第六章48 シルバー・ゴーレム
ほぼ一人舞台でゴーレム(銅)を倒してしまったフュエ王女に皆が唖然としている。
「装備で…… これほど強さって変わるの?」
「いや…… これは異常だろう。 体の使い方を見ればクレリックがフュエの天職なのだろうけど、いくらミスリルの武器を使おうと今までのフュエのレベルから見て、ゴーレムの足を一撃で粉砕出来るとは思えない」
アマンダとシャルマが俺の顔を見るが……
俺は目を逸らす……
⦅皆はフュエ王女のメイスをただのミスリルの武器だと思っている。 敵の弱点属性を突いた攻撃威力は絶大だ⦆
ただ…… これは少しやってしまった感が有る。
フュエ王女自身の強さはあまり変わっていない。
クレリックが適正職だった事と自信を持つ事で、多少の強さは上がっているのだろうが……
本来の自分の力を過信してはいけない。
そして…… パーティーからの過度の期待が負担にならなければいいが。
まぁ、王女が冒険の前線に出る事自体が異例な事だ。
あまりこの事は気にするのはやめておこう。
フュエ王女が満面の笑みで俺の所に走ってくる。
今の戦いを見ていなかったら、誰もこの可憐な少女がゴーレムを砕いたとは思うまい。
「ディケム様! わたし頑張りましたぁ!」
「はい、よく頑張りました。 凄かったですよフュエ」
俺が褒めると『えへ♪』と嬉しそうにハニカム。
その後はシャルマ、フローラの所に走って行きキャーキャー女子トークを始めている。
調子に乗り過信した様子はない、これなら大丈夫だろう。
しかし…… 王女がこれ程強くなるとそれを守る王国騎士は大変そうだな。
『ミゲルがんばれ!』と俺は小さくつぶやく。
一階層のゴーレムを瞬殺した俺達は直ぐに二階層のゴーレムへと向かう。
二階層には二体のゴーレムが居る。
ゴーレムが起動し立ち上がる前に、フュエ王女が一気にゴーレムの懐に滑り込み『核』に連撃を入れる。
さすがにそれで倒すことは出来ないが、あとはいつものパターンにハメるだけだ。
だが……
最初のフュエ王女の連撃で『核』に相当ダメージが入っていたのだろう。
よろけたゴーレムは皆の一斉攻撃で呆気なく崩れ去った。
このパターンで二階層のゴーレムを二体倒し三階層に進む。
この【モントリューダンジョン】は一階層から三階層までは、低級のモンスターしか出てこない。
『スライム』『大コウモリ』『大ガエル』が中心だ、レクランメンバーならば何の問題もない。
だがシャルマ、フローラ、ミゲル、フュエ王女は初心者。
彼女たちだけでモンスターを倒し経験を積んでもらう。
フュエ王女は過剰戦力だが中身は初心者。
経験を積んでほしいから複数出てくるモンスターの一匹だけを担当する事にした。
三階層にはゴーレムは二体。
これもいつものパターンにハメて撃破。四階層へと進む。
四階層からは『毒』を持つモンスターが出てくる。
『毒ガエル』『オオトカゲ』だ。
強さ的には三階層までのモンスターよりやや強くなった程度。
だがこの階層で『状態異常』の怖さをフュエ王女達には勉強してもらう。
そして毒攻撃への対処法、食らったときの解除などを教え込む。
フュエ王女は八属性装備の『精霊ルナの加護』によりステータス異常にかからないため。
主に毒にかかるのはミゲルの役目だ。
毒に侵され苦しむミゲルの顔を見て……
『ヤバイわね、あれは』
『ひぃぃぃカエルとかトカゲ無理』
『やだ、ミゲルが泡吹いてますわよ』
『ちょっと早くしないとミゲルが……』
とキャーキャー女子トークを繰り広げている。
ミゲルが気の毒で仕方ない。
そして五階層のゴーレム設置場所にたどり着いたとき……
そこには銀色に輝くゴーレムが居た!
いつものパターン通り、フュエ王女がゴーレムが起動し立ち上がる前に一気に『核』にダメージを叩きこむ!
銀ゴーレムの動きは銅ゴーレムと変わらない。
「よし、いつも通りのパターンで行ってみよう!」
「「「はい」」」
俺がタンクとして、銀ゴーレムの敵視を取り攻撃を盾で受ける。
攻撃の重さは五割増し程。
そして先ほどからアマンダ達の攻撃を見ているが……
防御力も五割増しって感じだろう、ならば体力も五割増しなのだろう。
銀ゴーレムの討伐レベルはBクラス。
アマンダ達Cクラスの冒険者には、パーティーで挑んでギリギリ勝てるかどうかのレベル。
だがゴーレムは普通のBクラスモンスターよりも格段に難しい、お買い損と言うやつだ。
⦅おもしろい戦いになりそうだ⦆
いつものパターン通り、アメリーが魔法と弓でゴーレムの頭にある『核』を狙い、ゴーレムが『核』を守る為に手を上げたところで皆が一斉に足へと攻撃を仕掛ける。
だが、格下のアマンダ達の攻撃では銀ゴーレムはひるまない。
そして次の変化が訪れる。
銀ゴーレムの脇からもう一本の腕が生えてくる。
ゴーレムの腕が計四本になる。
『なっ! ウソだろ!』リーラが唸る。
銀ゴーレムは二本の腕で『核』を守り、二本の腕で自由に攻撃してくる。
今まで『核』を狙う事で、ゴーレムの攻撃を封じて来たレクランメンバーはたじろぐ。
この巨体から繰り出される攻撃を一度でも食らえば、戦闘不能に陥る事は確実だ。
基本はタンクの俺がゴーレムの攻撃を引き受けているが、どうしても近接攻撃するときは攻撃を受けるリスクは出てくる。
格上の相手と対峙し、皆たじろぎ動きが止まってしまった。
そんな中、俺は一人でゴーレムの攻撃をひたすら盾で受け止める。
ガゴォ―――ン!!!
ガッツ―――ン!!!
ドガォ―――ン!!!
ゴーレムの拳と俺の盾がぶつかり合う音だけがダンジョンに鳴り響く。
冒険者達は王国騎士とは違う、他人を守る為に命を懸けて戦う事は基本しない。
格上の相手と対峙したとき『勝てない!』と判断したとき――
冒険者は自分の身を護るため一気に引く事を考える。
戦う思考は停止し動きが鈍くなる。
その壁こそが冒険者がAクラス(勇者・英雄)までなかなか上がれない理由でもある。
自分を守るより、他人を守る事の方が何倍も難しいからだ。
⦅さぁアマンダ、リーラどうする? お前達はその壁を越えられるか?⦆
皆が思考停止しているそんな中、一つの影が皆の前に躍り出る。
その圧倒的スピードでゴーレムの攻撃を軽くかわし、懐に滑り込み、その勢いのまま流れるようにゴーレムの足にメイスをフルスイングする。
ガゴォ―――――ン!!!
銀ゴーレムの足は流石に砕けないが、少しよろける。
フュエ王女の攻撃を嫌がったゴーレムはフュエ王女に襲い掛かるが、素早い動きでフュエ王女は攻撃をかいくぐり、またフルスイングでメイスを足に叩き込む。
まるで踊るように攻撃を避け、回転しながらフルスイングでメイスを叩きこむ。
俺ですらその流れるような華麗な動きに見入ってしまいそうだ。
やはりフュエ王女の最大の武器は『胆力』だ!
『胆力』があのゴーレムの懐に入り込んでの踊るような動きを可能にしているのだろう。
少しでも気負いすれば…… 一瞬でゴーレムの腕に押しつぶされる。
普通は怖くてゴーレムの懐には入れない。
⦅まぁ……八属性オリハルコン装備が有るから、俺は安心して見ているのだけどね⦆
唖然と見ていたアマンダ達が気合を入れ直して動き出す。
冒険者は他人の為にはあまり動かないが、仲間の為ならば強敵に立ち向かえる!
このダンジョンに来たのは、フュエ王女達のレベルアップの為だけじゃない。
Cクラスのアマンダ達も、もう一段上に登って欲しいと思ったからだ。
皆はゴーレムをお買い損だと戦いたがらないが…… 俺はそうは思わない。
このゴーレムは必ず同じ場所に湧いてくれる。
これほど効率よく強敵と戦える場所、訓練出来る場所は他になかなか無いと俺は思っている。
⦅冒険者達をソーテルヌ邸に呼ぶ事は出来ないからね⦆
フュエ王女の攻撃に合わせアマンダとリーラも攻撃を仕掛ける。
ゴーレムの攻撃はほとんど俺が受け止めていたが、俺の隣にタンク職のギルベルトとジューンが並ぶ。
シャルマ、フローラ、エラが支援魔法を皆にかける。
アメリーは黒魔法と弓で『核』を狙い、ゴーレムの動きをかく乱する。
そしてミゲルも必死にアマンダの後ろから攻撃をしている。
このパーティーはもう大丈夫だ。
フュエ王女の困難に立ち向かう勇気がみなに伝染していった。
そして――
勢いに乗れれば結局はいつもと同じパターンだ。
フュエ王女の一撃で『核』は砕け散り、銀ゴーレムは崩れ去った。