第六章53 上位冒険者の強さ
ダンジョン攻略五日目。
すでに手に入れた鋼装備は六つ。
あと欲しいのは四つリーラ、ギルベルト、ミゲルの剣とギルベルトの盾だ。
今日までの効率で行けば明日には達成できる予定だったのだけど………
昨日の『青の牙』の動きからゴーレムの取り合いになるのだろう。
普通に考えれば『青の牙』の参戦はマナー違反だ。
しかし『民衆の守り手』とまで歌われるB級冒険者がプライドを捨てマナー違反を犯すのだ。
それくらい『青の牙』も切羽詰まっているのだろう。
だが俺達も――
『ゴーレムチャレンジなどしていない!』
『討伐スコア年間優勝など狙っていない!』
と公言している手前文句を言える立場でもない。
まぁ二日待てば討伐スコア争いも終わり、牙隊も落ち着くだろうから待てばいいのだが……
それほどウチのパーティー(クラン)は大人じゃないようだ。
割り込んで入って来た青の牙に『譲るなどあり得ないっ!』と張り合ってゴーレムを倒している。
冷静に考えればGランクパーティーの『レクラン』がBランクパーティーの『青の牙』と張り合うなどあり得ないと思うだろうが…… 実はそうでもない。
牙隊のパーティーも中身を見ればBクラスはリーダーだけで他のメンバーはCクラス以下だ、パーティーの総合力と実績でBクラスとなっているだけ。
そしてレクランはアマンダ、リーラ、アメリー、ジェーン、エラの五人がCクラス。
そしてゴーレムに特化しているフュエ王女と俺が居る。
シャルマ達白魔法師の後方支援系はこの程度の戦いではそれほどレベルの差は出ない。
むしろ白魔法師自体レア職になるので居るだけでアドバンテージになっている。
青の牙はゴーレム狩りを――
『たかがGランク程度のレクランが出来て青の牙が出来ないはずが無い!』
とでも思ってここに来たのだろう。
だが実際チェレンジしたもののゴーレムは予想以上に手ごわく……
結局俺達の攻略法を盗み見していたと言ったところだ。
そして今日のダンジョンは昨日とは様相をガラリと変えていた。
昨日も見学の冒険者が俺達と一緒に移動するという異常な光景だったが……
今日はさらに野次馬が増えている!
ダンジョンの通路両脇にずらりと野次馬が立ち並び道を作っている。
俺達がその間を通ると大歓声で迎えてくれる。
『なにこれ……いくら何でも野次馬多すぎない?』
さすがのアマンダも驚いている。
『昨日まではゴーレムチャレンジだけの見物人だったけど、昨日の討伐スコア年間順位でレクランがとうとう五位にまで上がって来たから、両方の話題が合わさって野次馬がさらに押し寄せたんだと思う』
アメリーが戸惑いながらも説明してくれる。
確かに『ゴーレムチャレンジ』だけでもあれほど冒険者達が興奮して見に来たのだ。
そこに『討伐スコア争い』まで合わさりさらに賭け事までかかってくるとなれば……
そりゃ楽しくて皆現場に見に来るだろう。
『お前らに賭けたぞ~! がんばれ~!』と声援が送られる人の道を通りぬけ、銅ゴーレムの設置場所にたどり着く。
見物人が溢れるその広場でゴーレムと対峙する。
まるで闘技場で戦っているようだ。
結局その日の討伐戦績は銅ゴーレム七体、銀ゴーレム一体のみとなった。
最後に湧いた銀ゴーレムを『青の牙』に横取りされた形になってしまった。
【討伐スコア年間ランキング】
残り一日
一位:『赤の牙』五五〇〇ポイント。
二位:『黒の牙』五四〇〇ポイント。
二位:『青の牙』五四〇〇ポイント。
四位:『白の牙』五〇〇〇ポイント。
五位:『レクラン』三九五〇ポイント。
『青の牙』は今日銅ゴーレム五体、銀ゴーレム一体を倒し本日のポイントは五〇〇ポイントとした。
昨日落としたポイントを補い『黒の牙』と並び同率二位に躍り出た。
『赤の牙』との差もわずか一〇〇ポイント、『青の牙』が明日も同じポイントを取る事が出来れば今期優勝は『青の牙』で決まりだろう。
だが――
『青の牙』がシルバー・ゴーレムと戦った代償は大きく、死人は出ていないようだが皆ボロボロの状態だった。
明日の最終日。今日ほどの戦績を上げられるかは、あれ程苦戦したシルバー・ゴーレムと再度戦い勝つことが条件となる。
無理をして大事にならなければいいのだが……
そしてレクランの優勝も今日で無くなった。
明日深刻なダメージを負った『青の牙』がダンジョンに来なかったとしても、
レクランのここでの平均討伐ポイントは一〇〇〇。
討伐ポイントはトータルで五〇〇〇ポイントにも満たない。
優勝ラインは五七〇〇ポイントだろう。
そして――
ダンジョン攻略六日目。
今日までの討伐ポイントで『討伐スコア年間順位』が決まる。
心情的には今日のダンジョンはお休みとして『青の牙』の邪魔にならないようにしたかったのだが……
レクランの皆は昨日のシルバー・ゴーレムを横取りされたことを根に持っているらしい。
『絶対、青の牙の好きにはさせない!』と息巻いている。
だが――
そんな皆の威勢もダンジョンに現れた『青の牙』を見た時に失せてしまった。
『青の牙』のみんな…… ボロボロだ。
言葉を無くす俺達の前を『青の牙』は通り過ぎダンジョンに黙って入って行く。
『なぜそこまでする必要がある?』と俺は口に出しかけ…… その言葉を呑み込む。
アマンダ、リーラ、アメリーの顔を見れば、それが冒険者にとってとても大切な事なのだと察したからだ。
満身創痍の『青の牙』は銅ゴーレムを三体だけ倒して、討伐の手を止め回復に励んでいる。
「『青の牙』は諦めたのかな?」
「いや違うよフュエ。 奴らがシルバー・ゴーレム狙いなのは見え見えだ。 もし『青の牙』がシルバー・ゴーレムを倒せば今日のポイントが四〇〇になり、トータル五八〇〇ポイントで優勝できるだろう。 残り少ないギリギリの力をシルバー・ゴーレムに集中して温存しているんだ。 その緻密な計算と自分達の最善を尽くす執念には脱帽させられる」
俺の話に『そうなの?』とまだピンと来ていないフュエ王女に、アマンダが付け加えて説明してくれる。
「そう! ディケムさんの言う通り。 もし『青の牙』が四〇〇ポイント取ったら、『赤の牙』が勝つには三二五ポイント取らなければならない。 でも今までの戦績を見るとこの終盤にダンジョン以外で三〇〇ポイントを超えたパーティーは見た事がない。 Bクラス以上の魔物がそうゴロゴロと王都の近くには居るはずが無いからね。 大抵はDクラスの魔物を必死に狩ってポイントを稼いでいるんだよ」
フュエ王女に説明しているアマンダの真剣な顔を見れば、
『青の牙は嫌いだが、その力と屈しない心の強さは認めざる負えない』と言っている。
そして――
俺達が銀ゴーレム一体と、銅ゴーレム七体を討伐したとき。
その時は来た。
俺達が最初のシルバー・ゴーレムと対戦したときは『青の牙』はまだ回復中だった。
しかし今度は十分に回復をし、万全の体制でシルバー・ゴーレムがポップするのを待っている。
レアゴーレムがポップするときは誰もが見て分かる特徴がある。
転送する魔法陣がその魔物のレベル、マナの大きさに合わせてより強く輝きそのゴーレムの色に合わせた色に輝くからだ。
俺達の獲物を奪うように『青の牙』が転送魔法陣の前に立つ。
そして魔法陣がより強く輝きだす!
「レアだ! シルバー・ゴーレム来るぞ――!!!」
「このゴーレム倒して俺達が優勝を頂くぞ!」
「みんな絶対死ぬなよ! 俺達なら出来る。全員揃って優勝するんだ」
強烈な光を発した魔法陣がさらに強く輝きだす。
その色は――『金色』!!!
「なっ――!!!」
「ゴ、ゴールド…… だと……」
「あ、あぁ…… そんな…… うそだろ……?」
魔法陣の前に立ちつくす『青の牙』の前に。
圧倒的強者の風格を漂わせ、討伐ランクSのゴールド・ゴーレムが現れる。