込められ逃げる事すら許されない『青の牙』のメンバーは次々にゴールド・ゴーレムに殴り飛ばされていく!

 そして圧倒的なレベル差の『打撃』攻撃を受けたケガ人の容態(ようだい)は見た者の心を折る。

 完全に戦意を無くした『青の牙』のメンバー達は、ただ執行される時を待つ罪人のように立ちつくし狩られていくだけだった。


 見物人で溢れかえったこの広場も、あの上位冒険パーティー『青の牙』の信じられない現状に誰も声を出せない。

 そして改めてSランクと言う最上位ランクの強さ、恐ろしさを思い知らされていた。



 そんな静まり返った広場にアマンダの声が響く。

「イフト!! 早く敗北宣言しろ。 ゴーレムとの戦闘権利を放棄しろ はやく!!!」


 だが……

 自分の自慢のパーティーメンバーが一瞬にして壊滅状態に陥ったその理解できない出来事。

 さっきまで一緒に笑い合っていた友・親友がボロ雑巾のように投げ捨てられていくその地獄の光景にイフトの心はすでに心神喪失していた。


 アマンダの声がイフトの耳には届かない――


「なにしているイフト! お前の大切な仲間が――!!! みな死んでしまう!!!」


『お前は私のようにはなるな!!!』

『失った仲間はいくら後悔しても戻ってくる事は無いのだぞ!』

 と……アマンダは自分に重ねてイフトに叫んでいるようだった。


 アマンダの悲痛な叫び、願う声だけがこの殺戮の闘技場と化した広場に響き渡る……

 だが防御結界で隔離された闘技場には誰も助けに入る事は出来ない。



 戦いの中で戦意を無くした者達の末路は決まっている。

 一方的な殺戮ショーは淡々と続いていき……


『やめろ! やめてくれ―――!!!』アマンダの叫びも届かず……


 最後まで闘技場に立っていたイフトも、最後に人形が壁に投げつけられたように軽く殴り飛ばされ結界に衝突し、捨てられた人形の様にボロボロで地面に転がった。


『た……たす…けて……くれ…』


 最後にイフトが小さく呟いた…… そしてすぐに意識を無くした。

 これで『青の牙』の全員が意識を失い戦闘不能となった。



 だがしかし……

 隔離結界が解除されない。


『おかしい……何故だ!? なぜ結界は解除されない? パーティーは全滅状態じゃないか! もうやめてくれ! 本当にもうみんな死んじまう!!!』 アマンダが叫び結界を叩く。


 しかし無情にもゴールド・ゴーレムは戦闘態勢を解除しない。

 作り物のゴーレムに感情など無い、決められた通りに動くだけだ。

 ゴーレムの戦闘を停止させる為には、何か決められたルールをクリアしない限り止まる事は無い。


 このままでは…… 意識を失い無防備に転がる『青の牙』の惨い結末が待っている。


「なぜだ!? 敗北宣言をしっかり言えなかったからか?」

「しかし、死ぬまで終われないなど聞いた事が無いぞ」

「わからない! 倒すまで終われないとか、そんな話も聞いた事は無いぞ」

「ならなぜ?」

「もしかすると…… もともとの挑戦権利者が『青の牙』では無くて『レクラン』だったんじゃないのか? それを横取りする形で入ったから……」

「そんな事…… まさか……」


 うろたえる野次馬冒険者達の声が聞こえてくる……


『ダメ! ディケム様このままじゃイフトさん殺されちゃう!』

 フュエ王女が俺に叫ぶ。


 そして冒険者達の声を聞いたフュエ王女が叫んでしまう――!

『スイッチです! レクランが戦います!!!』


 ――その瞬間!

 結界がはじけ飛び『青の牙』のメンバーが弾き出される。

 さらに俺たち以外の見物の冒険者達も弾き飛ばされる。


 そして俺達レクランだけがこの闘技場のような広場に残され……

 ゴールド・ゴーレムの前に立っている。



『えっ! うそ……』シャルマの引きつった呟きだけが広場に響き渡った。



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