第六章52 青の牙
ダンジョン攻略四日目の朝、集合場所の王都南門へとフュエ王女を連れて向かう。
俺の半歩後ろを歩く王女が王族とは思えない奥ゆかしさを感じさせる。
だがそれは美徳として好ましく思うが疑問にも思う。
王族と言う環境でこのような性格に育つことが出来るのかと……
集合場所に着くとみなもう揃っている。
連日『牙隊』のリーダーが『討伐スコア』の件で押し掛けて来るせいで、だんだんこの『モントリューダンジョン』へ来た理由がブレてしまいそうになるが……
俺達がこのダンジョンに来る理由は、経験値を得る事と全員分の鋼装備をそろえる事だ。
決して『討伐スコア年間トップ』を狙うためではない。
現在手に入れた鋼装備が四つ。
ミゲルとアマンダのハーフプレート。
シャルマとフローラのチェーンメイルとなっている。
出来れば今日はリーラとギルベルトの防具をそろえたい。
今日も俺達はダンジョン攻略はそっちのけでゴーレム設置場所へ一直線で向かう。
すると……
たどり着いたゴーレムの設置場所には溢れんばかりの野次馬が集まっていた。
そして俺達の到着を見ると大歓声で俺達にエールをおくり出す。
『へ……? なんで?』と思ったが……
レクランは二日続けて『討伐スコア日間ランキング』で一位のスコアを叩きだした。
それだけでも注目が集まるのだが理由はそれだけでは無い。
その討伐内容も『魔法連絡網』を通してギルドのスコアボートに表示される。
『二日続けて…… ガーディアンゴーレムを十体以上倒したのか!?』
『おい嘘だろ?! その十体の中にはシルバー・ゴーレムも二体含まれてるぞ!』
『これは…… ひょっとすると、ひょっとするぞ!』
――と噂が広まってしまったようだ。
レクランの『ゴーレムチャレンジ』を一目見ようと見物人が『モントリューダンジョン』に押し寄せたと言う事だ。
⦅だから『ゴーレムチャレンジ』などしていないと言うのに……⦆
それにしてもダンジョンに入るには『一人金貨一枚』が必要だ。
金貨一枚は冒険者にとっても決して安い金額ではない。
他人の討伐を見物している場合じゃ無いと思うのだが……
だがこれは――
『ゴーレムチャレンジ』の観戦は、冒険者にとって特別な場所での娯楽イベントのようなものらしい。
ここは冒険者と言う選ばれた者しか入る事が許されない場所、その特別感がさらに楽しみを増幅させる。
見物人達は闘技場の試合でも見に来る感覚で、大金を払いここに集まってくる。
そして『ゴールドゴーレム討伐』は英雄ラス・カーズ将軍のパーティー以来成功させた冒険者は居ない。
いく度となく強者と呼ばれる冒険者達が挑み『今度こそは!』と応援したが、みな敗北していった。
そんな伝説的な『ゴールドゴーレム』をもし討伐出来たのなら、それは歴史的な快挙となる。
『その歴史的快挙の瞬間に立ち会いたい!』と冒険者達が集まって来るのは必定だろう。
この『ゴーレムチャレンジ』の見物は、ここ『モントリューダンジョン』のいわば風物詩のようなものだ。
「みんな、いつも通りだ! 野次馬が多いが気にするな。 見られている緊張でリズムを崩すと危険だぞ」
「「「「はい!」」」」
野次馬が多い事はやりにくいが訓練としては悪くない。
いかなる状況にも冷静でいられる『胆力』を鍛えられるからだ。
そんな状況にも、やはり強さを発揮するのは強靭な『胆力』を持つフュエ王女だ。
野次馬など何処にも居ないかのように、いつも通りゴーレムに向かってゆく!
だが俺は――
この頃少しフュエ王女は『胆力』が有るのではなく『本当は【天然】なのではないか?』と心配になる事がある……
まぁしかし、戦闘で役に立っているから気にしない事にしている。
フュエ王女がいつもの様にゴーレムが立ち上がる前に懐に滑り込み『核』へメイスを叩きつけ大ダメージを与える!
ゴーレムが立ち上がったところでアメリーの魔法と弓攻撃。
『核』を守ろうとゴーレムが腕を上げたところで、一斉攻撃で足を粉砕。
倒れ込むゴーレムの『核』をアマンダが破壊する!
その無駄の無い流れるような一連の動きを見て、野次馬達は『おぉぉぉおおおおお!!!』と驚きの声を上げている。
俺達が次のゴーレムに向かって移動しだすと野次馬達も一緒に移動する。
『オィオィ……』とは思ったが、おかげで雑魚との戦闘に煩わされる事も無くなった。
『もう気にしても仕方がない』と俺達は割り切りこの異常な状況を楽しむ事にした。
二体目の銅ゴーレムも問題無くいつも通り倒したが――
俺は群衆の中に殺気を持った一団が居る事が気になっていた。
この一団は一体目のゴーレムから俺達を見ている。
『どうしたの?』と俺の様子が気になったアマンダが聞いてくる。
「あの一団、アマンダは知っているか?」
「ん? あれは―― 『青の牙』じゃないか! リーダーの『イフト』までいる」
「ほぉ~。 でも牙隊って俺達を勝手にライバル視して、みんな一生懸命『討伐ポイント』稼いでいるんじゃないのか?」
「そう思ったんだけど…… なぜか野次馬と一緒に私達を見ているね」
『討伐スコア年間ランキング』優勝を狙い、今頃方々で必死にポイント稼ぎをしているはずの牙隊の一つ『青の牙』がなぜか俺達をずっと見ている。
殺気立っている事から、他の野次馬と同じように俺達を見て楽しんでいるようには思えないが……
「なぁアマンダ。 そのイフトとかって知り合いなのだろ? 話しかけないのか?」
「いや…… 私はあのイフトが苦手でね。 関わり合いたくない」
アマンダが露骨に嫌な顔をしたので『そうか……』とそれ以上聞くのは止めにした。
まぁさすがに襲われる事は無いだろうから、とりあえずは放っておくことにする。
結局この日は一日中ギャラリーに囲まれての討伐となったが――
戦績はいつも通り銅ゴーレム一〇体、銀ゴーレム二体だった。
目標にしていたリーラとギルベルトの鋼防具も無事に手に入れることが出来、上出来の一日と言える。
本日の目標を達成した事で『討伐スコア』に執着していない俺達は、今日のダンジョン攻略を止めとする。
ギャラリーは『まだ時間あるのに……』と残念がるが俺達はGランクの初心者だ。 無理はしない。
早々に切り上げ一階層まで戻ってくると……
俺達が最初に討伐した銅ゴーレムの場所に新たな銅ゴーレムがポップしていた。
そして……
驚く事にそのゴーレムに『青の牙』が仕掛けている!
その様子を見て見ると俺達の攻撃パターンをそのまま丸パクリしている。
『これは……』と俺が呟くと。
『イフトのやつ…… 一日中私達の戦闘を観察して攻略方法をパクりやがった!』
とアマンダが悪態をつく。
『だからアイツは好きになれないんだ!』とブツブツ怒っている……
だが俺はその事については正直どうでも良い。
他人の戦闘方法を見て真似る事は常套手段だ。
怒るほどの事ではない。
それに…… 真似てはいるが決して同じ練度ではない。
そんな『青の牙』の頼りない攻略に、俺は『ケガだけはしないように』と祈っておいた。
ただ俺も少しも懸念が無い訳では無い……
この状況からすると明日から『青の牙』もゴーレム狩りをするのだろう。
だとするとゴーレムの取り合いとなり、俺達の攻略の効率が落ちる事になる。
⦅鋼装備落とすシルバー・ゴーレムは譲ってほしいな~⦆
そんな事を想いつつ、俺達は『モントリューダンジョン』を後にした。
【討伐スコア年間ランキング】
残り二日
一位:『赤の牙』五三〇〇ポイント。
二位:『黒の牙』五二〇〇イント。
三位:『青の牙』四九〇〇ポイント。
四位:『白の牙』四八〇〇ポイント。
五位:『レクラン』三三五〇ポイント。
この日の『青の牙』は、銅ゴーレム一体のみの討伐。
討伐スコアは五〇ポイントだけだった。
この『討伐スコア年間優勝』を決める直前の大切な一日。
この日『青の牙』がたった五〇ポイントで終えた事に、『青の牙』に賭けていた冒険者達は失望の色を隠せなかった。
だがしかし『スコアボード』の表示を見た他の牙隊の隊長たち、
ダーヴィヒ、フィーカ、ヴァンは目を見張っている。
スコアボードに流れる――
【『青の牙』:モントリューダンジョン、ガーディアン銅ゴーレムCクラス討伐】
この言葉の意味を理解し苦い顔をしていた。
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【討伐スコア点数】
Dクラス討伐:25
Cクラス討伐:50
Bクラス討伐:250
Aクラス討伐:500
Sクラス討伐:2500
SSクラス討伐:????
C~B、A~Sランクの間には、大きな差異がある。
クラス分けの基準となる討伐する魔物の強さが格段に上がるからだ。
※この点数は、討伐依頼の報奨金の額をそのまま点数としている。