第六章50 討伐スコア年間ランキング
「いや~そんな事でフィーカがお前達に世話になったから奢りたいと言い出してな。 ここに来てみたんだ」
⦅俺達の知らないところで行われていた賭けで『世話になった』と言われてもな……⦆
「ダーヴィヒに言われたから来てみたが…… 本当に会えてよかった。 アマンダ、リーラ、アメリーも元気そうで何よりだ。 噂でアマンダとリーラは大怪我を負ったと聞いて心配していたんだ」
そう言いフィーカは二人をギュッと抱きしめ、二人の失った仲間たちに冥福を祈っていた。
フィーカがアマンダとリーラと話を終え、一度だけ俺とフュエ王女を見る。
そして……
「お礼をしに来たのも本当だけど、忠告もしに来たんだよ」
「忠告?」
「あぁ。 ちょっと信じられないスコアだったから見に来たのだけれど…… その机の上に転がるクリスタルを見たら認めざるを得ないからね」
⦅………………⦆
「今月はこの国の節目の月。 来月からは魔法学校だの戦士学校だのが始まり、それを中心に国の行事も商業も動き出す。 商業が動き出せば冒険者の仕事も増える。 だから今月が一年の締めくくり【討伐スコア年間ランキング】の決定月になる」
「………」 「………」 「………」 「………」
正直…… 今まで討伐スコアすら知らなかった俺達Gクラスメンバーは『だからなに?』と言う感じだ。
だがアマンダ、リーラ、アメリー達熟練冒険者達は『まさか!?』と言う顔をしている。
「そぅアマンダ。 アンタ達がもしこのまま今日の勢いでポイントを稼ぐ事が出来たとしたら…… 一気に優勝候補の一角に躍り出る!」
『うそ……』とリーラの顔が見る見る高揚していく。
結成したてのレクランがそんなランキングを狙える可能性があるとは、少しも考えられなかったようだ。
この【討伐スコア年間ランキング】で自分のパーティーが上位に入る事は冒険者の夢。
一位など夢のまた夢なのだそうだ。
毎年上位は『黒』『白』『赤』『青』の四つの牙隊で争われているらしい。
それをアマンダ達Cクラス冒険者が追いかける構図。
だがCクラスとBクラスの間には途方もない壁、冒険者としての格の違いがある。
アマンダ、リーラ、アメリー達は『いつか超えてやる!』と目標にしていたと言う。
『いまのトップのスコアは――』とフィーカが説明してくれる。
『白の牙』が四四〇〇ポイント。
『黒の牙』が四八〇〇ポイント。
『赤の牙』が四九〇〇ポイント。
『青の牙』が四七五〇ポイント。
と、例年通り結構みな接戦みたいだ。
「そしてアンタらレクランのポイントが一三〇〇ポイント」
『へ……? それだけ?』とリーラが項垂れてへこんでしまった。
しかしアマンダは目を見張っている。
そう、今日一日で俺達は一〇〇〇ポイント稼いでいる。
今期のランキングの締めは四日後だと言う。
魔法学校が始まるまであと半月ほど日にちがあるのだが、さすがに冒険者も直前は準備で忙しくなるらしい。
レクランがもし毎日、四日間一〇〇〇ポイント稼ぐ事が出来たら、四〇〇〇ポイント。
今のポイントと合算すると―― 五三〇〇ポイント!
牙隊のパーティーが一日に稼げるポイントは一〇〇~二〇〇ポイントとすると……
優勝ラインは五五〇〇ポイント前後。
ウチも十分トップを狙える!
「そう…… 今年の優勝ラインは五五〇〇ポイント前後だろう。 そしてアンタらがどんな仕掛けを使ってるか分からないけど、今まで『ゴーレムチャレンジ』だってこの短期間にこれだけ狩ったパーティーなんか聞いた事が無い。 少なくとも私たち牙隊の四パーティーには無理。 本当にこれからも今日くらいゴーレムを狩れるとしたら…… 十分レクランの優勝も考えられる」
レクランのベテラン勢が皆色めき立つ!
「忠告ってのは、もし明日以降も今日と同じポイント稼げたとしたら…… 私は構わないけど他の牙隊『赤の牙』と『青の牙』がアンタらに挨拶来るだろうと思ってね。 あいつらの今期優勝に賭ける熱は異常だったからね」
「今期は何か有るのですか?」
「あぁ…… 今期の年間ランキング優勝賞品が『ミスリルの剣』だからだよ」
『ミスリルの剣!!!』 アマンダ達の驚きが伝わってくる。
「今年は人族が滅亡寸前から、現在の強種族とまで言われるようになった転換期『アルザスの奇蹟』戦役から五年と言う区切りの年になる。 だから景気づけに特別な景品が用意されたのさ」
ミスリル装備か……
たしかに『白の牙』フィーカの装備も、『黒の牙』ダーヴィヒの装備も『鋼装備』だ。
人族冒険者唯一のSクラスのラス・カーズ将軍ですらミスリル装備はフルセット持っていない。
『ミスリル装備』は冒険者にとって特別、憧れなのだろう。
それにしても……
フル装備は無いにしても『民衆の守り手、牙隊』とまで言われているのならミスリル装備の一個や二個は持っていて欲しい。
などと、冒険者事情に疎い俺は思ってしまったが……
『民衆の守り手、牙隊』はBクラスパーティー。
ミスリル装備はAクラス冒険者の証なのかもしれない。
だからこそ、Aクラスに憧れる彼らは『ミスリル』に異常なこだわりを持つのだろう。
CクラスとBクラス、アマンダとダーヴィヒの間には高い壁が有るように。
Bクラスのダーヴィヒ達には、Aクラスの壁が途方もなく高いようだ。
だから誰が先にAクラスに上がれるか競っているのだろう。
そんな緊張する話が終われば……
『この話はここまで!』とみな無礼講で騒ぎ出す。
今日はフィーカも加わり、いつものように楽しいひと時を過ごした。
この気持ちの切り替えが早い所が冒険者達の美徳の一つだろう。
反省会と言う名の打ち上げが終われば、いつも通り俺はフュエ王女を王宮の寝室に送りとどける。
「それではディケム様、今日もありがとうございました。 おやすみなさいませ」
「はい。フュエ王女もゆっくりとお休みになってください」
フュエ王女と挨拶を済ませた後エメリー、ジェーン、エマと少し話しをする。
「フュエ王女のお世話は良いのか?」
「はい。 私達は側仕えも致しますがその本分は護衛。 王宮内では身の回りのお世話は専属が居ますので」
「なるほど。 それで聞きたい事と言うのは?」
「はい。 ソーテルヌ公爵様は『討伐スコア年間優勝』は狙われるのですか?」
「なんだエメリー狙いたいのか?」
「狙いたく無いと言えば…… ウソになります」
「それを聞いて悪いが…… 狙う気はない。 俺の任務はフュエ王女の護衛と教育。 あまり目立ちたくない」
「もう…… 手遅れのような気もしますが」
⦅うぐっ………⦆
「まぁいい…… このまま何も起こらなければレクランは五三〇〇ポイント届かないくらいで終わるだろう。 頑張っても一位にはなれない」
「その物言いは何か起こるかもしれないのですか?」
「…………。 何かを期待している顔だな。 あり得ないとは思うが可能性としては金ゴーレムがポップして…… もし倒すことが出来たら優勝できるだろうな」
「ゴールドゴーレム…… ですか」
「安心しろ。 Sクラスモンスターにフュエ王女を挑ませる気など無い。 もし湧いたとしても戦う気など無い」
『かしこまりました』とエメリー達も引き下がる。
さすがにエメリー達も『討伐スコア年間優勝』よりも、フュエ王女の方が大事だと言う事だ。