第六章51 赤の牙
翌日、ダンジョン攻略三日目。
今日もレクランは『モントリューダンジョン』へと潜る。
目指すはガーディアンゴーレム!
俺達はダンジョン攻略はそっちのけでゴーレム設置場所へ一直線で向かう。
カッパーゴーレムへとたどり着けば、フュエ王女は一拍の間も開けずすぐさま仕掛ける!
他の皆もフュエ王女に続き、一切の躊躇もなく流れのままにゴーレムに仕掛けて行く!
みなの動きが良い!
昨日格上のシルバーゴーレムBランクと戦ったおかげだろう。
ゴーレムが立ち上がる前にフュエ王女が『格』へ大ダメージを与える。
ゴーレムが立ち上がったところでアメリーの魔法と弓攻撃。
『格』を守ろうとゴーレムが腕を上げたところで一斉攻撃で足を粉砕。
倒れ込むゴーレムの『格』を破壊。
パターン通りに流れるようなチームワークで難なくカッパーゴーレム一体目を粉砕した。
『はやっ!』 『マ、マジかっ!』 『うそだろ?』
俺達を囲むように戦いを見ていた野次馬達のつぶやきが聞こえてくる。
野次馬達は、
『今日もそろそろレクランが来るだろ』
『ゴーレム倒してくれれば近道が開通する』
『ついでにどんなものか、お手並みでも拝見しておこう』
『さすがに相手はゴーレム、多少は苦労するんじゃないか?』
――と、冷やかし半分で見ていたようだ。
そんな冒険者達の上から目線の予想をレクランは圧倒する。
今日のレクランは特に熟練組の動きが良い。
昨日『白の牙』のフィーカから聞いた『討伐スコア年間優勝』でも意識しているのだろうか。
続けて二階層もゴーレム設置場所へ一直線。
ここにも俺達の到着を待っている野次馬共が居る。
俺達を近道を開通させてくれる便利屋とでも思っているのだろうか?
少し悔しい気持ちもあるがフュエ王女は一切のためらいもなく、カッパーゴーレムのそばへ滑り込み回転しながら遠心力を利用して『格』へ一撃を与える。
バキッ―――ン!!!!
その踊るような華麗な身のこなしに辺りから感嘆のため息が聞こえてくる。
そしてフュエ王女の後に直ぐアマンダとリーラが追撃し攻撃の流れを繋でいく。
その後はギルベルトとジューン!
そしてアメリーとフローラも後方から攻撃を繋いでいく。
レクラン全員が己の役割分担を理解し、絶え間なくゴーレムへの攻撃を紡いでいった。
一切無駄のないレクランの攻撃の前に――
ゴーレムは何も出来ないまま消滅していった。
そして今日はシルバーゴーレムとの戦闘も危なげない。
時間はかかるものの、レクランの誰もが自分達の勝利を疑わない。
見ている野次馬冒険者達も……
『これ本当にお買い損と悪名高いシルバー・ゴーレムなのか?』
『本当は弱いんじゃないのか?』
『俺達も簡単に倒せるんじゃね?』
――と俺達が沸かしたシルバーゴーレムに、ルールを破り挑みかかり返り討ちにあっていた。
終わって見れば今日のレクランの戦績は――
『カッパーゴーレム十一体』
『シルバーゴーレム二体』
と、まずまずの戦績で終わった。
「ダンジョン攻略三日目、お疲れさまでした――――!!」
「「「「お疲れ様~~~!」」」」
今日も『とまり木』で反省会という名の打ち上げをする。
そして今日もダーヴィヒがいる。
そして何故か『白い牙』のフィーカも居る。
「あんたら…… 本当に今日も一〇五〇ポイントも稼いじゃったのね!?」
「ん??? 私達は討伐スコア年間ランキングなんか興味ないから勝手にやっててよ」
シャルマの返答にフィーカが目を白黒させている。
『冒険者で討伐スコア興味ない奴なんか居るの?』と言った顔だ。
さすがシャルマ、B級冒険者の大先輩に臆面も無く言い切る所が凄い。
すると突然『とまり木』にざわめきが起こる。
そして俺達も皆につられて入り口を見ると、体に不釣り合いな鋼の大剣を持った男が立っている。
その男は挑発するように俺達レクランを見ている。
「やっぱり来たか…… ヴァン!」
フィーカが『ヴァン』と呼ぶ男。
民衆の守り手、四つの牙隊の一つ『赤の牙』のリーダーだと言う。
そして……
そのヴァンがダーヴィヒとフィーカに叫ぶ!
「ダーヴィヒとフィーカが居ると言う事は…… やっぱりいかさまでもしてやがったか!!!」
「はぁ? ヴァン! 言いがかりも良いところだね。 このフィーカ様にケンカでも売ってるのかい?」
酒場のど真ん中でフィーカとヴァンが睨み合う。
民衆の守り手、牙隊のリーダー同士の睨み合いに客たちは騒然としている。
「フン。 この時期に突然異常なスコア叩きだすパーティーが現れて『黒の牙』と『白の牙』のリーダーが仲良く飲んでれば誰だっておかしいと思うだろう? 『レクラン』とか言うのはお前たちのいかさまパーティー名なのか?」
「はぁ~~~ん!? あんた失礼じゃない。 ウチはれっきとした新規のパーティーよ!」
ヴァンの物言いに今度はシャルマが白熱する!
『ヴァン』『フィーカ』『シャルマ』の三人が酒場の真ん中で睨み合っている。
『とまり木』のお客たちが固唾を呑んでこの状況を見守っている。
⦅シャルマ、お前凄いな……⦆
三人が睨み合い三竦みの状態が続くと思われた時、展開は思わぬ方向に動いた。
シャルマを睨みつけるヴァンの視線の先にフュエ王女が映る……
すると突然!
『なっ!』とヴァンの目がフュエ王女のメイスに釘付けとなる!
――そして!
『お前! そこの女! そのメイスを俺に見せろ』
ヴァンが突如フュエ王女の側まで駆け寄る。
『イヤッ――!』
ヴァンのあまりの強引さと迫力にフュエ王女が大切なものを守るようにメイスを抱え込む。
そのフュエ王女の腕をヴァンが強引に掴もうとしたとき―――
「それはダメだ」
「ッ――なっ!」
俺の剣がヴァンの喉元に当てられる。
そして俺は殺気をヴァンだけでなく酒場の客全員に叩きつける!
「…………」 「…………」 「…………」 「…………」
一瞬で酒場の音が消える。
「人には身の程と言うものが有る。 それ以上立ち入る事は許さない」
「あ……… あぁ………」
『わ、わかった……』と首を小さく縦に振るヴァンの額からは、見る見る汗がしたたり落ちる。
音の消えた酒場に『キンッ!!』と俺が剣を鞘に納める音だけが響く。
そして俺はフュエ王女の隣に座り直し食事を再開する。
殺気に当てられ誰もが動けなくなった無音の酒場で、辛うじてダーヴィヒだけが動き出す。
そしてヴァンの元にたどり着く。
「さぁヴァン! 一緒に飲もう。 『レクラン』はれっきとした新しいパーティーだ。 アマンダ、リーラ、アメリー達が初めて組んだんだ一緒に祝ってやってくれ!」
ダーヴィヒの言葉で止まった時が動き出したように酒場に音が戻る。
そして『あ、あぁ……』とヴァンも頷き席におとなしく座り酒を飲みだした。
酒が入れば結局冒険者は皆同じだ。
さっきまでの喧嘩腰は何処へやら?
俺とのやり取りも全て忘れたように『黒の牙』『白の牙』『赤の牙』のリーダーは肩を叩き合い騒ぎ倒していた。
だが……
いくら酒に酔ったとしてもこの日、フュエ王女に触れようとする者は誰一人として居なかった。
【討伐スコア年間ランキング】
残り三日
一位:『赤の牙』五一〇〇ポイント。
二位:『黒の牙』五〇〇〇ポイント。
三位:『青の牙』四八五〇ポイント。
四位:『白の牙』四六〇〇ポイント。
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十一位:『レクラン』二三五〇ポイント。
【討伐スコア点数】
Dクラス討伐:25
Cクラス討伐:50
Bクラス討伐:250
Aクラス討伐:500
Sクラス討伐:2500
SSクラス討伐:????
C~B、A~Sランクの間には、大きな差異がある。
クラス分けの基準となる討伐する魔物の強さが格段に上がるからだ。
※この点数は討伐依頼の報奨金の額をそのまま点数としている。